三菱造船(株)マリンエンジニアリングセンター造船設計部計画設計課 三好 翔太
2022年3月,6月に引渡しを終えたフィリピン沿岸警備隊 (Philippine Coast Guard、以下PCG) 向けMulti-Role Response Vessel (多目的対応船、以下MRRV) についてご紹介します。
海洋国家であるフィリピンでは、海上輸送が非常に大きな役割を担っていますが、自然災害や船舶の老朽化による海難事故のリスクに加え、近年増加している、密輸・密漁・テロ等の海上犯罪リスクへの対応能力強化が課題になっています。その課題解決に向けて日本政府による円借款事業「フィリピン沿岸警備隊海上安全対応能力強化事業 (フェーズII)」としてMRRV 2隻の建造が計画されました。
本船はヘリコプター発着可能なヘリ甲板とヘリコプターを格納する格納庫を備え、全長約96.6m、幅約11.5m、総トン数約2260トンとPCG所有船の中では最大級の船舶となります。就航後は主にフィリピンの領海内や排他的経済水域内での海上犯罪・違法操業の取り締まり、及び、海難救助、巡回業務などの任務にあたります。
当社で建造した2隻目が6月に現地まで回航されPCGへ引渡されましたが、引渡し後もPCG乗員に対して、本船の仕様や操船要領、装備機器の取り扱い方法を熟知してもらうことを目的として当社から技術者をマニラへ派遣し、現地での海上運転、及び、乗員向けのトレーニングを約2か月間に渡って実施しました。
現地での海上運転では、速力確認や旋回・後進確認といった操縦性能確認に加え、投揚錨確認や騒音/振動確認、航海機器の作動確認を造船所関係者による操船及び操作で実施し、PCG乗員に本船の操船性と装備機器の使用方法を把握してもらうと共に、計画された性能を満足していることを確認していただきました。
また、乗員向けトレーニングでは、本船の仕様、及び、詳細機器の取り扱い方法に関する座学トレーニングと、実際にPCG乗員によって装備機器を操作してもらうトレーニングを実施しました。約2か月間の現地トレーニングを経て、PCG乗員に本船の仕様や操作要領について理解を深めていただくことが出来ました。
ここからは、筆者の個人的な体験談になりますが、現地での海上運転と乗員向けトレーニングに造船所技術者として参加しました際の報告となります。最初は文化や言語の違いによる戸惑いがあり、しかも、私自身英語が得意ではなかったので、特に伝えることの難しさを感じました。
しかし、本船のことを早く習得しようとする熱心な乗員の方から積極的に話しかけてくれたこともあって、次第にコミュニケーションが取れるようになり、こちらの伝えたい事を伝えられるようになりました。本船建造にあたり、現地でのトレーニングを体験したことで、英語能力の向上が図れたことは非常に良い経験になりました。
また、現地トレーニング期間中は、PCG本部に近い歴史と伝統のある「Manila Hotel」に滞在しました。Manila Hotelからはマニラ湾を一望でき、窓からの夜の景色は絶景でした。また、マニラのメイン・ストリートであるロハス通りに面しており、市内の中心部へのアクセスも良く、ショッピングなど町の散策に出かけるのに便利でした。
現地トレーニング中は、フィリピンのコロナ感染者数が下火の時期でありフィリピン政府による行動制限がなかったため、感染症対策を徹底した上で、町の散策にも出かけることができました。町の散策では、サン オウガスチン教会やサンチャゴ要塞、マニラ大聖堂などの歴史的構造物の見学をすることができ、コロナ感染症の影響により気軽に海外に行けない今、とても貴重な体験をすることができました。
最後に、本船につきまして、今後の海難救助や巡回業務における活躍、及び、フィリピンの社会発展に大きく貢献することを祈念致します。
三好 翔太
三菱造船(株)マリンエンジニアリングセンター造船設計部計画設計課
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