広島大学大学院工学研究科船舶設計イノベーション共同研究講座 和田 祐次郎
著者が所属する船舶設計イノベーション共同研究講座は、2019年4月1日に常石造船(株)の寄付講座として設置されました。船舶設計イノベーション共同研究講座では、モデリング技術やAI技術等を駆使して、造船業の競争力強化に関する研究を行う予定です。本記事では、著者がこれまで実施した研究について紹介します。
造船業は需要の変動が激しい産業です。近年は、船舶の需給バランスの改善により需要は回復しつつあるものの、未だ船腹量過剰の影響は継続しており、造船所は十分な手持工事量を確保できていない状況です。著者は造船業の経営戦略の立案や建造能力の過剰問題等の様々なステークホルダーが絡む複雑な問題を解決するため、SDモデルを利用した造船需要予測に関する研究を実施しています。
SD (System Dynamics) とは、時間の経過と共に変動するシステムの特性をシミュレーションモデルによって解析する方法です。対象システムをマクロに捉え、システムを構成する要素の因果関係や動的特性などをモデルに記述します。SDによって、人間の思考の及ばない範疇の変動や、実際に再現することが不可能な実験をシミュレートし、対象システムの将来動向等を分析できます。
このSDの手法を用いてバルクキャリア市場をモデル化したのが図1(A)、モデルを用いて将来需要を予測した結果が図1(B)です。近年のバルクキャリア需要の回復が予測できていることがわかります。また著者はこのモデルと最適化手法を用いて、建造能力過剰問題の分析の一環としてバルクキャリア市場における最適な建造能力の拡張について検討しました。その結果が図2になります。短期的に利益を獲得するためには、実績のような急激な建造能力の拡張が有効であったと考えられます。一方、長期的に利益を獲得するためには継続的に建造能力を拡張させたほうが良いことがわかります。
今後はSDの手法を用いて、造船業の継続的な発展を支援するため、船舶のGHG排出削減が造船市場に与える影響の分析を行う予定です。
和田 祐次郎
広島大学大学院工学研究科船舶設計イノベーション共同研究講座
システム工学、海上物流、海運経済学