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西部支部メールマガジン第103号

ふね遺産 全軽合金製15m型巡視艇「あらかぜ」について

三菱造船(株)マリンエンジニアリングセンター造船設計部計画設計課 横田 大武

本年5月のふね遺産審査委員会審議に基づき、弊社下関で建造された我が国初の全軽合金製15m型巡視艇「あらかぜ」が第6回「ふね遺産」に認定されましたのでご紹介します。

「あらかぜ」航走写真

「あらかぜ」航走写真


「あらかぜ」耐波試験の様子

「あらかぜ」耐波試験の様子


解役後の「あらかぜ」(琴平海洋博物館に展示)

解役後の「あらかぜ」(琴平海洋博物館に展示)

戦後の我が国船舶分野における軽合金技術向上を目的として、昭和24年に船舶用軽金属委員会が発足し、軽合金の利用研究等に着手しました。一方、海上保安庁の昭和28年度建造計画において木製の15m型巡視艇の建造が決定したことから、これをアルミニウム合金製として高速艇の構造設計技術の向上に役立てることが考えられ、これが本船の誕生するきっかけとなりました。

当時は波浪中を高速で航行する艇の受ける外力に関する確たる資料が無く、従って高速艇 の構造設計に関する確たる基準も無かったことから、本船の設計・建造は海上保安庁及び船舶用軽金属委員会の協力を得て行われ、建造中のみならず竣工に至るまで多くの試験研究が実施されました。

その中には、当時高速艇でほとんど実績の無かった耐波試験も含まれます。本試験は荒天時に波浪中を高速航行させ、波浪中における外力とそれに対する構造部材の応答を計測することを目的とし、あわせて波浪中の運動性や安定性に関するデータを得ようとしたものです。乗員や計測員にとっては大変過酷な試験であったようですが、本試験によって貴重な実船計測結果を得ることとなりました。

幾多の困難を経て昭和29年3月に竣工した本船は、海上交通の要衝である関門海峡を擁する第7管区海上保安本部門司海上保安部に配属となり、高い性能を活かして海難救助、密漁の取締り、不法入国船の捕捉、海洋汚染防止の取締り等に業績をあげました。海上保安庁にて約20年間の運用を終えた後は、海上災害防止センターの前身である財団法人海上防災センターにて約7年間、防災訓練用として東京湾の第二海堡に設置された消防演習場への研修生の輸送や排出油防除実習といった作業に従事し、昭和56年1月に解役されました。

本船は合計27年という過酷な運用にも関わらず、接舷時等に発生した局部的な変形以外は損傷・腐食が全くなく、船体から切り出されたサンプルの材料試験でも劣化が全くない事が確認されました。本船の成功により、その後高速艇の設計基準や工作法の標準などが整備されるなど、軽合金艇の建造技術は大きく進歩しました。現在では海上保安庁所属船艇のみならず、監視艇や客艇等多くの軽合金艇が建造されています。

当紹介記事を執筆するにあたり、今日弊社で建造される軽合金艇の礎が諸先輩方の情熱と努力によって成り立っていることを改めて感じました。今回の学びをさらに深め、軽合金艇の設計に従事する際に活かしていきたいと思います。

主要目

全長
15.00m
最大幅
4.20m
深さ
2.00m
排水量
15.88t
吃水
0.596m
主機関
ディーゼル2基、440PS
最高速力
20.62kt
乗員
6名

横田 大武
三菱造船(株)マリンエンジニアリングセンター造船設計部計画設計課
計画設計

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