尾道造船(株)設計部船装設計課 入舩 憲一
日本の国土は海に囲まれており、古くから船は移動と運搬の重要な手段として活躍しています。なかでも人や車両を定期的に運ぶ船としてカーフェリーがありますが、ここ最近、多くの航路で代替えが進み、船が大型化されています。横揺れ防止のフィンスタビライザーや離着桟を容易にするスラスター、可変ピッチプロペラを装備するなど、運航する上での性能も向上しています。船内の設備や装飾についても変化しており、クルーズ客船に匹敵するような船内装飾やキッズルーム、障がい者にも優しいバリアフリー設備など色々な設備を有しています。太平洋側、日本海側、瀬戸内海の航路に多くのフェリーが就航していますが、その中でも、太平洋航路の "フェリーりつりん" に乗船する機会を得ましたので紹介します。
"フェリーりつりん" は、2016年9月に「東京-徳島-北九州」を結ぶ航路に就航した長距離フェリーで、四国4県の一つ、香川県をイメージしてつくられたシンプルフェリーです。白い船体に黄緑ラインのエクステリアと、オリーブグリーンとオーシャンブルーで飾られた船内は、明るくモダンな色彩に包まれています。家具はライトブラウン系の木目柄で、椅子の張り地のブルーやグリーンとの相性も良く、心身ともに落ち着く、安らぎと癒しの空間になっています。
オーシャンプラザから客室横の通路を通って船首方向に向かうと、そこにはリラクゼーションスペースがあります。お風呂上がりなどに設置されているリクライニングチェアへ深く腰掛けて、テレビを見ながら飲み物を飲んでいると必ずや心地よい夢の世界に入ってしまうことでしょう。さらに先へ進むとフォアードロビーがあります。ソファーに座ると目の前に大型窓があり、船首側の様子と景色が楽しめます。
航海中、唯一昼間に入出港する徳島港では、同じ航路に従事する姉妹船とすれ違う情景や船が離接岸する様子も見ることができるので、普段は見ることがない、船の動きも楽しむことができます。
客室には障がい者も安心なバリアフリー室、女性1人でも安心な女性専用室、ペットと一緒に泊まれるペット同伴室もあり、様々な旅客が快適に過ごせるよう配慮されています。サイクリングが好きな方には、輪行用スペースもあり、愛車を目的地まで安心して預けることができます。
晴れた日にはデッキに出てみましょう。潮風にあたりながら見る沿岸部の様子は普段はめったに見られない景色です。行きかう他の船にも注目してみましょう。大小さまざまな貨物船や漁船、フェリーなどを見ることができます。さらに運が良ければ、豪華クルーズ客船や帆船、イルカやクジラも見ることができるかもしれません。また、フェリーは速力が速いので周りの船を追い越す姿は爽快といえるでしょう。その白い航跡を追うと、カモメたちが優雅に飛行している様子も見ることができます。このようなことも船旅の楽しみの一つではないでしょうか。
本船の他にも徳島県、高知県、愛媛県をそれぞれイメージした姉妹船があります。船内のインテリアカラーは4隻とも異なり、それぞれ個性を持っているので、往復で他の姉妹船に乗れば、帰りの疲れも忘れて再び楽しみへと変わることでしょう。
時代はスピード重視となり、人の移動手段は新幹線や旅客機が中心となっていますが、マイカーを乗せたり、ペットとともに旅ができるフェリーを選択し、同じ目的地に向かう人たちとの出会いや、コミュニケーションも楽しみながら海の景色を眺め、ゆっくりとくつろげる船旅をしてみてはいかがでしょうか。
入舩 憲一
尾道造船(株)
設計部船装設計課