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造船資料保存活動の 趣意ならびに基本方針

平成23年4月21日

日本船舶海洋工学会 関西支部
造船資料保存委員会

1.(保存活動開始の趣意) 

  我が国現代の造船技術は幕末・明治期に欧米方式を導入してスタートして以来先人の叡智と努力により著しい進歩と様々な変遷を遂げてきた。 特に近年は周辺技術の進歩にしたがって急速に変化し、とりわけ電子計算機の発展により劇的な変化を遂げている。 あらゆる工程が従来の手作業を中心とした手法から電子計算機による手法に移行し、使用されなくなった在来手法、用具類は忘れ去られる危機に瀕している。
  理論分野については各種論文集や出版物により記録保存がなされ将来とも検索が可能な状態にあると考えてよいが、特に設計、工作、試運転などの実際に船を作り上げる実務段階の手法、用具類は急速に失われようとしている。
  これらの変遷の状況を記録に残し、かつ用具・原図などについて実物を保存することは技術史、文化史的観点から極めて有益であると考えられる。またある意味ではその変遷を身をもって経験してきた世代の義務であるとも思われる。すでに遅いかもしれないが、散逸、滅失してしまう前に、また経験した当事者が健在な間に、この作業を行い後世に引き継ぐ決意をしたものである。
  既に一部の事物については個別企業のPRの一環として収集され一般向けに展示されているものもあるが、造船技術全般について客観的かつ系統的な保存活動は行われていないように思われる。
  斯かる情況に鑑み、日本船舶海洋工学会関西支部では、このような活動も学会活動の一環であるとの認識に立ち保存に関する委員会を設置して学問的見地から保存活動を開始することになった。


2.(保存構想)

  造船技術の発展過程を系統的に把握出来るように資料を収集、整理し保存する。 資料の収集は、団体あるいは個人の所有するもので所有者が提供可能なものの提供を受けて行う。
  用具類については使用方法のほか背景となる理論など学術的な解説を付して展示する。 必要に応じ現場調査や、作業・資料の映像による記録採取等も行う。
  理論的背景の解説や考察の適正さを保証するため保存委員会に学識経験者群を設ける。 更に展示のみに留まらず、技術研究者が容易にその資料・現物に接し、要すれば以前の考え方や手法を追体験することも可能な体制と施設の整備を指向し、それらを通じて造船技術の継続的発展に寄与することを目指す。
  展示は一般市民への公開も行い、海事思想普及の一助とする。 記録、展示、情報の発信に就いては各種媒体の活用を図る。


3.(保存対象)

  保存対象は造船に関連する事物を中心とするが、収集の過程で提供を受けた或は見付かった造船関係以外の海事関係資料・事物についても同様に扱う。
  ただし活動の着手順序として、当面は造船設計技術関係を主対象とする。 保存対象とするか否かの判定は保存委員会で行う。


4.(保存・展示場所)

  現時点では神戸大学大学院海事科学研究科海事博物館(以下博物館)(館長 : 石田憲治教授)とする。
理由は下記による。
(1)「昭和造船史」第2巻658頁に記載の通り我国に数少ない海事関係の博物館として認知されている。
(2)造船港湾都市神戸の学術施設にこのような資料が保存・展示されることは一般への開示の観点からも
   極めて好都合である。

  蒐集物の所有に関しては提供者並びに博物館と学会との間で協議決定する。 蒐集物の分類、解説の作成などは保存委員会で立案する。 提供者の指示する事項について守秘義務を負う。 将来の展示方法などは蒐集の結果を見て関係者間で協議する。

                                                         以上


[参 考]   蒐集対象の具体例

1. 資料、用具類
  当面は 造船設計の資料、用具などを中心に考えるが固執はしない。
  生産技術、現場工作、教育関係についても対象とする。
   ・ 曲線の描き方、面積やモーメントの算定法や道具
      バッテン、同押さえウエイト、雲形定規、自在定規、プラニメータ、インテグレータ、インテグラフ 等
   ・ 計算尺、計算機などの計算道具
      円筒型、直線型、円形など各種計算尺、算盤、タイガー計算機、電動計算機、リレー式計算機 等
   ・ 製図用紙、製図道具、コピー道具、文書作成道具
      各種原紙(トレーシングペーパー、クロス、ケント紙など)、各種第二原紙、
      製図道具(コンパス、デバイダー、烏口、砥石など)、各種複写機、
      タイプライター等各種文書作成道具 等 
   ・ 寸法の計測にかかわる道具
      各種スケール、特製計測器具 等
   ・ 各種計測器具
      振動、騒音、温度、湿度、傾斜角度、海の水深、タンクの水深、回転数、トルク、船速、風速、
      電流、電圧、圧力、クロノメーター、シリンダー内圧力 等
   ・ 現図道具、加工工具類
      各種定規、罫書き道具、鋼材切断道具、溶接道具(グラビティー溶接なども)、ガウジング道具、
      リベット関連道具 等
   ・ 建造船の設計図、計算書、仕様書、完成図書 特に時代を代表した船 (注1)
   ・ 設計時に用いた各種計算フォーム等 (排水量計算 等)
   ・ 船舶、造船に関する図書
      教科書、参考書、社史、歴史書、標準 等 
   ・ 造船活動全般に関する歴史的資料
      各種委員会などの原資料(設計委員会、工作法委員会など)
      試運転の速力、馬力、旋回圏などの測定方法、
      通信連絡の方法に関する資料(試運転船と造船所、ネゴチームと本国等)
      仕様書や完成図書のサンプル(時代による変遷を知るため)(注2)
      その他
   ・ 時代を画した研究、実験に使用された装置、道具、記録 等
   ・ 進水、竣工記念品、記念絵葉書、船に関する絵画、各種模型 等
   ・ 舶用品メーカーのカタログ
   ・ 造船所のカタログ
   ・ 教育資料(学校教育、企業内教育、教育カリキュラム、教材 等)
   ・ その他

   (注1) 歴史的資料として提供を依頼するもので、非公開にするなど公開については提供者の意向を
        尊重する。
   (注2) 此処で図面などの提供を依頼する趣旨は、それぞれの時代における図面などの様式、
        ボリューム、紙質、製作の方法などの変化を示す資料として考えており、それらに含まれる
        ノウハウなどを求めるものではない。 ノウハウに関わる問題についての判断、またそれを
        回避するための工夫については提供者において処置をお願いする。 また展示の際に船名を
        隠すなど受領側で処置すべきことがあれば提供に際して指示を貰うことにする。
 
2. 在来手法による作業状況の映像記録
  上記諸道具と共に、それがどの様に使用されていたかを示すため作業の映像による記録も残したいと
 考えている。



経緯

<1> 委員会の継続と委員長の交替ほか
  本委員会は2007年10月24日、支部細則第12条により3カ年を期限とする臨時委員会として発足した。 2010年10月所定の期限を満了したが、同月5日の支部運営委員会において取りあえず同じ性格の臨時委員会として活動の継続が認められた。 同時に名称は簡略化して「造船資料保存委員会」とすること、委員長は藤村洋から内藤林に交代することも承認された。 委員会の位置づけは永続的なものとすること望ましいという意見により2011年5月支部総会で承認を求めることとなった。

<2> 委員会の位置づけ変更
  2011年4月21日の支部運営委員会において、当委員会は支部細則第13条の定める「研究会」として位置づけられることになった。 発効は5月13日の支部総会承認による。 なお、名称は造船資料保存委員会のまま変更しない。

<3> 神戸大学海事科学部との協力関係
  2011年1月7日神戸大学海事科学研究科長/海事博物館長と関西支部長/保存委員会委員長との間で「海事史料保存活動に関する協力協定」が締結された。 これに基づき当委員会は同館の造船関係史料の収集・保存・調査について協力すること、これに対し海事博物館は必要な設備などを提供することが約束された。 また当委員会メンバーのうち頻度高く活動を行う者は同館“特別専門員”と称することが出来るようになった。

<4> 上記変更を折り込み運営要領、組織などの基本規則を変更し、本書に経緯を付記した。 発効は2011年5月14日である。