トップページ > シリーズ・読みもの > シリーズ 海学実践 > No.002 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第24号 (2009年5月) より

シリーズ 保存帆船「海王丸」と連携したニュー・シーマンシップの涵養


1. はじめに

独立行政法人航海訓練所は、船舶職員を養成するため、航海訓練に特化した教育機関として、5隻の練習船を一元管理しつつ、効果的な船員養成業務を行っています。

また、子ども達や一般の方を対象とし、「海」「船」「船員」に対する理解を深めていただくために、練習船を活用した海事思想普及活動にも積極的に携わっています。

2. 一般公開・セイルドリル

練習船は主に地方自治体からの寄港要請を受け、一般公開やセイルドリルを全国の寄港地で実施します。

一般公開は、各練習船で行っています。年間約20回程度実施しており、各港平均して約3,000名に船内を見学いただいています。


写真1 セイルドリル(長崎港)

来船者は、航海の様子や海上における日々の生活について、案内する実習生から話を聞くことができます。また、実習生は来船者から励ましを受けたり、応援をいただいたりしています。一般公開は、「船」や「船員」に直接触れる事ができる良い機会です。セイルドリルは、帆船の展帆訓練のことです(写真1)

帆を張ったり畳んだりする作業は、チームワークが大切です。実習生は高さ約50mのマストに裸足で登り、足場の悪い高所で作業を行います。

約1時間かけて36枚全てのセイルを展帆すると、「太平洋の白鳥」のように美しく生まれ変わります。若い実習生が汗を流しながら、心技一体で取り組む姿を見て、見学者からは惜しみない拍手が送られます。

これらを年間20回程度実施しています。

また、このセイルドリルを船上から見学する「セイルドリル船上見学」は、主に小中学生を対象として実施しています。迫力ある操帆作業を間近で見学できます。

3. 体験航海、海洋教室


写真2 海洋教室

帆船海王丸では、一般青少年を対象とした体験航海及び海洋教室を、(財)海技教育財団と連携して実施しています(写真2)。

体験航海は、練習船の寄港地間(2泊3日程度)で実施します。

実習生とともに生活しながら、普段経験できない実習訓練の一部や航海を体験します。

また、海洋教室は船内見学、ロープの結び方やセイルの体験展帆などを行いながら、1日を船上で過ごします。

4. 練習船見学会

一般寄港地では、教育委員会などの諸団体と連携して練習船見学会を実施してます(写真3)。


写真3 練習船見学会

帆船、汽船の特徴を活かした体験プログラムを用意しており、その実施内容は船内見学、訓練用の操船シミュレータ体験、ロープワーク教室や機関室におけるディーゼル発電機の始動体験など様々です。

年間25回程度、1,500名以上が参加します。

5. 訪問型海洋教室


写真4 訪問型海洋教室(帆船折り紙教室)

練習船を利用した活動だけではなく、幼稚園、小・中学校や高校からの依頼を受けて、訪問型海洋教室(写真4)を実施しています。

この活動は、練習船の教官(航海士、機関士など)が、学校を訪問し、「太平洋の横断航海」や「船の生活」などをテーマにして、「船」や「海」に興味を持ってもらえるよう開催しています。

幼稚園児を対象とした「帆船折り紙教室」は大変好評です。身近な折り紙を利用して帆船などを作成するものです。小さな子どもから大人まで、皆さん楽しまれています。

平成20年度は30回以上開催して、2,500人以上の参加がありました。

6. 他機関との連携活動

航海訓練所は、海事産業の人材育成に携わる諸団体とも連携活動を行っています。

(財)日本海事センター及び神戸大学との活動では、帆船海王丸のハワイ往復航海を利用して、小学生と練習船実習生が「エコ」をテーマにメッセージ交換を行いました(写真5)。


写真5 交換メッセージ


写真6 登しょう礼

「太平洋のエコ通信2009」と名付けられた本活動を通じて、子ども達は船や海のことへ思いを巡らせながら、地球環境への関心を高めました。

船の科学館(東京港有明)との連携活動では、帆船の遠洋航海出航を見送る見学会を実施しました。

出航直前の船上見学会や、実習生の登しょう礼(写真6)を見学した参加者からは大きな歓声が上がりました。

参加者募集のノウハウを持つ船の科学館と、見学会などを実行する当所が連携することで、効果的に実施できました。


7. おわりに

海洋基礎教育では、私たちの生活を支え、それを豊かなものとしている「船」や「海」の大切さを知ることが必要であると感じます。そのきっかけを与えられるよう、今後も努力して参ります。



川路 勉((独)航海訓練所)
木村昭夫((独)航海訓練所)
(KANRIN(咸臨)第24号(2009年5月)発行当時)

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