広島大学大学院工学研究科輸送・環境システム専攻 谷口 直和
図1 観測船へAUVを回収する様子 (AUV下部の小さな黒いものが音波送受波器で、保護フレームが曲がっているのは荒天時の実験の際にぶつけたため)
図2 実験後集合写真 (左から3番目が筆者、4番目は郭振華教授)
海洋の流速は、風や波とともに、海洋の開発・利用の際に重要となる海象情報です。海洋流速を計測する方法に、音波を使った方法があります。例えば、超音波ドップラー式流速計は、海中に超音波を送波し、海中の浮遊懸濁物質による反射波のドップラーシフトから浮遊物質の移動速度を計測することで流速を求めています。また、海洋音響トモグラフィと呼ばれる計測法は、対象海域を囲むように設置した複数の送受波器間で音波信号の送受信・伝搬時間計測を行い、計測された伝搬時間から対象海域の音速構造や流速構造を推定します。本稿では、海洋音響トモグラフィに関して私が台湾でのポスドク時に取り組んだ研究と台湾での生活について紹介します。
私は、広島大学で博士取得後、国立台湾大学海洋研究所の黄千芬准教授と国立台湾大学海洋工学科 (工程科學及海洋工程學系) の郭振華教授の研究チームのポスドク研究員として、AUV (autonomous underwater vehicle; 自律型無人潜水機)等を使った音響トモグラフィ計測に取り組みました。音響トモグラフィ計測の水平流速分布の精度を決める要素の一つが、音波送受信を行う送受波器ペアの数です。つまり、多くの送受波器を設置し対象海域中を多くサンプルするほど、小さなスケールの流速構造も再現できるようになります。しかし、海洋では、医療用トモグラフィのように、対象領域をくまなくサンプルするように送受波器を設置するのは困難です。そこで、AUV等に送受波器を搭載し、対象海域を移動させながら音波送受信を行えば、対象海域内の様々な場所をサンプルすることができ、再現精度が大幅に向上されることが期待できます。
国立台湾大学では、伝搬時間計測装置の製作からはじめました。音響トモグラフィによる流速計測では正確な伝搬時間計測が必要なのですが、正確なタイミングでの送受信はOS (オペレーティングシステム) を搭載しないワンチップマイコンを使うことにより実現しました。製作した音波送受信装置を実際にAUV等に搭載して送受信実験を行い、音波伝搬時間によるAUVの距離計測や移動速度計測を行いまいした。現在、流速計測精度の向上を目指して、送受信装置の改善に取り組んでおり、また、流速をリアルタイムで計測しながら効率的に対象海域を航行できるように目指しています。
台湾でのポスドク時代は、自由な時間配分で研究生活を送らせてもらいました。台湾は夜市が有名ですが、台湾大学の近くにも夜市があり、よく夜食やデザートを買いに行っていました。日本ではタピオカミルクティが流行していますが、国立台湾大学の近くにも有名なお店があります。また、豆花はデザートとしておすすめです。台湾の食事は脂っこいものが多いのですが、食べ歩きばかりしている私の健康を気にしてくれた海洋研究所のスタッフや学生が時折ハイキング等に連れ出してくれたため、健康は維持する事ができました。
谷口 直和
広島大学大学院工学研究科輸送・環境システム専攻
音響海洋学 (acoustical oceanography)