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シリーズ 学生突撃レポート Vol.005 明星工業(株)編

1.明星工業

図1 本社ビル
図1 本社ビル

大阪市西区のオフィス街の一角に明星ビルという建物がありそこに明星工業の本社はあります。訪問した時、あまり私にはなじみのない企業であったのですが、建物が非常に立派で驚かされました(図1)。

明星工業は昭和19年に個人経営の熱絶縁工事業“明星工業所”として誕生しました。当時の主たる事業は、保温保冷工の請負と石綿製品各種パッキング類の加工販売でした。

現在の明星工業の主な事業は断熱事業、環境関連事業、海外事業からなっており、取り付け工事を主な業務としています。LNG船は、取り付け工事に加え、タンクの防熱材を生産しています。

今回は主に断熱事業の中の一つである、LNG船タンクの防熱についての話を伺ってきました。具体的には取締役の木村さん、低温船技術部部長の細見さん、経営企画室室長の宮井さん、低温船プロジェクトマネージャーの江口さんから会社の経営方針や世界的な業界情勢、施工実績や将来的な展望、LNG船のタンクに対する超低温保冷技術について話を伺ってきました。

2.会社の経営方針と施工実績

まず始めに額縁に入った経営理念を見せてもらいました。

  • 絶えず顧客の創造に勤め、その信頼に応えよう。
  • 事業を通じて社会に貢献しよう。
  • 常に経営の本質をわきまえ、未来に挑戦しよう。

そして、現在の大谷社長に変わった時から、改革、スピード、チャレンジということをモットーにやっているそうです。

LPG船は1965年にはじめて引渡し、2005年現在までに75隻の船を施工しています。

図2 LNG船(モスタイプ)
図2 LNG船(モスタイプ)

また、LNG船は1978年にはじめて引渡し、2005年現在までに42隻の船を施工しています。両船は川崎造船(川崎重工業)、三菱重工業、三井造船、アイ・エッチ・アイマリンユナイテッド(石川島播磨重工業)、ユニバーサル造船(日立造船、日本鋼管)から主に受注しています。

現在、同社のLNG船独立球形カーゴタンクモスタイプの防熱施工は国内シェア80%、メンブレンタンクのGTタイプ防熱箱の製造はシェア100%と非常に高いシェアを占めています(図2)。

3.世界的な業界情勢と将来的な展望

現在LNGの輸入量は日本が約7割を占めています。日本では徐々に普及しつつありますが、世界的にはまだまだLNGに対する環境が整っていないのが現状です。しかし、LNGは少なくとも今後60年分の供給が見込め、さまざまな場所においてLNGの出荷及び受け入れターミナルの建設等が進められており、需要も大幅に増えていく見込みです。

特に欧米において高い伸びが期待されています。米国は従来、パイプラインガスが主流でありLNGに対しては積極的ではありませんでした。米国内のLNG受け入れ基地はわずかに4基地しかなく、休止していた設備もあるほどです。1999年まで世界のLNG取引に占める米国のシェアは3%程度ときわめて低いものでした。しかし1999年には前年のほぼ倍のLNGを輸入し、2000年からは天然ガス価格が上昇したことでLNGビジネスに経済性がでてきたため、さらに輸入量が増加しています。

欧州でもこれまでパイプラインでのガス供給がメインであったのですが、ガス需要の増加に対してパイプラインからのガス供給が増加できないことや、地政学的な問題も絡んで、LNG船での輸入が増加してきています。北欧地域発となるスノービットLNGプラントが建設中であるほか、スペインやポルトガルで新規LNG受け入れターミナル計画が進んできています。

世界のエネルギー消費に占める天然ガスの比率は現在24%で、石油の37%を下回りますが、2025年にはガス需要が石油を上回るとの見方もあります。現在、LNGの消費量は全世界で年間約12000万トンですが、今後10年程度で倍増すると見られています。

天然ガスが魅力的なのは環境負荷が低いことで、二酸化炭素の排出量が石油に比べ約7割と少ないほか、LNGは液化の過程で酸性雨の原因となる硫黄酸化物を除去できます。このように天然ガスは地球環境保全上、非常に有利な資源であるといえるでしょう。

同社の今後のLNG関連事業は日本の造船会社がLNG船の建造を受注できるかどうかが鍵となるそうです。

4.LNG船のカーゴタンクに対する超低温保冷技術

4.1 防熱パネルの構造

私は全く知識がなかったので、基本的なことからお話を伺ってきました。まず、タンクには2種類有り、独立タンクとメンブレンタンクという種類があります。同社が実績のある独立球形タンクのモスタイプというのがタンクの外側に防熱材を取り付けるタイプで、メンブレンタンクのGTタイプというのが内側に防熱材を取り付けるタイプです。 モスタイプの方はタンク容量当たりの表面積が最小で外部防熱であるため、ボイルオフレート(BOR)の低減が容易であり、又メンブレンタイプの方はスペースの無駄が少なく同型船で大容量が得られるという長所があります。

図3 LNG船用複合パネル(Mossタイプ)
図3 LNG船用複合パネル(Mossタイプ)

現在、日本の造船所で採用されているのは、安全性とコストの点で勝るモスタイプがほとんどです。GTタイプの方は、内側防熱になるので強度のことも考えなければならず、少し構造が複雑であるということから、日本ではあまり作られていません。そのため今回はモスタイプの球状のタンクについて説明していただきました(図3)。

図4 防熱構造
図4 防熱構造

防熱パネルは2層構造になっており、内側はフェノリックレジンフォーム(PRF)という素材で外側はポリウレタンフォーム(PUF)という素材になっています。PRFはタンク素材のアルミと膨張率が非常に近く、PUFは常温側で熱伝導率が非常に低いという特性のためにこのような構成になっています。

図4のようにタンクに溶接されたボルトで防熱パネルは固定され、最後にPUFの隙間にPUFを発泡させ、完全に密閉させます。少しでも隙間があるとたいへんなことになるそうですが、今日までその様な事例も無く非常に高い信頼を受けているそうです。

同社ではLNG船のタンクだけでなく、陸上での貯蔵用のタンクの防熱材も作り、とりつけているそうなのですが、やはり船はあれだけの大きさにもかかわらず動くのでそこが非常に難しいところであるとおっしゃっていました。

4.2 LNG船の防熱技術の開発

LNG船の建造技術の中でも、防熱に関する技術は非常に重要な部分です。同社は川崎重工業と共同で昭和45年からLNG船の防熱技術に関する研究開発を進め、防熱パネルの製造から現場施工に至るまで各種の工法、機械化を行い、21件の工業所有権をはじめ数多くのノウハウを取得しました。48年には自社技術による複合パネルの基本特許を成立させ、49年モス方式の防熱工事の第1船を受注しました。

これは、川崎重工業が日本の造船所としては初めて受注したLNG船ゴーラスピリット号(船主ゴタスラーセン社)の建造にあたり、同社が川崎重工業と共同開発した世界初の複合パネル方式による防熱システムの施工を受注したものです。さらに、同社はLNG船用防熱パネルを自社生産するため、同年明石工場の建設に着手しました。

モス方式の防熱システムの開発過程では、45年から50年にかけて、(1)防熱材の実験、(2)応力解析のための試験および低温実験、(3)大型モデルによる確認実験、など膨大な関連実験を行い、順次実船へ適用していきました。

この間、同社は、TI社(TECNISKISOLERING、ノルウェー)のSG工法、KF社(KAEFER、西独)のパネル工法など同社以外のモス方式防熱工法についての技術研究も同時にすすめ、また、50年以降はフランスで開発されたテクニガス方式につき、61年までの間に中央研究所だけでも243項目のテストを行い、三菱・三井・川重・日立・日本鋼管・石川島播磨・住友重機・佐世保の各造船所でモデルタンク施工、またはパネル納入、施工テストを行い、この方式に対応する技術を確立しました。

図5 LNGタンク防熱(パネル工法)
図5 LNGタンク防熱(パネル工法)

さらに57、58年にはSPB方式についても、中央技術研究所で多項目のテストを並行実施し、対応可能の確信を得たそうです。

その他、コンチ方式ではモデルタンク施工、ガストランスポート方式では初期テストと本船大修理工事施工、さらにはLEG船防熱の研究開発など、広範多岐にわたる研究開発により、あらゆる工法によるLNG船、LPG船防熱に対応できる技術基盤を確立してきました。

現在、日本において主流であるモス方式における技術は主・船級・造船所各界から非常に高い評価を得ているようです(図5)。

5.取材を終えて

私は今回の取材で、初めて船に関するものを作っている会社に行き、そこで働いている人から話を聞いたのですが、船1つ作るのにも非常にたくさんの技術、非常に多くの人の手がかかっているのだと感じました。また船の中の1つの部分を作るのにもとても多くの人の思いがこめられているのだと感じました。

とくに船について勉強している立場の人間として、1つ1つの技術が構築されるまでに非常に長い時間、大変な苦労を要するのだと感動しました。

最後になりましたが、今回の取材で明星工業株式会社の取締役の木村さん、低温船技術部部長の細見さん、経営企画室室長の宮井さん、低温船プロジェクトマネージャーの江口さん、総務課の上野さんには非常に親切に対応していただき、心から御礼申し上げます。

また、このような機会を設けてくださった日本船舶海洋工学会および編集委員各位に深く感謝いたします。


山岡 正(やまおか ただし)

大阪大学大学院工学研究科船舶海洋工学専攻
船舶海洋構造強度学領域
(KANRIN (咸臨) 第6号 (2006年5月) 発行当時)

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