トップページ > シリーズ・読みもの > シリーズ 海学実践 > No.008 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第27号(2009年11月) より

シリーズ No.008 小学生に港と船に興味をもってもらうために―横浜みなと博物館の観察会と工作教室―


1. はじめに

横浜みなと博物館は横浜開港150周年記念事業で、今年4月24日に「横浜港を知り、考え、楽しむことのできる市民のための博物館」として、リニューアルオープンした。展示のテーマを「歴史と暮らしのなかの横浜港」とし、併せて館名も横浜マリタイムミュージアムから改称した。

横浜市民、とりわけ市内の小学生には是非来館して、自分の住む横浜の港を知って欲しいと考え、小学校の学習指導要領、教科書を参考に、4年生、5年生、6年生の社会科の単元に関連する内容を盛り込んだ。例えば、5年生の「産業」の自動車輸出、貿易などである。

教育活動でも横浜港を出発点に参加者が港、船、そして海のことを知り、考えることを目標に実施している。ここでは、横浜マリタイムミュージアム時代から継続している夏休みの小学生向けの教育活動である港の観察会と船の工作教室を紹介する。

2. ポートウオッチング ―港と船の観察会―


ポートウオッチング 観察には双眼鏡も使う

2.1 目的とねらい

「ポートウオッチング―港と船の観察会―」は開屋外で行う夏休みの恒例事業である。対象は小学3年生から中学生25人。中学生は毎年1、2人と少ない。港(大さん橋ふ頭客船ターミナル)へ出かけて、そこから見えるふ頭や倉庫などの港の施設や出入する大小さまざまな船を観察して観察記録をつける。自然観察会の方法を援用した観察会である。

ねらいは、観察の仕方やポイントを知ることによって、今まで気がつかなかったことがわかること。自分で見て聞いて調べて、発見する喜びを経験させる。その手助けをするために必要なものを用意する。また、聞かれてもすぐに答えを出さないで、一緒に考える。気づき、見つけることを大切にする。その結果として、港と船と生活との深いかかわりを知ってほしい。

2.2 観察の方法

はじめに横浜港の歩み、観察会の目的と方法を説明する。午前はマクロの視点で港を見る。横浜港全体を大きくとらえさせる。横浜港の地図で自分のいる場所と見ることのできるふ頭の位置関係を把握する。次に、横浜港にはどのような船と施設があるのかを観察する。ターミナル屋上を自由に移動しながら観察表の船や港の施設をさがして、その形や色、動き、場所、気がついたことなどを観察表に記録する。観察表には40ほどの船と港の施設が描かれている。載っていないものは空欄に描き加える。観察の後、観察結果を発表してもらう。午前のまとめとして、船を見る時のポイントでもある旗と煙突マーク、横浜港の入港船について話をする。

午後は、観察対象である船や港の施設をひとつ選んで詳しく観察し観察表にスケッチする。特徴をとらえ正確にスケッチし、着色する。動きや音、におい、気づいたこと、まわりのようすも記録する。また、船名がわかれば本で調べ、その結果も書く。用意する本は、現在運航されている船のデータ集『日本船舶明細書』や『ロイズ・レジスター(船名録)』、『世界の国旗一覧』などで、使い方を教える。船ならば何をする船か、どこの国の船かを調べ、横浜港に何を運んできたか、それが私たちとの暮らしとどうつながっているのかまでたどればと思っている。観察の後、何人かに観察結果を発表してもらう。船だけでなく岸壁側の様子を記録している子もいる。午後のまとめは横浜港を中心とした貿易と暮らしの話。

2.3 参加者の感想

参加者の感想をみると、「もっと船のことをしりたくなりました」「みなとはおもしろいとおもった」。2年連続、4年連続で参加するこどももいる。

私たちは、港を観察することによって、港と船の役割を知り、考え、港への関心を深め、港を少しでも身近なものにしてほしいと思っている。

3. 動く船の模型を作る工作教室

3.1 船の工作教室の目的


モーター船の工作教室 船体にモーターを取り付ける

ソーラー船の工作教室 最後に作った船でレースをする

船の工作教室は推進動力の違いによって3種類ある。「モーターで動く船をつくる工作教室」(小学3〜6年各回30人、2日4回) 、「ソーラーで動く船をつくる工作教室」(小学4〜6年各回30人、1日2回) 、「親子でつくろう!ゴム動力船工作教室」(小学校低学年と家族80組、1日)である。ゴム動力船は実施日の自由な時間に来て作るが、他は2時間で完成させる。

船は用途により船型や艤装を異にしている。工作教室は、水上を走る船を作ること通して船の形や推進、役割を知り、船に親しみ、併せて工作力を養うことを目的としている。

モーター船とソーラー船は、つくる前に博物館に展示しているコンテナ船やLNG船などの模型を見せて、形とプロペラの位置などを理解してもらう。プロペラは船体の中心にあり、プロペラシャフトは船体と並行(水平)が効率的であること。そして、船は貨物や人を運んでいることを工作の前に学んでもらう。

3.2 工作とレース

まっすぐ進む船を作る。そのために船体中心線を引き、船首は三角形にし、左右対称の船型にすることが大事であることを強調する。あとは自由で帆装する船もある。船体の材料はモーター船は木の板、ソーラー船は発泡スチロール。のこぎりやかなづちを初めて使う子もいる。製作途中で、船体に乾電池または太陽電池とモーターを乗せ、実験試験用水槽で浮かべてバランス、重心の位置を確認する。船首部が沈む時には船底に浮力をつける。

出来上がった船はプールで試走させた後、レースをする。自分でつくった船がどれだけの性能があるか競う。予選、決勝と続く。「レースがとてもたのしかった」は、参加者大半の感想である。勝っても負けてもこども達は満足げである。自分ひとりで形あるもの、動く船をつくった喜びと最後までやりとおした達成感が見て取れる。

3.3 ねらいと感想

船の工作教室もポートウオッチング同様、参加者自身が主体的に行動してひとつの事を成し遂げる、その過程で知らなかったことを見つけることがねらいであり、大事であると考えている。このねらいがどれだけ実現できているかが博物館側の課題である。評価のひとつとして、参加者の感想を紹介しよう。

モーター船工作:

  • 「少しスクリューの方向が曲がっていると、走る方向が曲がってしまうので、一番注意すべき点だ」
  • 「工作用の船を左右たいしょうに造るのが大変なのに、実際人を乗せる船は、もっと大変なんだなと思った」
  • 「スクリューで、水を押しのけて、進んでいるところをみれて、おもしろかった」

ソーラー船工作:

  • 「ソーラーで動く船を作ってわかったことは、空中でプロペラシャフトが回転していても水の中に入ると水のていこうでプロペラの回転速度が減ってしまうことやプロペラの角度によって加速力が変わることがわかりました」
  • 「本当にソーラー船があるといいと思う」


4. おわりに

私たちの日常の生活のなかでは、港や船について接する機会は少ない。こども達も同様で、学校の授業でも単元として取り上げられていないのが現状である。横浜みなと博物館では展示の見学や教育活動への参加などをきっかけに港、船、海に興味、関心を持ってもらいたいと願っている。



志澤政勝
横浜みなと博物館
(KANRIN(咸臨)第27号(2009年11月)発行当時)

▲このページの最上部へ

シリーズインデックスへ

学会事務局

〒105-0012

MAP

東京都港区芝大門2-12-9
浜松町矢崎ホワイトビル 3階
TEL:03-3438-2014/2015
FAX:03-3438-2016