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チップ船体験乗船記

(株)大島造船所設計部 田村知也
本船外観
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大島造船所には、造船技術者の技術力向上プログラムの一環として若手造船技術者を対象とし、約 1〜3 ヶ月程度の実航海を体験できる制度があります。この制度により、普段は書籍や伝聞でしか知る事のない実際の船上生活を肌で体験し、実航海における運航状況や船内生活を学ぶ機会を得る事ができます。

この度、私は国内製紙会社向け 3,850,000 cubic feet 型 Wooden Chip Carrier に体験乗船する機会に恵まれ、05 年 10 月 17 日から 12 月 10 日迄の約 2 ヶ月間、クルーの一員として実際の航海を体験しました。

本船は、ブラジルで伐採された木材を細かく粉砕して作られる木材チップを、紙の原料として日本まで輸送する役割を担っている船で、私は日本〜南米ブラジル間を約 90 日間掛けて往復する航路の復路 (ブラジル→日本) に乗船しました。日本を出発し、乗船地であるブラジル (リオグランデ港) に辿り着くまでに移動だけで約二日間を要しましたが、単身で地球の裏側にある目的地へ至る行程は、決して平坦なものではありませんでした。

非英語圏への渡航は初めての経験で、日本〜ロサンゼルス〜サンパウロ〜ポルトアレグレと乗り継ぐ空路移動で、英語が通じたのはロサンゼルス空港まで。そのロサンゼルス空港では美人女子大生 (アメリカ人留学生) と知り合いになり、幸先よく旅を進めていたのですが、サンパウロ空港、ポルトアレグレ空港とブラジル国内便の移動の際は全く英語が通じず、困難を極めました。

全ての航空便は日本で予約していたので、サンパウロ行きの便にはすんなり搭乗しましたが、サンパウロ到着時刻に遅れが発生し、ブラジル国内で乗り継ぎ便の変更を余儀なくされました。南米ではこのような航空便の遅れや欠航が頻繁に起こると、事前に知ってはいたのですが…。言葉が全く通じない中、何とか乗り継ぎ便を確保したものの、その便も故障により欠航。さらに機体変更で臨時便が出航することに。私の航空券は、書き換えに次ぐ書き換えの末、手書きでゲート番号と時刻が書き込まれるという始末でした。

空港内アナウンスは全てポルトガル語で理解できず、発着ボードにも臨時便は表示されないという状況で、搭乗時刻もわかりません。遠い異国の地で一人途方に暮れてベンチに座っていると、偶然にもロサンゼルス空港で知り合いになった美人女子大生と再会しました。更に偶然にも私が搭乗する予定の航空会社にブラジル人女性の友人がいると、更に更に偶然にもその友人は日本人男性の恋人がいるので日本語が話せるとのこと。ただの偶然かも知れませんが、世界はどこかで繋がっているのですね。

幸運の女神にも助けられ、空路の目的地であるポルトアレグレ市に無事到着。そこで一泊した後、リオグランデ市まで約 500km の牧草地帯をタクシーで横断し、ようやく港に到着しました (なお港の税関では、船員としてではなく passenger として乗船する手続きに一日を費やしてしまいました)。

リオグランデ港
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木材チップ
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航路
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航海中写真
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クルーの皆さん
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私が港へ到着した時には、既に本船の荷積み作業が始まっており、勢い良くチップがホールドへ注ぎ込まれていました。リオグランデ港は木材を粉砕する工場と岸壁の荷役装置がベルトコンベアで直結されており、24 時間休みなくチップが供給されます。チップ量を確認しながら 1 ホールドずつ積み込んで行き、約 6 日間掛けて全 6 ホールドを満載にします。本船に積み込まれるのは上質のチップで、日本の製紙工場で高級白紙やプリンター用の光沢紙に加工されるそうです。

なお、港への出入りは厳しく管理されており、港湾職員も例外なく、ID カードの提示や顔写真の照合が義務づけられています。顔見知りであっても、どんなに短時間であっても、このチェックを受けなければゲートが開かず出入りはできません。夜間も含め24時間体制でチェックが行われており、港湾施設のセキュリティの高さがうかがえます。

荷役を終えた本船は、リオグランデ港を出港した後、大西洋を横断しアフリカ喜望峰を周って、インド洋マダガスカル島沖を北上。そしてマラッカ海峡を通過し、シンガポールで給油および食料補給の後、更に南シナ海、東シナ海、日本海と北上して新潟東港へ入港するという航路でした。

大西洋は限りなく広く青く、透き通る様な海と空が印象に残っています。インド洋は噂に違わず海象は荒れ模様で、連日の左右のローリング、時折大きな揺れも経験しました。マラッカ海峡では、日本でもニュースになっておりますが海賊が頻繁に出没するという事で、クルー全員 3 交代でデッキ上を監視し、厳戒態勢で航行しました。南シナ海、東シナ海、日本海は試運転でも経験した事のある日本の近海と同様です。海に境界があるわけではないのですが、それぞれの海域で特徴が異なる事を、にわか船員ながら感じる事ができました。

船上での生活は陸上の情報から遮断される為、初めは社会から取り残される様な不安や戸惑いもありましたが、慣れてくるとそれもまた心地よく、非常に快適に生活する事ができました。船上から陸上への通信も e メールを使用できる為、さほど不自由を感じる事もなく、時差によるタイムラグがあるものの陸上のそれと変わりません。

私は居住区設計に従事している事もあり、主にクルーの生活を観察するのが目的でしたが、実際は造船所の人間として、また本船のクルーとして、不具合点や改善点の調査に多くの時間を割き、普段は接することのない機器やシステムを理解する良い機会となりました。船上で充実した時間が過ごせた為か、乗船前は長いと思っていた約 2 ヶ月の乗船期間も、下船の際には短く感じました。

最後になりましたが、本航海で机上では学ぶ事ができない貴重な体験の場を提供してくださった関係者の方々に厚くお礼申し上げます。


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