三菱造船(株)マリンエンジニアリングセンター船舶技術部計画1グループガス船計画チーム 西郷 康平
2023年3月~6月の約3か月半にわたり、MMMCZCS (Mærsk Mc-Kinney Møller Center for Zero Carbon Shipping、以下「同センター」) へ長期出張しましたのでご紹介します。
同センターは2020年にデンマーク・コペンハーゲンで設立され、「2050年までの海事産業の持続可能な脱炭素」をビジョンに、「独立したかつ積極的な海事産業の持続可能な脱炭素の推進」をミッションとして様々な調査・研究を行っています。その活動は幅広く、代替燃料船の開発、Green Corridorの検討、LCA (Life Cycle Assessment)、代替燃料の性質・生産・供給等に関する包括的な調査に基づいた成熟度マップの作成、など多岐にわたります。中でもNavigaTEプロジェクトは従来のTCO (Total Cost of Ownership) モデルに業界全体の変化を組み込んだTechno-Economic modelを開発するもので、今後の更なる発展が期待されています。
上記のような背景から、同センターには直傭者に加え、船級、商社、船社、造船所、舶用機器メーカ、エネルギー企業等からの派遣者等からなる100人超の老若男女幅広い人材が勤務しており、多様性のある環境で活発に議論をしながら諸検討を行っています。
同センターはNPOであることが大きな特徴の一つで、業界全体の脱炭素促進のために研究の成果は同団体のホームページで公開され、誰もが参照できるようになっています。情報が溢れる中、脱炭素に向けた情報・検討結果が整理されたpaperが数多く掲載されていますので、是非ご参照ください。このような特殊な環境がゆえにどのような組織形態・戦略を取るべきかについても熟慮されており、理念から日々の作業まで明確で一貫したロジックを有し構成員にそれを浸透させようとしている強い組織であると感じました。また、設立から約3年しか経過していない新しい組織ですので、最新の状況に応じ変化に対応できる柔軟なマインドを持っていることも強みの一つで、今後の発展が楽しみでもあります。
私は2050年Net Zeroをターゲットに代替燃料をどのように使い分けていくかアンモニア燃料の安全性、CO2回収技術の調査等、日頃の業務とは一風違った検討を担当しました。多彩なバックグラウンドを有したメンバーが多角的に検討・評価を行なえる体制が整っているほか、多少時間がかかっても議論を重ね納得いくまで粘り強く検討を進められる点に非営利団体の強みがあります。
さて、国外どころか九州島外にも住んだことがない私にとって、北欧の異国の首都に起居し、デンマークを初めとする欧州各国、アメリカ、インド、シンガポール等世界中からの派遣者と (もちろん英語で) 共に仕事をするのはたいへん刺激的な体験となりました。特に造船所以外、例えばRegulation・Finance面からの海運の捉え方に触れられたことで、自身のマインドが造船所視点に狭まっていたこと、海運のスケールが思っていたよりも大きく複雑で、今後の脱炭素は各セクターが単独で取り組みうるものではないことに改めて気づかされました。
生活面では物価が高い (2~3倍) ことを除けばノルディック・モデルと呼ばれる経済・社会モデルが浸透しており、快適に過ごすことができました。電車ではカバンもスマホも置き去りにして席を外す女性がいるほど安全で、学生は高校卒業後は1~2年程度のギャップイヤーを取得し好きな事に取り組むことが当たり前。一日の就業時間には特段の定めがなく、とある日にはまだまだ明るい中で作業していると「みんな働きすぎ。今日はもう帰った方がいい。天気がいいんだから外でリラックスしよう。じゃ僕は帰るね」と帰っていく同僚...と、衝撃の連続でした。
一方で、全てが整っている社会においては人生の選択は各人に委ねられており、自己を律しつつ自身の考え・意志や目標を持って生きることが重要だと感じられました。単身での派遣であったため、終業後には十分に時間があり、公私とも自身の行動・考えを振り返る良いきっかけになりました。
休日には寒さも緩みコロナの影が全く見えない欧州で見聞を広めました。デンマークでは人気の(?)人魚姫をはじめ、美しいお城、美術館・博物館、街並みを堪能し、特に首都から電車で1時間ほどの場所にあるフレゼリクスボーという湖畔に佇むお城が印象に残りました。また、ある週末にはスイス・レマン湖に出かけ、20年来の夢であったフレディ・マーキュリー(像)との邂逅を叶え、一生の思い出となりました。
同センターは派遣終了者が雇用元企業に復帰後もzero carbon shippingに向けた取り組みを継続しそのマインドを広めていくことを期待しています。私も今回修得した知識・経験や考え方・姿勢を今後の業務に活かし、脱炭素への取り組みを積極的に推進し、日本の海事産業を盛り上げることにも一役買いたい考えです。世界との連携ももちろん必要ですが、TEAM JAPANでも一丸となって頑張りましょう!
最後に、本派遣により本来業務から離れ長期不在となることについては、社内外の関係各位にご理解・ご協力を賜り、大変良い経験を積ませていただきましたこと、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。
MMMCZCS (Mærsk Mc-Kinney Møller Center for Zero Carbon Shipping
西郷 康平
三菱造船(株)マリンエンジニアリングセンター船舶技術部計画1グループガス船計画チーム
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