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多自由度カップリング装置の開発と大学発ベンチャー

長崎総合科学大学工学部船舶工学科 池上国広
図1 基本コンセプト
図1 基本コンセプト[拡大画像]
図2 実海域実証実験
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地域社会の向上発展への貢献は大学の重要な使命のひとつであり、本学も産学官が連携した様々な活動を精力的に展開しています。その活動のひとつに、学のシーズを核とした新事業の発足や新製品・新技術の開発への取り組みがあり、この程、経済産業省/地域新生コンソーシアム研究開発事業及び長崎県/大学等発ベンチャー創出事業の助成を受けて、大学発ベンチャー企業を立ち上げましたので、その概要を紹介します。

ベンチャー企業は、浮体間の機械的連結装置 (多自由度カップリング装置) 及び多連結浮体システムに関する設計から施工までを主要業務とする会社です。浮体構造物による海洋空間の利用が、今後の国土総合開発の上で、重要な役割を担うものと期待され、様々な構想が打ち出されています。この種の浮体構造物を、これまでのような単一浮体ではなく、小規模な浮体を多数連結した構造の多連結浮体システムとすることにより、規模・構造・機能の変更に対して容易に対応することができます。さらに多連結浮体システムは、小規模施設で建造可能、短工期等の利点も有しており、これまでこの種の浮体構造物の建造に対応できなかった中小造船所でも建造が可能となります。

このような多連結浮体システムを実現するための最も重要な技術課題は、浮体間の連結技術であり、新しい概念の連結装置 (多自由度カップリング装置) を開発しました。その基本コンセプトを図1に示します。浮体中央部に取り付ける回転自由な多自由度連結装置 (ユニバーサルジョイント方式を基本とし、軸回転方向の自由度を付加) と浮体側方部で浮体間の相対運動を拘束する拘束調整装置で構成されています。モーメント伝達がない連結により連結荷重の低減を達成して、浮体間の大変位・高荷重への対応を可能とし、かつ海洋環境影響に考慮したオイルレスの樹脂系摺動部としています。また、拘束調整装置により、要求仕様や海象条件に適合した拘束度調整が可能です。

従来の機械的連結方式としては、ボルトやピンを用いた方式がありますが、連結部に作用する波浪荷重に対する連結部強度の面から、せいぜい小規模なオイルフェンス等に適用されている程度であり、大型の浮体構造物へ適用された例は見られません。また、従来方式では、騒音の発生が問題となる場合があるようです。連結・切り離し機能を有したものは未だ見られません。また、海洋環境下で使用されるため、摺動部を海水で潤滑する技術が要求されます。従来の水潤滑軸受は数 10mm から数 100mm 程度の大きさのものがほとんどであり、多連結浮体システムの連結装置として考えられる 1000mm 近い大きさのものはこれまでに例がありません。本製品は、このような従来の連結装置の技術課題を解決した国内外において唯一の浮体連結技術であると言えます。

本装置の連結機構及び拘束装置の検討をするに当たり、多連結浮体システムの波浪中運動及び連結荷重の特性を理論解析により明らかとし、多自由度カップリング装置を創案しました。また、多連結浮体システムの模型水槽試験を実施し、波浪中浮体運動計算法が本システムの運動・連結荷重推定のための実用設計ツールとして使用できることを検証、確認しました。同時に、実海域による実証実験の結果、これらの挙動が予測どおりであることが確認され、連結装置の実用性が実証されました。また、この連結装置は、洋上で使用するため、連結装置の摺動材には環境汚染が無いものに限定されるため、その材料や、目標寿命、製造技術を確認するため、その実証実験も試みました。それを基に、実海域での実証実験を行い信頼性の確認を行いました。製作した連結装置と実証試験の様子を図2に示します。

本技術の適用範囲は広範にわたっており、浮桟橋の連結・係留装置など従来の港湾施設・漁港施設等の性能改良、国および地方公共団体において推進されている浮体式防災基地や洋上風力発電等の海洋空間利用、多連結バージ等の新システムの創出等に対する適用が期待されます。したがって、国土交通省の港湾整備事業および海岸事業を始めとした各種プロジェクトへの提案を積極的に進めていくとともに、広範な分野への営業展開を図っています。

事業形態は、ベンチャー企業と出資したグループ会社及び県内中小手造船所が技術提携し、連携をとって事業を展開しています。事業の進展状況は、設立当初は、体制、資金面等から、十分な活動を展開することができないため、グループ会社がこれまでの実績を背景にベンチャー企業としての活動も展開しています。なお、本年度から始まった「長崎県トライアル発注制度」の対象製品に選定され、長崎県内のマリーナで浮桟橋の連結に本装置が採用されることになっています。


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