トップページ > 論文集・学会誌 > 学会誌 -KANRIN- > 第69号 > 特集にあたって
輸送機器である船舶にとって,乗り心地や快適性の向上は重要な技術課題の一つである。近年は社会的なニーズの高度化により,旅客のみならず乗組員の快適性を確保することも強く求められるようになった。
一方,学会誌において船の快適性が取り上げられることは決して多くはない。新騒音規定の発効を受け,KANRIN58号において騒音に関する特集が組まれている。しかし,船の動揺という観点では,日本造船学会誌815号の特集に掲載されているものの,それ以降は特集としては取り上げられていない状況である。
このような経緯を受け,今回は「船の快適性」に関する特集を企画することにした。本特集は10件の記事で構成されており,大きく「船の動揺とその防止法」に関する記事と「温湿度環境」に関する記事に分類される。
「船の動揺とその防止法」に関しては,まず(株)IHIの伊藤氏に船体運動の基礎と特徴を解説していただいた。次に,動揺低減装置に着目し,東明工業(株)の梅村氏にジャイロ型の減揺装置を,(株)IMCにアンチローリングタンクを,三菱重工舶用機械エンジン(株)の鈴木氏にフィンスタビライザーを,そして三井造船(株)の村田氏・奥村氏に舵の制御によって船の動揺を軽減させる装置について紹介していただいた。東京大学の北澤先生には波エネルギを吸収する新しい船舶を紹介していただいた。さらに鹿児島大学の重廣先生に船酔いのメカニズムと評価法を解説していただくとともに,鉄道総合技術研究所の鈴木先生に他分野における先進事例として列車酔いの概要とシミュレータを用いた評価・改善事例について紹介していただいた。
一方,「温室度環境」については,日本海事協会の玉田氏に船舶の冷凍空調装置と環境対策に関わる基礎とルールを解説していただき,日新興業(株)の圓福氏に船舶に用いられる空調装置の概要とその設計指針について解説していただいた。
本特集が,船の快適性や動揺に関する理解を深める一助になれば幸いである。