トップページ > シリーズ 学生突撃レポート > Vol.003(学会誌「咸臨」2006年1月第4号より)

シリーズ 学生突撃レポート Vol.003 内海造船株式会社編

1.はじめに

独立行政法人弓削商船高等専門学校(愛媛県越智郡上島町)では、船舶職員の養成教育のために校内練習船“弓削丸240総トン”を保有・運航しています。毎年1回の定期的な修繕および検査工事のための入渠は、地域的に近隣の内海造船(株)田熊工場を多く利用させて頂いています。

写真1 内海造船本社・瀬戸田工場
写真1 内海造船本社・瀬戸田工場

しかし、本校の学生は主に船舶運航技術を学んでいますが、専攻が造船とは異なるため造船所内での修繕作業や新造船の建造過程を見学する機会がほとんどありません。

この度私は、近く進水式を迎える建造中の船や各種船舶の建造技術が蓄積された造船所を一目見てみたいと思い写真1の内海造船本社・瀬戸田工場を取材させて頂きました。

2.内海造船概要

内海造船株式会社は1944年に広島県瀬戸田町に設立された瀬戸田造船株式会社と、隣の因島にある田熊造船株式会社が1972年に合併して誕生しました。このときに瀬戸田町の工場を瀬戸田工場、因島の工場を田熊工場としました。2005年には同じ因島にあるニチゾウアイエムシーと合併し、この工場は因島工場として2006年から本格稼動予定とのことです。

内海造船(株)の特徴として長年プロダクトミックスにて建造を行ってきたことがあげられます。それにより、多岐多彩にわたる知識、技術を持った技術者が数多く働いています。また、中・小型フェリー建造に関して多くの実績があります。

この度、私の無理な取材を快くお請け下さった秋吉公廣 瀬戸田副工場長をはじめ、表正和 基本設計部長、天野隆文 機電課長、宮地孝一 総務課長の皆様には、心から感謝するとともに、工場内ではお忙しい中、各部を案内して頂き、その上に、皆様から多くの貴重なお話を伺いました。本報告は、見学記として私なりにまとめたものでここにその一部分についてご紹介をさせていただきます。

3.瀬戸田工場見学

3.1 修繕ドック

最初に、修繕ドックを案内して頂きました。瀬戸田工場内には長さ230mと119mの2つのドライドックがあります。見学当日(平成17年8月19日)には船舶は入渠しておらず、ドック内を土木作業機による整備作業が行われていました。船を支える盤木は特に集中荷重がかかる部分なので定期的に補修作業行っているとの事でした。

3.2 船殻工場

写真2 (船殻工場)NC切断作業
写真2 (船殻工場)NC切断作業

次に船殻工場を案内して頂きました。

工場内には、油圧プレス機やNC切断機などの加工機が整然と並んでいました。それらの自動化された機器にてほとんどの加工工程は終わってしまうものと想像していたのですが、船首部などの3次元的に曲がった部分は、直接人間の手で加工されていることが驚きでした。

写真3 (船殻工場)曲面加工作業
写真3 (船殻工場)曲面加工作業

他にも、溶接を行った後に発生する歪みを取るのに鉄板のどこを加熱してどこを冷却すると完全に歪みを取ることができるか、といった熟練工による経験的作業の紹介がありました。こうした経験が問われる作業は特に技術を伝承させていくのが難しいことであるのではと感じました。

また、船舶のような複雑かつ巨大な構造物は、機械加工のみでは限界があり、熟練者の技術を必要とすることがわかりました(写真2、3)。

3.3 船台

船殻工場を見学した後は隣接する船台を見学しました。船台は長さが192mあり、船台上で建造された船はヘット進水と呼ばれる方式で進水するとのことです。

ヘット進水とは船台と滑走台の間にヘットと呼ばれるワックスのようなものが塗られています。このヘット進水を用いると進水時に静かに滑走しながら船が進水するということです。このクラスの船台でヘット進水を行っている造船所は内海造船の他にはあまり無いとのことでした。

写真4 ヘット進水船台
写真4 ヘット進水船台

船台では進水準備が進められおり、船台と建造船の船底の間の狭い空間(約1.3mくらいの高さ)に固定台と滑走台が据え付けられておりました(写真4)。

進水作業をする人は「進水式前日から船のバランスと進水開始までの時間を見ながら船底の盤木をはずしてゆくために、進水式前日は徹夜での作業になります。

ですが、造っている船1つ1つに思い入れがあるのでそれほど苦とも思いません。進水式のときは自分たちが造った船だから感動も大きいです。」とおっしゃっていました。

船という大きな構造物が、たかだか数十秒で水に浮かぶという、陸上建築物では考えられない一大イベントであり、この大工事を無事に行っていくためには大変な苦労があることを現場で建造船の大きさに圧倒されながら、よくわかりました。

3.4 建造中の新造船内部

見学に伺った時は、船台にて4300台積自動車専用運搬船(以下PCC)を建造中でした。

船底部に設けられた作業用出入り口より船内(直接機関室)へと入って行きました。主機関や補機等は搭載が完了しており、機関制御室にある主配電盤と機器との配線作業が行われていました。膨大な量の配線を熟練工の方は到底真似できないような速さで結線しておられました。進水式当日までには、機関部は艤装が完了している状態になるようでした。

写真5 据付が完了したファンネル部
写真5 据付が完了したファンネル部

次に、上甲板に上がり当日、取り付けが完了したファンネル内部を案内していただきました。見学に伺った際には内部の配管をスリーブ継ぎ手の溶接にて連結する作業が行われていました。

熟練工の方は「各配管を正確に合わせるのに約20分程度かり、1人で合わせる場合でも翌日の夕方には完了しています。」と言われ、作業にかかる時間が予想していた時間よりはるかに短いことに大変驚きました(写真5)。

3.5 案内の中で

瀬戸田工場全体を案内していただいた中で、従業員のうち若手社員の方が少ないと感じましたが、採用は積極的に行って、着実に若手が増えているとのことです。

工場内は受注量も多くて忙しくフル稼働している造船工場や新造船内を案内していただきました。

ベテラン社員の方々に話を伺ったところ「この良い船を造る」ということを生きがいや誇りとされており、かつそれらを楽しみながら仕事を行う方々の集まりが造船会社であると感じました。

また、その誇りが厳しい現場であろうと立ち向かっていくのだろうと感じました。熟練工の一人は「建造するという船に対する熱意が大切。まず、熱い思いがないと途中で挫折を味わった時に続けられなくなってしまうよ」と言っていました。

写真6 後日,進水式を迎えたPCC
写真6 後日、進水式を迎えたPCC

見学の途中で巨大な船を造っていくにつれてさまざまな問題が出てくるのではないかと聞いてみると、「船を造るという作業は、決して一人で行うわけではありません。さまざまな数多くのクラフトマンの工夫が折り込んでこそ出来上がってゆきます。

弊社にて建造できる最大級の大きさ(総トン数)となるこのPCCは、受注前の段階よりさまざまな検討事項がありました。

当然のことながら、さまざまな部門ごとにアイデアを発揮する場面は異なります。たとえば、予定進水重量に対して船体がスマートであるため、船の前後に大きなフロートタンクを取り付けることになり、タンクの大きさ、製作・取り付け方法、工程の調整等様々な検討をしました。」と言われ、組織内での連携の重要性が集団にて作業を行うにあたり最も重要な観点であると感じました。

この瀬戸田工場では、現場の方々の船に対する熱意と、物を創るという難しさ、またそれらの問題点を、英知を集めて克服したときの面白さというある種独特のエネルギーを感じ取ることができました。

4.インタビュー

写真7 左より宮地 課長,天野 課長,秋吉 副工場長,表 基本設計部長
写真7 左より宮地 課長,天野 課長,秋吉 副工場長,表 基本設計部長

最後に、秋吉 瀬戸田副工場長、表 基本設計部長、天野 機電課長、宮地 総務課長にお話を伺いました。

Q:
瀬戸内海に四方を囲まれた環境で建造する上で苦労される点はありますでしょうか。
A:
輸送の大部分を占める鉄鋼やブロックは、大きさやコスト的に考えて陸上輸送できないため、海上輸送になります。このため、島であっても建造する上で問題はありません。しかし艤装用の機器はトラック輸送であるため、橋が開通する以前は時間的な制約を受けていました。現在は、輸送費は多少かさみますが、時間的制約はなくなりました。
Q:
外航船など外人船員が乗り込んでいる船舶の入渠の際の外人船員とのコミュニケーションはどのようにされているのでしょうか。
A:
船員は船を直そうという目的があり、また私達は巣立っていった船を元通りにしようとする目的があります。目的意識が同一方向であるため何を言っているのかわかります。要するに目的意識が同じという事が大きいと思います。
Q:
近年の新人社員の育成についての方針についてお教えください。
A:
造船業界の共通の課題として、技術の伝承という問題があります。各造船会社の人員構成は、50歳代が一番多く主力となっています。この人たちの技術を受け継ぐべき人(若手造船マン)が、相対的に少ないためスムーズな技術の伝承が行われていないのが現実です。現在弊社では、熟練工に新人社員を付けることにより技術を取得する方法を取っています。また、熟練工の技術や経験を絶やさずに受け継がせていくために定年を63歳に延長しています。
しかし、若い人たちがいないわけではないので、努力すれば若くして責任あるポジションにつけるチャンスがあるということです。
現在、弊社の39歳以下の人員は、約210名いますが、みんな将来の内海造船を背負って立つ気概を持って、日夜技術の習得に励んでいます。
Q:
会社として今、必要としていることとはどのようなことでしょうか。
A:
造船は労働集約産業であり、色々な技術を持った人の集まりでありますが、年齢のアンバランスが発生しており技術伝承をどのようにして行うかが、危急の課題となっています。優秀な若い力が継続的必要です。
Q:
近年の船主の建造要望の傾向についてお教えください。
A:
まず、運航採算と環境保全を考慮した省エネ船が何より望まれています。主船体の船型改善ならびに省エネ付加物や省エネ設備により満載状態での省燃費を実現し、さらには空倉状態においても省エネ運航、つまりより少ないバラストで航行して燃料消費を減らす運航技術です。実際の運航における海象条件は、平穏な状態よりむしろ時化ている状態が多いことから、時化に強い船型と姿勢制御技術が望まれています。プロペラについても“時化での船体動揺により、大直径プロペラは必ずしも省エネとならず”との船主実感があります。
次に、実航海における船の総合性能を考えた、バランスの良い設計が望まれています。旅客フェリーでは客室設備の安全性が最も重要であり、船が揺れても旅客、特に高齢者や子供達が怪我をしないように、客室設備・遊歩スペースは陸上施設以上に、細かい配慮が必要で、バリアフリーに対して基準以上の配慮が望まれています。
また、環境保全対策としては近年、国際規則が強化されてきて、すでに油タンカーの貨物油タンクはダブルハル化(二重船底構造)が進んでいますが、さらに、自船用の燃料油タンクの保護やバラスト水有害生物拡散防止装置を設備していかなければなりません。
これらの国際規則に適合し、環境に優しい船舶を実現するために弊社では現在、建造船の設計見直し作業を行っているところです。
Q:
建造現場より研究・開発関係機関の方々へ伝えたい事はありますでしょうか。
A:
船主や乗組員あるいは環境に対して一番良い船を提供するために、船種に応じた船の総合性能についての研究をたくさん行って頂きたいと思います。そのためには、実際運航に係わる研究もっと増えるべきかと思います。
日本造船界には輝かしい実績と伝統があり、豊富な海事研究の蓄積があるわけですから、これらをさらに発展させた研究は言うまでもなく、色々な発想で自由に研究開発もしていただきたい。船主協会・学会・造船界がさらに知恵を出し合い、世界をリードする船舶を作り続けていきたいものです。
Q:
造船マンを目指す学生へ
A:
学業は基礎づくりであり、会社に入ってから学び直すことが多いけれど、学業はおろそかにできません。地味ではあるが、目標をたてて毎日の勉強(仕事)をこなして一歩、一歩前進することが大切です。
会社における仕事も同じ事であり、スケジュールをたて、地味な努力を積み重ね、業務改善を続けることによって、技術力がアップし、良い船が出来上がって行きます。
船というものが好き、ただ単に好きということではなく、その好きであるものを極めたいという熱意が大切です。
船に対する飽くなき好奇心を持ち、将来、自分が造って行くであろう未来の船に対する夢を持ち育てていただきたい。

5.おわりに

造船所という実際の現場を見て感じたことを述べますと、造船(技術)とは船舶という複雑系プラントを設計して、資材の調達を行い、建造をするという何段階ものプロセスを順序良く実施する製造過程である。あわせて、船舶とは、時代の先端技術を大幅に取り入れることにより、最高の効率を生かせるような技術力の集大成でもあることがわかりました。この見学を通してモノを造るということの難しさと技術者たちの熱意を痛感しました。

我々若い世代に最も必要なことは、物(事)に対する強い思いと夢がその時代を切り開き未来へと導くということ、各人の専門分野を超えて一つの目的へ向かい理想や夢を現実へと誘うことが重要であると再認識しました。

長年に亘り、一つの船種にとらわれず多種類の船舶を建造してきたことが、伝統と大いなる知識、技術を伝承し築き上げ、今日の内海造船(株)が羽ばたいているのだと思います。

6.謝辞

このたびの見学では秋吉 瀬戸田副工場長、表 基本設計部長、天野 課長、宮地 課長ならびに瀬戸田工場の方々に大変お世話になりました。深く御礼申し上げます。また、このような機会を与えてくださった日本船舶海洋工学会ならびに編集委員各位に深く御礼申し上げます。最後に、当見学記を執筆にあたり、助言していただいた海上技術安全研究所、前田克弥 研究員、松下邦幸 研究員(客員)に感謝いたします。


瀧本 朋樹(たきもと ともき)

弓削商船高等専門学校 商船学科 機関コース
舶用機関運用
(KANRIN (咸臨) 第4号 (2006年1月) 発行当時)

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