ツネイシホールディングス(株)マーケティングコミュニケーション部 橘高 啓介
経済活動の拡大とともに深刻化する地球温暖化などの環境汚染問題。海事産業においても、温室効果ガスの削減など環境保全に向けた国際ルールが次々と適用されています。常石造船では燃費性能を向上させたエコシップの開発など、船づくりを通じた環境保全への取り組みを継続して実施しています。
【表彰式】 写真左から、MTI 田中康夫社長、環境省 原田義昭大臣 日本郵船 丸山英聡専務、当社社長 河野健二
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"MT-FAST"により、プロペラと逆回転の流れを発生させ、旋回流による損失エネルギーを回収
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2018年12月、常石造船が日本郵船グループの株式会社MTI様と共同開発した船舶用の省エネ付加物装置 "MT-FAST" が、平成30年度「地球温暖化防止活動環境大臣表彰(対策技術先進導入部門)」を受賞しました。
"MT-FAST" は、プロペラ前方に取り付けた複数のフィンが、プロペラの回転から生まれる旋回流による損失エネルギーを回収して、3〜5%と高い燃節効果を生み出す船舶用の省エネ付加物装置です。新しく建造する船舶だけでなく既に就航している船舶に対しても後付け搭載が可能で、2008年の開発以降、ばら積み貨物船、タンカー、コンテナ運搬船を対象に500隻以上に搭載。第1船目の搭載から10年の累計で134万トンものCO2排出量 (普通自動車72万台分の年間排出量に相当) 削減を達成したことが高く評価されました。
"MT-FAST" の開発に取り掛かったのは、船舶の環境指数のルール化や燃料の高騰などの課題がクローズアップされるようになったころ。造船メーカーとして、環境保全への貢献や燃費性能の良い船を造ることは、お客さまの課題解決にもつながるものと考えて取り組みました。そこで、検討テーマのなかから燃費を左右する推進性能を上げるためにプロペラに着目し、CO2排出量削減と燃料節減を目指しました。
開発に最も苦労した点は、船型により船体からプロペラへの水流も変わってしまうことによる、フィンの取り付け位置、サイズ、必要なひねりの向きと角度など、設計を左右する要素のコンセプト立ての難しさでしたが、これをCFD (数値流体力学) によるシミュレーション計算の結果、及び模型水槽試験の結果を基に、何度もケーススタディを行い改良のための議論を重ねることで、適切なコンセプト決めを行うことができました。
開発の中では、共同研究者であるMTI様、日本郵船様の協力の下、幾つかの実船試験を行い技術的な評価およびフィードバックを行なっています。その中でも、お客様が主導で行った、"MT-FAST" を装着した船と、未装着の同型の船2隻の並走試験があります。同じコースを前後2マイル (3.2km) の間隔で併走して2隻の実船データを収集する。これを5日間続けました。この実船並走試験で示された高い燃節効果が、この省エネ装置の実海域での省エネ性能の高さを証明し、設計コンセプトが妥当であったことの確認と同時に、開発者にとっても大きな自信となったことは言うまでもありません。
"MT-FAST" は現在、常石造船で建造するすべての船型に標準装備しています。日本郵船では、常石造船で建造する船はもちろん他の造船会社で建造される船にも採用されています。MT-FASTを装着することによる燃費削減効果は、仮に1日に節約できる燃油が1.2t、年間280日の運航として1t=350ドルで計算すると1年で約1,300万円 (為替110円/ドル) を削減することができます。これにより、環境保全に加えお客さまのコストダウンにも貢献しています。
環境保全の技術開発はいま、低硫黄燃料油や天然ガスなど、より環境負荷の低い燃料種への転換を考える時期に差し掛かるなど、時代の求めに応じた新たな潮流が起こりつつあり、これまでとは異なる視点が必要となってきています。このような時代のなか、地球環境保全への貢献を踏まえ、未来の船のあるべき姿を追求した開発に挑んでいきます。
橘高 啓介
ツネイシホールディングス(株)マーケティングコミュニケーション部
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