鳥羽商船高専は全国に5校ある商船高専のうちの1校であり、約130年と最も歴史のある商船高専である。また、本校は中部地方における物流活動の要である伊勢湾の入り口に位置しており、船による「ものはこび」の現場に近い利点を生かした教育とともに、伊勢湾周辺地域における海事思想の普及も行うことが可能である。
鳥羽丸は1994年に三井造船にて建造された全長40m、総トン数244トンと小型ではあるが、最新の自動化機器の操作も含めた幅広い教育に有効に対応できる十分な設備を備えている(写真1)。
商船学科の学生は1年生から5年生までの期間、乗船実習や実験実習などで約2週間乗船することにより、海技士としての基本的な知識・技能を身につける(写真2)。校内練習船は学生にとって教材として十分な存在意味がある上、地域に対する貢献の一つとして一般公開などの行事を行っている。
四日市港はスーパー中枢港湾に指定されている重要な港であり、毎年8月に約1万人が来客する「四日市港まつり」が開催されている。港まつりでは80チーム以上が出場するカッターレース大会をはじめ、港内巡視船による港めぐりなどが催される。本校はこれに鳥羽丸で参加し、ボランティアの学生による鳥羽丸の一般公開、体験乗船、船上でのロープワーク教室など、学校のPRと共に海事思想の普及に取り組んでいる(写真3、4)。一般公開での見学者から学生に対する質問は多く、学生にとっては勉強の成果の見せどころとなっている。また、カッターレースには常に上位入りしている学生チームが参加するだけではなく、レースの運営もボランティア学生が手伝っている。
名古屋港は取扱貨物量及び貿易額が本国トップクラスの港であり、大型客船をはじめ多数の船舶が入港する。名古屋港では親しまれる港づくりの一環として、毎年、独立行政法人航海訓練所の練習船が寄港した際に一般公開等を行っている。本校も毎年秋頃の帆船「海王丸」もしくは「日本丸」が一般公開を行う時期に合わせ、名古屋港において体験乗船・一般公開を行っており、3千人以上の見学者が訪れ、ボランティアの学生にも貴重な体験となっている。
「もの作り」教育の実践としては、毎年夏に開催されているソーラー&人力ボートレース大会に参加している。この大会はソーラー&人力ボート協会の主催で、近年は静岡県の三保海岸で開催されている。レースの内容は大会名どおりで、ソーラーまたは人力を動力とした1人もしくは2人乗りのボートでスピードを競う競技であり、速いボートでは人力で20ノット近いスピードを記録している。この大会に本校では学生チームを結成しボートの設計から製作までを行い参加している。製作方法は実際のFRPボートと同じ手法を用いている。まず、設計どおりのオス型を削りだし(写真5)、次にそのオス型にFRPを積層しメス型を作成する。そして最後に、そのメス型から船体が造り出せることになる。ボートは全長約5mであるので製作する学生の苦労と努力はなかなかのものであり、もの作りの楽しさ、苦しさ等を十分に体感することができる(写真6)。
以上の他に、商船学科の学生を対象とした海技実習では、カッターのとう漕や帆走を行うことにより海を経験しリーダーシップ、チームワークを養っている。また、本校は一級小型船舶操縦士の養成施設としても登録されており、小型舟艇「あさま」による操船実習も行っている(写真7)。
これらの海事教育により、物流の国際化と船舶の技術革新に適応した船舶運航者として活躍できる専門知識と技術を習得した人材および海事関連産業で活躍できる人材を育成していきたい。
鎌田功一(鳥羽商船高等専門学校商船学科)
石田邦光(鳥羽商船高等専門学校商船学科)
(KANRIN(咸臨) 第25号(2009年7月)発行当時)