トップページ > シリーズ・読みもの > シリーズ 海学実践 > No.016 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第32号(2010年9月) より

No.016 海と船を考えよう─日本郵船歴史博物館のイベントのご紹介─


1. はじめに

日本郵船歴史博物館では、開国、明治維新の激動期から大戦期等、近現代にかかる日本の海運史を、1885年創立から今日に至るまでの日本郵船の社史を通してご覧いただくことができる。さらに、現在山下公園に係留中の日本郵船氷川丸は、2010年4月25日に生誕80周年を迎え、記念イベントを催す等、2008年のリニューアル以降、多くのお客様に足をお運びいただいている。

日本郵船歴史博物館では年に数回の企画展示を開催しており、海運、船から少し離れた切り口でアプローチをしている。来館者はOBや船に興味のある年配者が多いが、企画展によっては来館される年代にも変化がある。

館内イベント、企画展関連イベントについては、年間を通じて館内で催し、船に興味をお持ちの方にはもちろんのこと、イベントをきっかけに館内に足をお運びいただきく機会も増えている。

最近の二つの児童向けイベントについてご紹介する。

2. ペーパークラフト親子教室

2.1 企画展「未来の船」


写真1 「ペーパークラフト親子教室」の様子

1つめのイベントは、企画展「未来の船〜NYKスーパーエコシップ2030を中心に」に伴い催した。展示ではCO2を従来の69%削減する2030年を開発改良の照準にあわせた「NYKスーパーエコシップ2030」の船体の特徴をご紹介した。各技術内容を理解することは一般の来館者にも難しい。展示の中でもクイズや「お絵描きコーナー」を設けるなどの工夫をした。「ペーパークラフト親子教室」は、展示パネルを把握できない小学生の子供たちにも、興味を持ってもらうことを目的として企画されたイベントである。

2.2 ペーパークラフトに挑戦

集まった11組の参加者には、ペーパークラフトの製作に入る前にイメージ動画及び200分の1模型を見てもらった。羽のついた特異なその船の形は、子供たちにはもちろんのこと、保護者の方々にとっても創作意欲を掻き立てた様子だった。また、ペーパークラフトに使用する各部品を切り貼りしながら、船の名称を自然に覚えていたのも印象的であった。

講師には西口正人氏(ペーパークラフトアーティスト)をお招きした。ペーパークラフト教室を各地で開催されているため、設定された2時間の時間内での子供たちの取り組み方、作品の難易度などを熟知されており、ペーパークラフトのデザインからお任せすることとなった。細かな作業に集中が途切れてしまう子供も中にはいたが、代わりに製作を続ける保護者の傍から離れることなく、参加した子供たちと保護者の方々は、最後まで集中して作りあげていた。

2.3 完成

感想の中には「ただのうすい紙がちゃんとした立体的な船になっていくのがうれしかった。」というように、出来上がったペーパークラフトを大事に持ち帰っていた。出来上がったペーパークラフトの他に、子供たち全員に、イベントの最後に完成まで真剣に取り組んだことを賞賛し修了証をお渡しした。この達成感や楽しんだ記憶というものが、少しでも博物館や船に対する興味と繋がればいいと考える。

3. 氷川丸体操

3.1 企画展「船をとりまくアール・デコ」

2つめにご紹介するイベントも、博物館企画展に関連しており、氷川丸生誕80周年関連企画「船をとりまくアール・デコ」として、氷川丸船内に施されたアール・デコ意匠にクローズアップした展示を日本郵船博物館内で開催した。アール・デコで彩られたパンフレット等の印刷物や乗船客のファッションを取り扱い、館内は20代女性〜60代男性まで幅広い方々に来館いただいた。館内で展示している華やかなドレスに、学生たちが興味深く見ている様子も普段の来館者との変化があり印象深かった。

3.2 手旗信号に挑戦


写真2 氷川丸船内のアール・デコ探し

小学生及び保護者を対象とし、集まったのは親子14名。イベントは氷川丸での開催で、船内のアール・デコ探しをしながら、アール・デコを取り入れた手旗を作り、「ヒカワマル」「ヨコハマ」を表した手旗信号をアレンジした体操を覚えてもらう。最後には、自作の手旗を使って氷川丸デッキ上より山下公園に向かって「海」の曲に合わせて「氷川丸体操」を発表した。

講師には「ロダン体操」の考案などで有名な高橋唐子氏(現代美術家)にお願いした。身体を使ったワークショップで子供たちとの関わりも多く、子供たちの素直な反応、発見にも柔和に対応いただいた。

3.3 発表


写真3 船上デッキでの発表

氷川丸船内のアール・デコ意匠探しを行い、アール・デコを象ったフェルトを思い思いに手旗に貼り付け、乾燥させる間に振付を覚えた。早く手旗を手に取りたいという子供たちの姿も多く見受けられた。

「氷川丸体操」参加者のうち大半の方が日本郵船歴史博物館及び氷川丸に来館されるのが初めてだったが、満足度も高く、アンケート中の「発表ははずかしかったですが、青空の下は気持ちがよかったです。」のように、このイベントを通して氷川丸のアール・デコ意匠や手旗信号を身近に感じ、船に興味を持っていただくという、当初の目的を達成できただろう。自宅で手旗を振りながら、ご家族で氷川丸の話をしてもらえれば何より嬉しい。

4. おわりに

博物館勤務において、船や海運、船員生活についてご紹介するにあたり、訪船体験や船員の経験を伝聞することが、調査・研究に大いに役立っている。過日の学会主催のセミナーに参加したことも、とても有意義だった。船員の方が口にしていた「シーマンシップ」は船員ではない私には、耳慣れない言葉であったが、その素晴らしいスピリットは、船員の魅力の根源であり、道徳意識の向上に寄与するように感じた。

学芸員の疑似体験ではなく、船員の経験そのものが、海運の歴史の一部となり、博物館の貴重な資料となっていることが特筆すべき事柄である。博物館では、今後も海や船の魅力を発信し、また船員と未来を担う子供たちとが交流する場となるような、イベントを考案していきたい。



安田愛美
日本郵船歴史博物館 学芸員
(KANRIN(咸臨)第32号(2010年9月)発行当時)

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