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アイオワ大学滞在記

広島大学大学院工学研究院エネルギー・環境部門 佐野将昭
背丈以上のトウモロコシ畑
背丈以上のトウモロコシ畑
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2010年5月1日から2011年4月30日までの1年間、アメリカ合衆国アイオワ大学水理学研究所(IIHR-Hydroscience & Engineering、 The University of Iowa)に博士研究員として滞在する機会に恵まれました。今回は8ヶ月経った現在の活動報告を兼ねまして、滞在先の紹介をしたいと思います。

アメリカ中西部に位置するアイオワ州は、民主党、共和党共に大統領選挙の予備選挙を最初に実施する州として知られています。教育レベルは高く、物価や医療費も安い事から、Morgan Quitno Publishing社の2008年調査では、最も住みやすい州の第5位にランクされました。アメリカの各州はそれぞれ愛称を持っており、アイオワ州は "The Hawkeye State (鷹の目の州)" と呼ばれています。由来は諸説あるようで、ソーク (Sauk) インディアン族の酋長Black Hawkの勇猛果敢な眼を形容したという説を筆頭に、アメリカ全土を鷹の顔に例えた時にアイオワ州の位置が鷹の目に位置するといった妙に納得できるユニークな説もあります。アイオワ州は知る人ぞ知る農業王国であり、州の面積の実に90%以上を農地が占める穀倉地帯です。肥沃な土壌、豊富な天然水の下でトウモロコシの生産高は全米1位、大豆は全米2位を誇り、それらを飼料として育つアイオワビーフやポークは高品質ブランドとして名を馳せています。見上げる程育ったトウモロコシが視界一杯に広がる風景には、この国の雄大さを改めて感じさせられます。

そんなアイオワ州東部のアイオワシティに本部を構えるアイオワ大学は、創立1847年、11のカレッジに約1,700の学部を持つ州立総合大学です。104ヶ国からの留学生8%を含む学生総数は3万人、教官と事務官の総数も13,000人を超えています。周辺を含めた総人口がおよそ15万人である事を考えると、大学の存在感が一段と際立って見えます。また大学の施設は街の至る所に点在しており、その間を "CamBus" と呼ばれる16路線を有する無料バスが約15、30分間隔で早朝から深夜まで巡回しています。運行費用の一部は学費で賄われていますが、一般の人々にも開放されており、年間400万人とも言われる利用者数を見ても、市民の足としての利便性は計り知れません。地域に根ざした大学の運営は、同じ学園都市である東広島市にも通じる面があると感じました。

冬の凍るアイオワ川
冬の凍るアイオワ川
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単身乗り込んだアイオワでの生活も春、夏、秋と8ヶ月が瞬く間に過ぎ去り、いよいよ厳しい冬に差し掛かろうとしています。今年には、冬場の学生の運動不足解消を狙い、215,000平方ftにも及ぶ本格的な屋内トレーニング施設が新たに建てられました。3階から成る本建物には、52.5ftのクライミングウォール、一周1/9マイルのトラックに加え、50mの競技用プールも完備しています。こちらの学費は、授業時間数に応じた授業料 (Tuition) に加え、使途を明確にして別途徴収する "Mandatory fee" から成り立っており、その一項目の "Recreation fee" がこの施設運営費に充当されるそうです。学費を一括一律徴収の日本では、ともすれば学生は大学のサービスを受身で捉えがちですが、自ら支払った額と使途を関連付けられる学費のシステムであれば、授業への気概や大学運営に出資・参画しているとの意識を高められるのかもしれません。

最後に研究活動について触れたいと思います。私が所属する水理学研究所は水や空気の流れを扱う3つの研究分野に分かれており、そのうち私は主に船周りの流体力学を扱うFrederic Stern教授のチームに属しています。この2010年夏に、約5億円をかけて船舶の自由航走試験を行う角水槽 (40m×20m×3m) が完成し、現在は一連のシステムの精度チェック、造波性能の確認といった水槽の立ち上げ作業に携わっています。この建設プロジェクトでは、8トンに及ぶ電車の機構部を日本の三真製作所が、システム関係を森技術研究所が担当しており、アドバイザーとして大阪大学の戸田保幸先生も参加されました。本水槽の特徴は、画像処理装置を用いて電車で船舶の平面運動を追従できる点にあります。PIVシステムを電車に設置して船と並走させる事で、自由航走時の船体周りの流場を計測する事が可能です。Stern教授の研究チームは、CFDShip-IowaというURANSコードを長年開発しており、今後、角水槽で得られた詳細な流場情報が、本CFDコードの精度向上に役立てられる予定です。

角水槽内に出資者等を招待しての落成式
角水槽内に出資者等を招待しての落成式
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  現在の角水槽(水底にはシンボル
現在の角水槽
(水底にはシンボル "Hawkeye" が描かれています)
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佐野将昭
広島大学大学院工学研究院エネルギー・環境部門
船舶流体力学

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