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西部支部メールマガジン第110号

長崎県伊王島における里海創造を目的とした海洋教育プログラム

長崎総合科学大学工学部工学科船舶工学コース 松岡 和彦

図1 ROV組立

図1 ROV組立

本学で取組んでいる小中学生を対象とした海洋教育プログラムに関して紹介します。

長崎港外、長崎市香焼町沖に位置する伊王島は、かつては炭鉱の島として栄えていました。炭鉱最盛期 (1960年) の人口は7,266人でした。1972年の炭鉱閉山に伴い大量の人口が流出し、多くの人が伊王島を後にすることとなりました。現在は地域再生のために取組んだリゾート開発が成功し、年間20万人以上の観光客が訪れています。しかし、人口減少は続いており、2023年6月時点での人口は235人となっています。

本学では2017年より「海中ロボット (ROV) 組立教室」をこの伊王島にて開催してきました。近隣の小中学生に "船舶海洋工学の基礎" と "伊王島の海" について学ぶ機会を提供し、また交流人口の拡大による地域活性化を目指した協力を行っています。

「海中ロボット (ROV) 組立教室」は昼食をはさんで午前の部、午後の部の2部構成で実施してきました。午前中は室内の会場にて「海中探査ならびにロボット」に関する概要の説明を行い、5名程度に班分けされた参加者がグループ毎に1台のROVを組立てます。なお各グループには大学生または高校生1名が付いて組立作業をサポートします。ここでは "浮力"、"浮体の安定"、"重心と推進軸の位置" といった船舶海洋工学の基礎についても学習しながら組立を行います。

午後の部では、伊王島の地元漁協である西彼南部漁業協同組合の協力のもと、伊王島馬込漁港にて野外活動を実施しています。午前中に組立を行ったROVの試走を漁港にて行い、参加者にROVの操縦を体験してもらっています。参加者はROVに取り付けた水中カメラを用いて普段は目にすることの無い "海中" の観察を実施します。

野外活動後、撮影した動画にて身近な海の環境や海洋生物の様子を皆で鑑賞します。ここでは伊王島の海の状況について西彼南部漁業協同組合の関係者が講師となり説明を行います。特に近年、長崎の水産業で問題となっているガンガゼウニの食害による海藻の減少、藻場の磯焼けなどの環境悪化と地元漁協の環境保全活動に関して解説を行っています。参加者は、伊王島周辺の海を観察した結果、ウニの食害による海藻の減少、藻場の磯焼け等の身近な "里海" の環境悪化にたいへん驚いた様子でした。

ここで "里海" とは「人手をかけることで生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」と定義されていますが、伊王島周辺海域はその典型的な例と言えます。里海の持続可能な発展と保全には地域住民を含め一般市民の里海への理解ならびに支援、積極的な参加が必要と論じられており、「海中ロボット (ROV) 組立教室」にて里海への理解促進を行ってきました。

近年、身近な気候変化など地球規模の環境問題への子供達の関心が高まっていると感じられます。そこで2023年度は新たな取組として "海の環境問題" をテーマに加えて、海ゴミを素材とした「海から生れる美術」を取入れた教室を行うこととしました。これまで「ロボットは難しそう」と参加を敬遠していた子供達へも海洋環境への理解を拡大したいと考えました。

図2 工作の様子

図2 工作の様子

まず長崎市伊王島にて、海開き (7月前半) の時期に大学生を中心に海岸清掃に参加し、ゴミ拾いと共にビーチコーミングにて工作で素材とする "シーグラス" を採取しました。次に「"海から生まれる美術" と "海中ロボット" 教室」を開催しました。教室は昼食をはさんで午前の部、午後の部の2部構成で実施しました。

午前中は「海のモノでモノづくり」パートとして工作教室を実施しました。大学生が海岸清掃で集めた "シーグラス" や伊王島で採取された "貝殻" 等を素材に用いて、万華鏡とフォトフレームの工作を行いました。ここでは "シーグラス" についての解説、大学生の清掃活動紹介、"SDGsの目標:14 海の豊かさを守ろう" の解説...といった内容にて「海のゴミ問題」についての講義も行いました。なお今回の教室では未就学児3名も参加していましたが、問題なく工作を行うことが出来ました。

午後からは "海中探検" パートとして馬込漁港に移動し「海中ロボットを用いた海中観察」、「ウニ割体験」、「海岸での漂着物観察」の野外活動を実施しました。野外活動の「海中ロボットを用いた海中観察」では、ロボットの操縦を体験し、伊王島の海の状況を観察しました。参加者は、一見綺麗に見える海でも多くのゴミが海底に投棄されていることを確認しました。また「ウニ割体験」では漁協関係者からウニの生態と駆除に関する話を聞きました。「海岸での漂着物観察」では様々な漂着ゴミを観察し、その中から実際にシーグラスを採取しました。

野外活動後は会場に戻り講義を実施しました。「長崎の海と漁業」(長崎西彼南部漁業協同組合) の講義では、地球温暖化による海の変化の様子や環境問題をクイズ形式で学びました。最後に「伊王島の魅力」(NPO法人長崎アイランズアクト3) の講義では、伊王島の特徴や名所、名産品を紹介しながら伊王島の魅力を学びました。参加した子供達の感想には「いろいろな体験ができてうれしかった。」、「伊王島の海がこんな変化しているんだなと思いました。」といったものがありました。

本海洋教育プログラムは、これまで地元のNPOならびに漁協と協力して開催してきており、一過性のイベントではなく地域に根差した継続的な教育の取組となっています。更なる発展拡大で地域活性化と "里海" の持続可能な発展と保全に寄与出来ればと考えています。

松岡 和彦
長崎総合科学大学工学部工学科船舶工学コース
構造強度,船舶設計システム

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