広島大学大学院先進理工系科学研究科輸送・環境システムプログラム 山本 剛大
船舶などの大規模構造物は大小さまざまな板部材を接合して製造されるため、複雑な断面を有する構造で構成されています。そのため、船体構造の強度評価は梁理論・シェル理論を用いた計算で十分に検討できているとはいえず、設計段階への数値計算の導入が不可欠となっています。本記事では、数値計算技術の一つである有限要素解析について、著者が取り組む船体構造に応用できるモデル化手法を紹介します。
構造物に対して厚みの小さい部材は梁理論・シェル理論の仮定に従う変形が支配的となるため、構造要素が使用されます。一方、構造物に対して厚みの大きい部材や板厚方向という概念が適用できない部分では梁理論・シェル理論の仮定が成立せず、連続体要素が適用されます。このように、現状の有限要素解析では構造物に応じて使用する要素の選択が必要となります。
船体構造の初期設計では、構造要素を用いた強度評価が一般的となります。しかしながら、図1のようなバルクキャリアの横隔壁付近には3次元的に複雑な応力が生じるため、構造要素では十分な精度の計算結果が得られません。そこで著者は、解析対象を構造要素でモデル化すべき領域と連続体要素でモデル化すべき領域に分割し、接続部分で変形および応力が連続となるモデル化手法を開発しました。
図2は厚みが異なる部材の接合部をモデル化した例です。接合部近傍の構造要素と連続体要素が接続される部分に着目すると、変形と応力が連続的に分布していることが確認できます。この例では、連続体要素のみでモデル化する方法に比べて、6割以上の計算コストを削減でき、妥当な計算結果が得られることがわかりました。
このように構造要素と連続体要素を接続する手法は、大規模構造物の接合部に対して高精度なモデルをより少ない計算コストで実現することが期待できます。当研究室では、引き続き船体構造の強度評価に適用できる技術を開発していきたいと考えております。
山本 剛大
広島大学大学院先進理工系科学研究科輸送・環境システムプログラム
材料力学・計算力学