(株)新来島どっくにおいて8月21日から9月1日までの2週間、大学・専門学校生17名による夏期実習が行われましたのでその内容について紹介致します。
当社では大学・高専の体験学習への協力、及び造船業の面白さを知ってもらうことによる造船業のイメージアップを目的として、毎年実習生の受け入れを行っております。今年は 8 月 21 日から 25 日までの 1 週間、船舶の設計実習をしてもらい、28 日から 9 月 1 日までの 1 週間はガス切断、溶接実習を含む製造現場での実習と建造船乗船を体験してもらいました。設計実習では 17 名の内、9 名が回流水槽で実習を行い、8 名が各部署に分かれて CAD 等を用いた設計実習を行いましたが、ここでは回流水槽での実習内容について紹介致します。
回流水槽での実習は学生に船の推進性能及び設計手法を理解してもらうと同時に物づくりの楽しさを理解してもらうことを目的としており、例年、当社の建造船をベースとした船型の設計、水槽試験用模型の製作、水槽試験を体験してもらっています。今年はケミカルタンカーの船体抵抗の低減を目的として、バルバスバウを含む船首形状の設計に挑戦してもらいました。
実習で使用する模型船は、船首のみの付替えが可能なものを当社で準備しました。また、実習では実習生 9 名を三つのグループに分け、各グループ内で回流水槽の操作担当者、模型船のセッティング担当者、試験計測の担当者を決めて予め操作方法・取り扱い方法の指導を行い、水槽試験についても全て学生主導で作業を進めてもらいました。
模型船製作作業の様子[拡大画像] |
出来上がった船首模型[拡大画像] |
水槽試験準備作業中の様子[拡大画像] |
実際の作業は先ず、船型の検討から始めます。オリジナルの船首を付けた模型船を使用して波形観察、抵抗試験を行い、各グループごとに模型船に粘土を付けながら抵抗が下がりそうな船首形状の検討を行いました。次に船首部の船体線図の作成です。学生の多くが船体製図の経験がなく、バッテンを手に悪戦苦闘しながら何とか各グループ独自の船首部の線図を仕上げることが出来ました。
いよいよ船首部模型の製作です。船体線図をもとに模型製作用のゲージを製作し、それにあわせて硬質ウレタンのブロックから模型を削り出していきます。実際にものを作る作業は学生にとって面白いようで、ウレタンの削り粉で真っ白になりながら皆、楽しそうに作業をしていました。削り終わったウレタン模型の表面に樹脂塗装を施し、サンドペーパーで研磨して仕上げ、予定通りに船首模型を製作することが出来ました。出来上がった模型は何れも見慣れたバルバスバウの形状と異なる斬新なものであり、学生を指導する立場としては「ちゃんと水槽試験で確認したのか?」と疑念を持ちつつも学生の自由な発想には感嘆するばかりです。
このようにして出来上がった斬新な三つの船首とオリジナルの船首、計四つの船首で抵抗試験を実施しました。各グループの抵抗試験が終わる度、学生達は勝った負けたと異様に盛り上がっていました。後で聞いた話ですが、学生達で今回の水槽試験結果に賞品 (ポンジュース) を設定していたらしく、それが異様な盛り上がりの原因だったようです。結果としてオリジナルの船首形状が最も抵抗値が低く、プロとしての面目を保つことが出来ました。
実習後の学生の感想では、自分で設計した船を模型として実際に製作出来た点が良かったという意見が多く、物づくりの楽しさを理解してもらうという点では成功裡に終わったと感じています。今後もこのような実習活動を通じて少しでも若い人に船のこと、物づくりの楽しさを理解してもらい、造船業に興味を持ってもらえればと思います。