今回は三菱重工業長崎造船所に行き、同社の船舶全般、特に主力製品であるLNG船について見学・取材をさせていただいた。
本報告書の前半部分では設計・工場の現場を実際に見学して感じたことを書いた。
後半部分では主にLNG船についてインタビューした内容を一問一答形式で書いた。
同造船所の始まりは1857年からであり、今年で150年と非常に歴史のある造船所である。
同社の船舶・海洋構造物の製品は、LNG船、LPG船、コンテナ船、客船、フェリー、地球深部探査船、艦艇、オイルタンカー、自動車運搬船、海上石油備蓄基地などであり、多様な製品を扱っている。
最近は「付加価値」の高い船の建造に力を入れており、特にLNG船を同造船所の主力製品に位置付けようとしている。
最近までのLNG船の建造実績は、モス方式27隻、メンブレン方式3隻である。両方式を造れる造船所は国内では実質的に同社と三井造船だけであり、世界的に見ても珍しい。
写真1 造船設計部の方々との記念撮影
左から川市主幹技師、高木課長、著者、橋本部長
まず初めに設計業務を行っている本館ビルを見学させていただいた。
今回、私を受け入れてくださったのは造船設計部の橋本部長、川市主幹技師、高木課長をはじめとする方々であった。
設計業務は船の主要目を決めたり、船の構造強度の計算をしたりしている。マイクロソフト社のエクセル(表計算ソフト)は計算に非常に便利であり、多くの方が使っていた。これらの仕事は造船系の大学の講義の延長であるので、大学で学んでいる知識や経験がある程度活きてくると感じられた。
造船はもちろんのこと、「ものづくり」の仕事は人との協力で成り立っている。なぜなら、一人の力では到底大きな船などつくることはできないからだ。したがって、設計の業務も多くの人に役割が分担されている。高木課長がおっしゃるには、「ものづくりはチームプレーだから、その中でのベクトル合わせが大事」だということだ。
そのため、時には仕事の内容に関して上司・同僚・部下との間で真剣な議論がされていた。チームとしてまとまるためには、お互い自分の意見を述べ合い、理解し合うことが必須であるからである。船主に満足してもらい、次の受注を手に入れるためには、妥協は許されないのである。それまで私は上司と部下の間は上下関係のため、言いたいことをはっきり言えないような雰囲気があるのだと思っていたが、そういうものは感じられなかった。
しかし真剣な議論をするためには、人と人との「信頼関係」は重要である。なぜなら、結局働いているのは人間だからだ。「信頼関係」を築くためには、時には腹を割った話し合いも大切である。例えば、職場の人間とプライベートで付き合ったりすることなどだ。日常の業務を遂行するだけでは、お互い腹の中までは理解することは難しい。
もちろん、たとえお互いの相互理解がなくても、仕事は仕事として割り切ればできないことはないであろう。しかし、やはりそういった相互理解があった方がスムーズに仕事ができるし、一体感を持って業務に取り組める。達成感もより大きくなるのである。私はそこに「ものづくり」の醍醐味を感じた。つまり、「個人プレー」で行った時の喜びよりも、「個人+チーム」で行った時の喜びは何倍も大きいということである。
また、船の設計は建造される船の大きさに対して担当する人間が少ないので、一人一人に任される業務の範囲が広い。特定の範囲だけではなく、船舶全般の知識が求められるのである。よって幅広い分野の仕事を経験することができるので、とてもやりがいがあり、かつ自分自身を成長させることのできる仕事だと思った。このように、大きな「ものづくり」に携われることが、造船業の大きな魅力の一つであると感じられた。
さらに、造船設計部の方々が口をそろえておっしゃっていたのが、「文系的能力」の重要さだ。ここでいう「文系的能力」とは、「コミュニケーション能力」であったり、「プレゼンテーション能力」、「論理的思考能力」、「英語力」などだ。こういった能力は、実は仕事をする上で重要になってくるという。
造船設計部の方々は、全員自分の仕事に「責任」と「誇り」を持って仕事をされており、活気のある職場だと感じられた。
写真2 メンブレン船の建造風景
次にLNG船が建造されている香焼工場を見学させていただいた。
まず目に入ってきたのが、モス方式とメンブレン方式のLNG船である。写真では何度か見ていたが、やはりLNG船を間近で見るとその大きさと迫力に感動した。工場では今まさに「ものづくり」が行われているのだということが実感できた。
現在同工場では「縦列建造方式」による建造が行われていた。全長約1kmのドックを「2本のドック」と見立てることによって、従来の建造方式の「3ステージ工法」に比べて効率の良い建造が可能になったということだ。近年LNG船の建造で目覚ましい発展を遂げている韓国に対して、生産効率を上げて対抗していこうという取り組みが伝わってきた。今後は中国を含めた競争が激化していくことが予想されるので、効率の良いドックでより価値の高い船を造っていくことが重要であると思った。
今度は船体のブロックを作っている工場内を見学させていただいた。工場内に人はあまりおらず、鋼材の切り出しや、溶接など多くの作業がコンピュータによって自動化されていた。しかし、まだ自動化できていない部分も残っていることも事実だ。例えば、複雑な形状をした鋼板の曲げ工程などだ。こういった工程は今でも熟練工の方々に任されている。また、メンブレン船におけるメンブレンの張り付けも手作業である。以上のように、造船業は自動化と手作業の融合した産業であることが理解できた。
写真3 香焼工場でのLNG船の建造風景
そのそばのドックではメンブレン方式のLNG船が建造されていた。メンブレンとは、金属の薄膜であり、その役割はLNGの液密性を保つことである。メンブレンは船体の底から足場を組んで、周りを溶接することによって造られている。
足場はおおよそ10段ほどあり、各階をつなぐエレベータまであったのには驚いた。大学ではメンブレンについて一通り習っていた。しかし実際の現物を見たことがなかったので、ものづくりは規模が大きくて建造が大変なのだということが実感できた。実際に建造現場に行かなければ、そういったことは分からないのだと思った。
今回は、冒頭にも書いた通りLNG船に関する質問をメインにいくつか質問させて頂いた。回答は船舶技術部の湯浅次長にして頂いた。
写真4 地球深部探査船ちきゅう
当社は技術力で差別化を図るように常に努力しています。技術力の差別化で、性能面、品質面での優位性を維持してお客様の経済性向上に寄与しているものと自負しています。具体的には海外船主向けの大型客船やシップ・オブ・ザ・イヤーを受賞したフェリー、地球深部探査船等、三菱重工の建造船には技術的に特徴のある船が多いと自負しています。
写真5 ハイブリッド型CRPポッド推進システム
また、当社の船の品質を高く評価して継続して発注を頂くことが多いと認識しています。さらに、当社HPの環境関連行動指針の中にも明記している通り、「環境・エネルギー問題の解決に貢献する高度で信頼性が高く、オリジナリティあふれる技術や製品の開発・提供に努める」ことに留意しています。
図1 再液化装置の概要図
具体的にいえば、船舶であれば、新日本海フェリー殿向けで採用した「ハイブリッド型CRPポッド推進システム」、当社独自の省エネ型「LNG再液化装置」、「ウルトラ・スチーム・タービン」等があります。
今回の訪問で一番強く感じたのは、会社と大学の違いである。その中で私にとって一番印象に残っているのが、人との関係の違いである。大学では「講義」や「研究」が中心であり、「一人」の勉強が主である。それに対して先にも述べたが、会社に入ると人との「協力」なしには仕事ができないのである。
また、インタビューでも触れたように、造船業も厳しい国際競争の中にある。これからも韓国・中国という強力なライバルと闘って勝ち続けるためには、技術開発や、アフターサービス、高い品質管理、納期の部分などで上回っていかなければ日本のどこの造船会社も厳しいと感じられた。
さらに、これからの時代は環境と調和した製品が評価されていくと私は思った。なぜなら、近年環境問題に対する意識が地球規模で高まっているからである。エネルギー効率の良い、海洋環境を汚さない船の需要が高まっていくことが予想される。今後はそういった類の研究が進んでいくだろうと思った。
そしてこの取材を通じて、私は造船所とは何たるものかかなり分かったと思う。なぜなら、様々な場所に行き実際に見聞きすることができたからだ。今まで私にとって造船業とは何なのかはっきりとは理解していなかったことがよく分かった。このことは他の多くの学生にも言えることだと思う。よって、私たち学生にとって何よりも必要なことは、「過大」でも「過小」でもなく「等身大」の造船の仕事を知り、評価することであると思った。
最近の学生の間における造船業界の不人気の理由は、造船業を「過小」に評価しているからであろう。つまり学生たちが実際の仕事を知る前に、造船界は「斜陽」で「きつい」仕事で、「面白くなさそう」などという先入観を持って造船界に行かなくなっているということである。それがなぜ起きてしまっているのかというと、結局学生が造船とは何たるものか知らずに職業を選んでいるからだと、学生の立場から見て感じられる。
造船系の学生はもっと造船業とはどんな仕事なのか知ろうとする努力が必要だし、大学も知るための機会を提供することが重要であると思う。現状では、私の大学ではそういう取り組みが始まっているので、さらに加速されれば良いと思う。企業の方々にもできることはあると思う。例えば、進水式に招待したり、設計の現場に招いて仕事の内容を説明するなどのことである。今後は三位一体になって努力すれば、少なくとも造船業に対する、「過小」評価はなくなると思う。
最後になるが、今回このような貴重な機会を与えてくださった日本船舶海洋工学会、ならびに三菱重工業船舶技術部の熊本氏、湯浅氏、造船設計部の橋本氏、川市氏、高木氏をはじめとする造船設計部の皆様、編集委員の方々に深く感謝の意を表したい。
木村 健太(きむら けんた)
横浜国立大学 工学部 建設学科
海洋空間のシステムデザインコース4年
回転翼の数値流体力学
(KANRIN (咸臨) 第13号 (2007年7月) 発行当時)