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広島大学工学部における人力飛行機の設計・製作活動紹介

広島大学大学院工学研究科社会環境システム専攻 岩下英嗣

広島大学工学部では、2002 年から人力飛行機を設計・製作して、毎年 7 月に琵琶湖で開催されている鳥人間コンテスト選手権大会へ参加しています。今年も 5 回連続の書類選考合格を果たし、去る 7 月 22, 23 日の大会へ出場しました。

図1 人力水中翼船
図1 人力水中翼船[拡大画像]

もともと、このチームは 1994 年に人力水中翼艇の設計・製作チームとして誕生し、毎年浜名湖で開催されているソーラー&人力ボートレース全日本選手権大会へ参加してきました (図 1)。その大会で 7 年連続学生部門総合優勝という快挙を成し遂げ、その後舞台を湖面から空へと移して人力飛行機に挑戦するようになったのです。

鳥人間コンテストへ出場するには、まず 3 月の書類選考に図面や計画書を提出して、競争率の高い選考に合格しなくてはなりません。合格するためには、他チームと比べて特徴のある機体が必要になり、各チームとも皆知恵を絞ってユニークな機体を提案しています。テレビ放映で、様々な変わった機体が出場しているのはそのためです。広島大学工学部チームでは、他に例を見ない双発機でプロペラ機部門に挑戦しています。双発機とはプロペラが二機装備されている航空機です (本来はエンジンも二発装備)。これを人力飛行機として設計・製作する場合には、空力的にも構造的にも通上の単発機と比べてデメリットの方が多い難しい機体になりますが、設計上、難しさがあるからこそ挑み甲斐があると考えています。将来的には、パイロットを二人にして真の意味での双発機へと発展させていきたいと計画しているところです。

設計・製作に当たっているのは、工学部の機械系の学生を中心として理学部、総合科学部、生物生産学部、医学部など多くの学部からの学生達で、スタッフの総数は 25 名程度になります。これでも他チームに比べると少数なのです。とにかく全幅 30m にもなる大きな機体を製作するのですから人手が掛かります。機械工作に関しては、工学部学校工場の技官の方々にも協力頂いています。色んな学部、色んなキャラクターの者が集まって、あれやこれやと議論しながら一つの物を作り上げるチーム、ということからチーム名称は「色彩」の意を英語にして Hues としています。

図2 東体育館での主翼製作風景 図3 コクピットの組み立て風景
図2 東体育館での主翼製作風景[拡大画像] 図3 コクピットの組み立て風景[拡大画像]
図4 東体育館での展示会の様子
図4 東体育館での展示会の様子[拡大画像]

製作は、主翼、水平・垂直尾翼、フレーム、駆動系など、パーツごとの製作班に分かれて平行作業で行われます (図2, 3)。参加 2 年目くらいまでは書類選考合格通知を受けた直後からわずか 1.5ヶ月ほどで製作するという突貫作業を行っていましたが、最近では 7 月の大会後、9

月からは次年度の機体の製作に入るようにしています。これにより、より多くの時間を試験飛行と機体の調整に充てることができるようになりました。機体の完成には概ね 2ヶ月を要し、完成するのは 11 月くらいです。それから機体の展示会 (図 4) を行った後、岡山県笠岡市の笠岡空港まで運搬して試験飛行を行います。

その後、試験飛行と機体の調整を繰り返して 7 月の大会へと望みます。強豪チームは試験飛行を 5 回以上も行うそうで、試験飛行を通じてのパイロットの操縦練習と機体の調整が本番での成績を左右すると言って過言ではないでしょう。

図5 プラットフォームから見た離陸の様子
図5 プラットフォームから見た離陸の様子[拡大画像]

一連の設計・製作活動は、将来物づくりに携わるであろう工学部の学生にとって座学では得られない非常に貴重な経験になります。計画・設計・製作・評価に加えてプロジェクトマネージメントという物づくりのプロセスを余すところなく体験できるからです。このプロセスを、できるだけ若い学生時代に経験することの重要性は就職活動においても感じることができます。特に自動車メーカーなど総合工学分野の就職面接ではこのような経験を高く評価してくれるようです。「面接では人力飛行機製作のことしか聞かれなかった」という体験談を多く耳にしますからメーカーもそれだけ評価しているということでしょう。幸いにして、広島大学では機体の製作に必要となる費用の多くを大学が支援してくれています。学生諸君にとっては授業料の元を取れる機会でもありますから、より積極的に参加してもらいたいと念じているところです。図 5, 6 に鳥人間コンテストにおけるフライトシーンを紹介しておきましょう。

図6 観客席から見たフライトの様子
図6 観客席から見たフライトの様子[拡大画像]

昨年からは、呉市大和ミュージアムから出場している滑空機 (フォーミュラクラス) の設計・製作にも協力しており、活動の幅を広げてきています。主として製作に当たっているのは呉市の職員さん、呉工業高等専門学校の教員さんに筆者を含め 7 名です。社会人チームですので、製作に割ける時間はアフターファイブのみとなりタイトなスケジュールをこなさなくてはなりませんが、逆に予定した線表通りに作業が進みます。社会人であるがゆえに締め切りの重要さを知っているからでしょう。大和ミュージアムから出場した機体名は「Zero II」。ミュージアムに琵琶湖から引き上げられた零式戦闘機が展示されていることから名付けました。今年は、過去のフォーミュラクラスの記録を一新する 101m を飛行して暫定 1 位の座にいましたが、後続の 2 チームにわずかに抜かれて 3 位入賞 (賞金 10 万円) という成績でした。設計上の滑空比からすると 150m は飛べる機体でしたが、最後に横風に煽られて左旋回したため飛距離をロスしてしまったのが残念です。図 7 に飛行シーンを載せておきます。

図7 大和ミュージアム「ZERO II」の飛行
図7 大和ミュージアム「ZERO II」の飛行[拡大画像]

広島大学の旧船舶海洋工学科は、十数年前にエンジニアリングシステム教室と名称変更した後、4, 5 年前からは土木教室と合体して環境グループとなるなど色んな変遷を経てきましたが、今春入学の学生からはプログラム制が新規導入されることになり、当教室は輸送機器環境工学プログラムを担うことになりました。そのカリキュラム構成は航空機・船舶・自動車など輸送機器と、風力タービンや海洋発電機器など環境関連機器に焦点を絞った教育内容に大幅に変更されるとともに、教室の運営形態も土木とは完全分離する形に戻ります。

こうした背景もあり、当教室では今後、船舶とは兄弟分野とも言える航空機分野に関心のある学生を含めた募集を図っていく方向にあります。今回紹介させていただきました人力飛行機の設計・製作活動は広報に益する部分も多く、そういう意味で、広島大学工学部のみならず当教室にとっても重要度を増してきています。


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