九州大学大学院工学研究院海洋システム工学部門 古川 芳孝
九州大学工学部造船学教室 (現工学部地球環境工学科船舶海洋システム工学コース) は、今年、創立百周年を迎えます。これまで約2,700名の卒業生を輩出してきた教室の沿革と現状について簡単にご紹介します。
九州大学工学部造船学科は、1911 (明治44) 年の九州帝国大学工科大学の設置から遅れること9年、1920 (大正9) 年に九州帝国大学工学部 (1919 (大正8) 年から) の7番目の学科として設置され、1921 (大正10) 年より授業が開始されました。また、煉瓦造り2階建の教室建物と附属実験室は1925 (大正14) 年に竣工しました。学科設置の背景としては、第1次世界大戦後、日本の海軍・海運業・造船業が飛躍的な発展を遂げ、これに伴う造船技術者大量養成に対する社会的な強い要請があったことが挙げられます。
学科設置から2年の間に計5つの講座が設置され、教授2名、助教授2名、講師3名、非常勤講師4名の教員体制、学生定員は10名のスタートでした。学科開設当時の造船学科の大きな特徴として、造船学と航空学の分野で共通点が多いことを重視し、航空学の講義を行っていたことが挙げられます。航空学に関する研究も活発に行われており、後に造船学科から分離・独立する形で1937 (昭和12) 年に航空学科が設置されました。
新制の九州大学工学部が1949 (昭和24) 年に発足した後、1954 (昭和29) 年にあらためて5講座が設置され、1970 (昭和45) 年に1講座が追加された結果、第一講座 (船体強度理論及び船体振動学)、第二講座 (流体力学及び船舶運動論)、第三講座 (船体構造論及び商船設計)、第四講座 (船舶抵抗論及び船舶推進論)、第五講座 (造船工作論及び商船艤装)、第六講座 (船舶溶接工学及び熱塑性加工学) の6講座体制となりました。第2次世界大戦をはさんで学生定員は幾度か増減され、1959 (昭和34) 年より35名の学生定員を維持しています。
1992 (平成4) 年には、海洋システム工学分野の教育・研究の拡充を目的として学科名称を船舶海洋システム工学科に改称しました。さらに、1998 (平成10) 年の大学院重点化に伴う工学部の再編により、建設都市工学科・資源工学科とともに地球環境工学科に統合されて船舶海洋システム工学コースが設置され、システム計画学、船舶海洋流体工学、船舶海洋運動制御工学、機能システム工学、構造システム工学、生産システム工学、船舶設計・海洋環境情報学の7研究室体制となりました。
学科設立から80年以上を過ごした箱崎キャンパスには、大型実験施設として船型試験水槽 (118m×2.67m×3~5m) と船舶運動性能試験水槽 (28m×25m×1.8m) が設置されていました。1984 (昭和59) 年には教室建物が7階建の工学部5号館として建て替えられ、見晴らしの良い7階に2学年分の製図室が設けられていました。残念ながら、九州大学のキャンパス移転に伴い、これらの施設は既に取り壊されてしまいましたが、2006 (平成18) 年より伊都キャンパスでの教育・研究が始まっています。伊都キャンパスでの学生生活や教育研究施設等に関しては、西部支部メールマガジン第11号、第24号、第63号で紹介していますので、ぜひご参照ください。
最後に教室の今後についてご紹介します。九州大学工学部では2021 (令和3) 年4月に組織改編を予定しており、地球環境工学科船舶海洋システム工学コースは船舶海洋工学科に改組される予定です。また、一般選抜 (前期日程・後期日程) に加えて、大学入学共通テストを課した総合型選抜 (現行のAO入試) を導入し、船舶海洋工学の勉学に意欲がある学生を獲得することにより、船舶海洋工学に関する教育・研究にこれからも注力していきます。
令和3年度(2021年度)以降の入学者選抜における変更予定について (PDFファイル)
古川 芳孝
九州大学大学院工学研究院海洋システム工学部門
船舶運動論