エコール・デ・ミンにて情熱的に研究を続けておられるAndré Pineau教授(左)と筆者 [拡大画像] |
2011年3月末からの約3ヶ月間、フランスの国立研究機関であるエコール・デ・ミン(École Nationale Supérieure des Mines de Paris)材料センターおよびエコール・ポリテクニーク(École Polytechnique)固体力学研究所で客員研究員をさせていただく機会を得ました。
それぞれの研究機関におけるコンタクトパーソンは、材料の変形・強度や接合界面などに関して研究を行っているEsteban Busso教授と金属材料の疲労・強度を主として研究を行っているAndrei Constantinescu教授です。往訪した研究施設は何れもフランス独自の高等専門教育機関であるグランゼコールの中でも名門校として知られています。本稿では、両機関の概要をご紹介させていただきます。
まず、エコール・デ・ミンは、ルイ16世の勅命により創立された王立鉱業学校(École Royale des Mines)を起源とし、メインキャンパスはパリ中心部のルクサンブール公園に隣接しています。私の所属した材料センターは、街の中心部から南東へ30km程度の距離にある小さな街Evryのはずれに位置していますので、本校舎から朝夕一往復する連絡バスを使用しました。
所属の研究者およびスタッフは約100名、博士取得を目指す学生および博士研究員約100名が在籍しており、各種材料・構造体・接合界面の変形・強度・疲労に関連する実験および数値解析において先駆的研究を行っています。
同センターは、原子力・航空・自動車等を含む各種業界との繋がりを重要視しており、中でもフランスの軍用航空機や艦船、ロケット用、発電用のエンジンなどの開発などで知られるスネクマ(Snecma)の研究施設に隣接していることから、研究交流も盛んに行われていました。また、その名を冠された衝撃試験法の開発者として有名なシャルピー博士も過去に教授として在籍しており、100年以上前に開発された試験機を拝見したときは感慨深かったです。
次に、エコール・ポリテクニークについてご紹介します。本研究機関は軍所属の学校として1794年にナポレオンにより開校され、現在も国防省に所管されているそうです。現在のメインキャンパスはパリ中心部から南西へ30km程度の街Palaiseauにあります。
1年間の入学者は500名で、5年の就学限間中に短期の軍事教練や軍隊・警察・消防隊・官庁などでの長期体験研修を受け、多くの卒業生は高級官僚や官民の研究・教育機関へ就職するそうです。また過去にNavier、Poincaré、Cauchyなど数多くの著名な数学者・物理学者を輩出していることは周知のとおりです。
キャンパス内には軍服を着た関係者を数多く見ることができ、また著名な学者の名を冠した会議室で開催していただいたセミナーでは身の引き締まる思いがしました。なお、日本でも馴染みのあるカルロス・ゴーン氏は「エコール・ポリテクニークを卒業後、同じくエリート校のエコール・デ・ミンを修了したことで、フランスでは大学や大学院より入学が困難なグランゼコールを2校出た超エリートとして社会に認められ・・・」(Wikipedia記事より抜粋)と紹介されるように、独自の高等専門教育機関であるグランゼコールは高く評価されているようです。
ここでご紹介した2つのグランゼコール以外にもÉcole Centrale de LilleとÉcole Nationale Supérieure de Mécanique et Aérotechnique (E.N.S.M.A)においてセミナー講師を担当させていただくなど、多くの研究者と議論する機会に恵まれました。また震災直後の渡仏ということもあり、行く先々で心のこもった温かい言葉を頂戴しました。最後になりましたが、この場をお借りしてこれまでご支援いただいた多くの皆様に心よりお礼申し上げます。
堤 成一郎 九州大学大学院工学研究院 海洋システム工学部門 疲労・材料・構造解析 |