トップページ > シリーズ・読みもの > シリーズ 海学実践 > No.005 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第26号 (2009年9月) より

シリーズ No.005 練習船を活用した青少年への海洋環境体験学習の試み―アマモから瀬戸内海を考える海洋学習―


1. はじめに

広島商船高等専門学校(以下、本校という)における公開講座は、昭和58年の「ヨット・カッター教室」から現在まで地域貢献の一環として継続して実施している。表1に示す練習船広島丸を活用した公開講座は、本校新入生に対する船員養成の導入教育で培った手法を基に、一般の受講生が航海・船内生活体験を通し、海に慣れ親しむ事を目的として実施してきた。

この公開講座内容をより発展させるべく、瀬戸内海の恵まれた地域環境を生かして海洋環境への関心を持たせる観点から、環境の正の要因といえる藻場(アマモ)の観察から瀬戸内海を考える学習メニューを新たに盛り込む「海洋環境体験プログラム」を作成することを試みた。

表1 練習船広島丸の主要目
総トン数 234トン
全  長 57.0m
航海速力 14.4ノット
主 機 関 ディーゼル機関1300馬力
航行区域 近海区域
定 員 56名

2. 練習船広島丸

校内練習船「広島丸」は、平成9年1月に就航した本校の校内練習船である。船内には、宿泊施設・調理室、そして上甲板中央には教室が設けられている。教室の大きな角窓からは室内からも十分に外の海をみることが可能である。また、操舵室もほぼ360度の全方向の視界を確保している。この船外への視界の良さの工夫は、商船教育における航海当直時の見張りの重要性を本校学生に体感させ、一般の体験乗船ではどこにいても海を感じることができるものである。また、広島丸には、海洋観測を行う超音波式多層潮流計(ADCP)、塩分水温水深計測器(STD) 、塩分濃度計、DOメーター、透明度板等の海洋観測機器や救命講習用に飛び込み台(水面上約5m)も装備している。

3. これまでの講座内容と改善


写真1 カッターを活用した講座風景

これまでの広島丸を活用した公開講座は、商船学科1年生のカリキュラムを基に、船内生活体験、航海体験、カッター等舟艇の漕艇・いかだ作製と潮流体験等で海に慣れ親しみつつ、潮流などの自然現象を体験させる企画を行ってきた。また、改善を図る目的で受講生から講座内容についてヒアリング調査を行った。

受講後の感想から、「船が好きになった」と良い感想を持って帰る中で、実は小学生から高校生の理科教育では、海洋についてほとんど取り上げられていないことが小中学校の先生からのヒアリング調査及び学習指導要領1)から判明した。そこで、これまでの船中心の内容から、本校周辺の海域も生かした新たなプログラムを開発することとした。海は、色んな顔を受講生に見せてくれる。それは海の色であったり、模様であったりする。そこから、いくつもの「なぜ」を引き出し、疑問を持つ動機付けになることが、短期間の公開講座の目標であり本プログラムの特徴である。

4. 新たな講座の試み

つぎのような①から⑦の手順で新たな講座の開発を行った。

講座の導入段階で、受講生それぞれの視点で フィールド(海)へ出られるようなガイダンスを行う。また、観察を予定しているアマモについては、「瀬戸内海沿岸で減少した藻場の再生に取り組んでいる地域もある中で、何故この場所に多く生育しているのか」などの疑問を持たせる。
一般的な環境教育を講義若しくはリサイクル実習を交えて実施する。
環境ワークショップを設け、目標・目的を受講生に確認させ、観察・体験に取り組む。
数種類の乗船体験(練習船「広島丸」、小型練習船「ひかり」、9mカッター・二人乗りシーカヤック)を行う。特にカッター・シーカヤック体験では、自らの力で観察場所へ向かい、海中を間近に観察する。

図1 本校周辺のアマモ場の位置図

受講生各自に、当日に体験したことをふりかえりまとめさせる。この際、時間設定のみ行い手段は限定しない。
受講生に対して毎日就寝前に今日の体験を必ず「ふりかえる」時間を持たせることとした。これは、講座最終日に体験発表の時間を設け、受講生相互の体験を共有することで内容の充実した講座として締めくくれることを目的に導入した。
最終日講座のまとめとして、各自の体験発表の場を設ける。


写真2 シーカヤックを導入した講座風景

9mカッターと組み合わせて、新たにシーカヤックを導入した。その理由として、カッター体験は、大勢の仲間と協力して目的地へ向かいながら徐々に船内生活で重要な仲間を意識させるとともに自然の大きな力を実体験できる。また、シーカヤック体験は、カッターよりも小さく軽量、水面までの距離が近く海を直に体感できる。なにより、藻場を荒らさずに観察が可能である。


5. おわりに

瀬戸内海を考える学習メニューを新たに盛り込む「海洋環境体験プログラム」を作成することを試みた。つぎの知見が重要である。

操舵・カッター・シーカヤックなど実体験は、大きな効果があること。
海が見せる多面性へのアプローチとして、アマモ観察と小型舟艇体験組み合わせは効果が高い。


3Sキャンプでのスナップ

参考文献

1)文部科学省編「中学校学習指導要領」
   1998年12月告示:2003年12月一部改正



水井真治(広島商船高等専門学校・商船学科)
清田耕司(広島商船高等専門学校・練習船広島丸)
(KANRIN(咸臨)第26号(2009年9月)発行当時)

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