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アフラーマックスタンカー "SEASENATOR" 乗船記 (前編)

(株)名村造船所艤装部 林 武士
写真1 Sno.262 M/T「SEASENATOR」
写真1 Sno.262 M/T「SEASENATOR」[拡大画像]

平成19年1月5日に引渡し出帆した新造船、Sno.262 M/T「SEASENATOR」(写真 1) にサービスエンジニアとして乗船しました。

ここでは、就航後の運航・荷役・船上生活・海外での上陸などの体験を通じ得たものを紹介し、就航船 (生き船) の現状を広く知ってもらいたいと思います。


1. はじめに

本船の概要は次の通りです。

船主 VALESS STEAMSHIP (CANADA) LTD. 殿
D. W. 105,000MT
船級 ABS
船籍 香港
乗組員 27名 (全てインド人)
引渡し 平成19年1月5日

本船は AFRA MAX TANKER で、主に地中海を中心に荷役を行います。そのため約 2 日程で次の荷役港に到着してしまい、荷役を管理する C/O (一等航海士) が一人では負担が掛かりすぎるため、二人の C/O が乗船していました。

写真2 荒れた東シナ海
写真2 荒れた東シナ海[拡大画像]

引渡し前の乗組員は「あれをしてくれ、これをしてくれ」と注文が多かったのですが、引渡し出帆後は「何もしなくていい、クルージングのつもりで乗っていてくれ」と言われ、何をしたらいいのか少々戸惑いました。乗組員にとって一番困ることは、怪我をされることだと言われ、怪我と健康だけには注意して頑張ろうと思っていました。ところが出帆して 2 日目に海象が非常に悪く (写真 2)、自動から手動に操舵を切り替え、波に舳先を立てながら蛇行しないと立っているのも困難なほど大揺れし、いきなり船酔いでダウンしてしまいました。

乗組員から教わった船酔いした時の対処法として、飲み物、流動食は胃の中で動き吐き気を催すから、出来るだけ取らずに、食事を取って胃を満たすようにすることでした。寝込んでいる時に C/O が 2 人して心配してくれて、食事を取るようにと MESS ROOM (食堂) に連れて行かれたのですが、インドカレーがでてきました。これは流動食ではないのかと思いながら食べましたが、やはり、吐き気を催しました。昼も夜も、インドカレーでした。

次に航路を説明します。

平成19年1月5日 名村造船所出帆
平成19年1月12日 SINGAPORE <バンカー>
平成19年1月26日 WADIFEIRAN(エジプト)<1stLOADINGPORT>
平成19年1月31日 SUEZ運河通過
平成19年2月4日 GELA(イタリア)<1stDISCHARGEPORT>
平成19年2月7日 ZUETINA(リビア)<2ndLOADINGPORT>
平成19年2月11日 MILAZZO(イタリア)<2ndDISCHARGEPORT>
平成19年2月13日 下船

上記のように、本船は地中海で一週間に約 3 港、一ヶ月で 10 数港も寄港し荷役を行う、非常にハードスケジュールとなっています。乗船中の私の主な仕事は、不具合およびクレームを調査し、会社へ報告することでした。細かいトラブルは有りましたが、大きな問題となるようなトラブルは無く、乗組員も親切に接してくれ船内生活を楽しく快適に過ごすことが出来ました。


2. イナーティング

写真3 サクションウェル内残水
写真3 サクションウェル内残水[拡大画像]

東シナ海の揺れがおさまった頃、イナーティング準備を始めました。先ず、各カーゴタンク内の酸素濃度を確認し、タンク内チェックを行いました。チェック内容は、タンク内の雑物確認、コンソールとタンク内でのバルブ作動確認、サクションウェル内の残水 (写真 3) 確認を行いました。サクションウェル内には、タンク内が結露しシトシトと水滴が滴り落ちており、ベルマウスの先が浸かるほど溜まっていました。ベルマウスと残水のクリアランスが取れていないタンクは、全タンク残水引きを行いクリアランスを確保しました。


写真4 酸素濃度計測
写真4 酸素濃度計測[拡大画像]

サクションウェル内ベルマウスのクリアランスをキープする理由は、イナーティングのライン組みにありました。ライン組みは IG LINE からイナートガスをタンク内に送り、SUC.PIPE & DISCH.PIPE LINE を通してマニホールドから、ガス抜きを行っていました。そのため、SUC.PIPE LINE のベルマウスがウェル内の水でシールされていては、ガス抜きができないと言うことです。4 タンクずつイナーティングを行い、酸素濃度をマニホールドの出口で計測 (写真 4) し、SLOP TANK を含めて全 14 タンク 6 % 以下にするのに、約 35 時間を要していました。

3.航行中の状況

イナーティングが終了すると、天気の良い日は甲板上で作業を始めました。

先ず、オイルタイトハッチ、ラッシングワイヤーのターンバックル等に防食テープ (写真 5) を巻き、各機器のグリスアップを行っていました。特に係船ワイヤーに関しては、(写真 6) の様にエアーポンプ、ツールを使用し、ワイヤーをドラムに巻き取りながらグリスアップを行っていました。

写真5a 防食テープ巻き (その1) 写真5b 防食テープ巻き (その2)
写真5a 防食テープ巻き (その1)[拡大画像] 写真5b 防食テープ巻き (その2)[拡大画像]
写真6 係船ワイヤーグリスアップ
写真6 係船ワイヤーグリスアップ[拡大画像]

またステンシルを作成し、注意事項等のマーキングや、マニホールド、グレーチングを黒に仕上げるなどペンキ缶片手に様々な箇所で塗装作業 (写真 7) を行っていました。

写真7a 塗装作業 (その1) 写真7b 塗装作業 (その2)
写真7a 塗装作業 (その1)[拡大画像] 写真7b 塗装作業 (その2)[拡大画像]

居住区内でも、 チャートテーブル用ライトにコンセント (写真 8) を追加し、CHANGING ROOM (更衣室) にベンチ (写真 9) を作成するなど、乗組員の手によって使いやすいよう様々にカスタマイズされていきました。

写真8 コンセント増設 写真9 ベンチ作成
写真8 コンセント増設[拡大画像] 写真9 ベンチ作成[拡大画像]

A-DK. SHIP'S OFFICE 前の通路にはメッセージボードが設置され、その日の予定や連絡事項等が記入されていました。乗組員はもちろん、私も確認をしていました。リビアに向かう前日のメッセージ (写真 10) には、XXX movie や卑猥な雑誌、カレンダー等はブリッジに持ってくるように、と書かれていました。すると山のように集まり、全て 1 ヶ所のロッカーに収められシールされました。この国では何かとケチを付けられ、罰金を払わされるそうです。

写真10 メッセージボード
写真10 メッセージボード[拡大画像]

本船では特に忙しい時以外毎週土曜日に船内ドリルが実施されます。ドリルは、OIL SPILL DRILL (写真 11)、FIRE DRILL (写真 12)、ABANDON SHIP DRILL (写真 13) と 3 種類有り、乗組員全員参加で行われ、どのドリルも迅速を規とするものであり、真剣に取り組んでいました。

写真11a OIL SPILL DRILL (その1) 写真11b OIL SPILL DRILL (その2)
写真11a OIL SPILL DRILL (その1)[拡大画像] 写真11b OIL SPILL DRILL (その2)[拡大画像]
写真12a FIRE DRILL (その1) 写真12b FIRE DRILL (その2)
写真12a FIRE DRILL (その1)[拡大画像] 写真12b FIRE DRILL (その2)[拡大画像]
写真13a ABANDON SHIP DRILL (その1) 写真13b ABANDON SHIP DRILL (その2)
写真13a ABANDON SHIP DRILL (その1)[拡大画像] 写真13b ABANDON SHIP DRILL (その2)[拡大画像]

OFFICER'S CLASS はワッチを組み、勤務していましたが、明るいうちはワッチ時間以外も資料を纏めたり、ステンシルを作成しマーキングするなど、黙々と仕事をしており非常にまじめで勤勉な乗組員だと思いました。 一般の乗組員は、朝 8 時から夕方 5 時までが勤務時間で、先に述べたように、防食テープ巻き、機器のグリスアップ、塗装作業等を行っていました。また午前 10 時と午後 3 時には、MESS ROOM に上がってきてコーヒーブレイクを取っていました。

SHIP'S OFFICE にはパソコンが設置され、乗組員は C. B. T. (COMPUTER BASED TRAINING) と言う船内作業、生活における注意事項を "YES, NO" クイズ方式でトレーニングするプログラムをローテーションで全員が取り組んでいました。

勤務外の過ごし方は、SMOKING ROOM で映画やドラマを見たり、音楽を聴いたりしていました。乗組員は全員インド人だったので、殆んどがインド作品で、映画もドラマも必ず 30 分に 1 回は歌とダンスが入ります。インド人もこれが問題であると言っていたのですが、その場面が一番盛り上がっていました。SPORTS ROOM では鉄アレー、ルームランナー、室内自転車、腹筋台があり、筋トレや運動をしたりと思い思いにすごしていました。

後編へ続く。


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