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LNG 船の疲労解析技術

三菱重工業(株)長崎造船所造船設計部 佐藤宏一

近年、LNG 船の長期耐用化ニーズを背景に、船体疲労解析の広範囲への適用が求められる中、荷重解析や応力解析における要素技術の発達やコンピュータの能力向上に伴い、新造船に対する疲労解析の仕様が高度化しています。さらに LNG 需要のグローバル化により従来の極東〜中東中心の荷動きに加え大西洋航路等の比率が上がっており、特定航路の波データを反映した疲労強度解析が要求される場合もあります。また、最近の新造船においては、長期設計疲労寿命を確保し、各船級協会における疲労精査ノーテーション (登録符号) をお客様から要求される場合が増えています (例えば、LR ShipRight FDA、DNV CSA-2/PLUS-2 等)。以下、モス船とメンブレン船における事例を紹介します。


1.モス船における解析事例

図1 モス船の疲労解析事例
図1 モス船の疲労解析事例[拡大画像]

当社の新設計 145,000m3 モス型 LNG 船の船体構造に対して大規模なスペクトル解析を実施した例を図 1 に紹介します。解析は、 (Step 1) 北大西洋の波スペクトルに基づく波浪荷重計算、(Step 2) 全船FEMモデルによる波浪中応答解析、(Step 3) 部分詳細 FEM モデルによる局部応力計算、(Step 4) 疲労寿命計算の手順で実施しました。図中には一般的な疲労チェックポイントである内殻ナックル部、及びモス船で特徴的な構造であるタンクカバーの船体接合部の例を示します。他にも大骨の構造不連続部、ロンジ(縦通肋骨)の交差部等 20 個以上の詳細 FEM モデルを使用し、カーゴホールド部全域の 5,000 箇所以上の評価対象に対し北大西洋 40 年の設計疲労寿命を確認しました。一方、タンクシステムに対しては IMO ガスコードタイプ B (注) 要件の疲労解析が要求されますが、球形タンク専用にメッシュ作成及び疲労寿命計算の自動処理プログラムを当社独自で開発し、多くのチェックポイントに対して短期間で高精度の疲労評価が可能です。


メンブレン船における解析事例

図2 メンブレン船の疲労解析事例
図2 メンブレン船の疲労解析事例[拡大画像]

ガストランスポート方式メンブレン船においては、タンクシステムの応力制限上、船体縦部材は疲労強度面で十分な余裕を持った設計となっているので、外水圧とタンク荷重に対する主桁部材の疲労強度が主な精査対象となります。特に防熱層とバラストタンクの境界である内殻 (Inner hull) の構造不連続部は疲労強度上の重要ポイントであり、図 2 に示す詳細な FEM 解析を実施し、想定航路で疲労寿命クライテリアを満足する事を確認しました。航路や寿命に関する仕様変更に対しても都度波浪データ/波浪スペクトルに基づく統計解析を実施し、結果に応じて局部寸法を調整することでフレキシブルに対処可能です。また、タンカー等での疲労強度上の重要ポイントであるロンジ (縦通肋骨) に関しても、想定航路の波データに基づくスペクトル解析を実施し、要求されたクライテリアを満足することを確認しています。

三菱重工業は 1980 年代から継続して荷重-応力一貫解析による疲労解析技術の開発、及び実船への適用を行っており、上記のようなお客様のニーズに柔軟に対応しています。


注) IMO コードタイプ B

IMO タンクタイプ B とは、モデルテストや詳細解析手法などを用いて構造各部の応力を精密に把握し、それに基づき疲労解析、破壊機構解析を正確に実施した形式のことです。基本的に疲労によるクラックの発生が無く、検査基準内のクラックがあっても船の一生を通して貫通クラックに成長しません。万一、貫通クラックが発生しても限定された範囲で留まるので破壊的進展に至らない事が立証されています。従って微小リーク量を保持するための部分 2 次防壁で対応できます。代表例として、モス球形タンク方式や IHI-SPB 方式があります。


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