トップページ > シリーズ・読みもの > シリーズ 海学実践 > No.017 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第32号(2010年9月) より

No.017 打瀬舟復活プロジェクト─打瀬船を活かした体験学習に向けて─


1. 打瀬網漁と打瀬舟復活の意義


図1 打瀬舟のある風景
(千葉県立中央博物館デジタルミュージアム:林辰夫写真集より)

打瀬網漁は江戸時代の宝永年間(1704〜1711年)に和泉岸和田(大阪府)地方で始まったといわれる、伝統的な漁法で、東京湾の羽田浦などでは夜流し(車エビ漁)、シャコ流し、芝エビ流しなどの漁がおこなわれたという。昭和30年代まで、羽田浦以外にも、検見川、子安などの各地で打瀬網漁は行われきた。この漁を営む打瀬舟が浮かぶ写真のような風景は東京湾の風物詩として、沿岸の市民に親しまれていた。


図2 野付湾の打瀬舟

しかし、高度経済成長期以降、干潟・も場など生物生息場の減少などに伴い東京湾を初めてとして日本の沿岸各地でその姿を失われ、今では北海道の野付湾や熊本県の芦北町など、一部に残されているだけとなった。

打瀬舟は単に見た目が美しいだけではなく、風の力を利用して舟の横に網を仕掛けて、横方向に移動させながら網を引く。打瀬網漁はエンジン使用を控え、アマモ場などでも海草を傷つけることもなく、緩やかに引くことで漁獲量は自ずと抑制され自然の枯渇が避けられるなど様々な面でエコロジーな漁法であり、打瀬網漁は東京湾に豊かな自然があった時代を代表した漁業であった。

このように打瀬舟は東京湾の自然の豊かさと自然の中で暮らしてきた沿岸の人々の生活文化を象徴する舟でありその復活は沿岸地域の伝統や文化を継承することにつながる。また、打瀬舟の建造は日本の伝統的な和船づくりの技術の伝承を意味し、さらには、舟材に適した杉材等の材料を確保するために健全な森林が維持されるなど、森から海までの健全な自然を必要とする。

以上のことから打瀬舟の復活は東京湾の自然再生のシンボルとして活用することができる。また、舟を利用した東京湾の海の自然や生態系などの自然体験、海洋学習に利用できるほか、舟の建造プロセスからも和船の伝統的な技術の学習など、東京湾の歴史の中で果たしてきた打瀬舟の役割から、海の歴史や文化、人と自然との関わりを学ぶ契機となることも期待される。

2. プロジェクトの概要


図3 打瀬舟を学ぶ(浦安郷土博物館にて)


図4 東京湾の打瀬舟(漁善丸)

打瀬舟復活プロジェクトは、東京湾で活躍した打瀬舟を再び建造し、伝統文化とのふれあい、自然体験・環境学習の活性化、東京湾の自然再生に向けた啓発・普及への貢献や、それらを含めた体験型漁業による地域産業の振興などに生かしていくために立ち上げた。

平成21年度には、国土交通省の「地方の元気再生事業」として採択され、打瀬舟を復活させたあとの利用計画や海辺の自然体験活動などを実施した。

利用では、打瀬舟の活用として東京湾の自然再生活動をめぐる旅(アマモ再生場や海苔の育成実験活動を行っている小学校など)を実施し、自然体験では打瀬舟があった干潟の自然が東京湾に唯一残る盤洲干潟の体験旅行などを試験的に実施した。

また、打瀬舟の建造技術を保存し継承する活動を行っている浦安郷土博物館を訪問し、舟の歴史や建造技術を学習し、舟材を提供した上総の森について千葉県森林組合を訪問した。

次には、熊本県芦北町で漁船として活躍していた打瀬舟を東京湾に回航させ、より多くの人々にこのプロジェクトの意義と楽しさを理解していただくための活動を計画しているところである。

3. 打瀬舟の活用


図5 漁業体験・釣り体験


図6 釣り体験の様子


図7 魚の調理体験指導の様子


図8 海苔網について学ぶ小学生

打瀬舟は東京湾の自然再生のシンボルとも位置付けており、東京湾での様々な海辺の活動に関連付けて活用することを検討している。

たとえば、漁業体験では、図5のように打瀬舟で網を引き底層の魚介類を漁獲するとともに、舟が曳航中には図6のようにして釣りなどを楽しむことができる。

また、図7のように、漁獲した魚を三枚におろして調理を行うなどの体験学習を実施することも検討している。

また、東京湾お台場では地域、漁業者、市民団体、行政が協力して、図8のような小学校での海苔の育成実験教室を行っている。打瀬舟の学習を組み合わせることで、東京湾の多様な漁業について学び、また毎年海苔ひびを撤去するのは、養殖を行わない時期には打瀬網漁などの他の漁業活動を行う意味もあるなど、東京湾を高度に利用した文化を学ぶことができる。

以上のように、東京湾に打瀬舟を復活させるプロジェクトは緒についたばかりであるが、東京湾で活動できる打瀬舟を熊本から本年(2010年)6月東京湾に回航させたことで、この舟を生かして様々な体験活動を進めるとともに、それらを通じて本格的な打瀬舟復活に向けたPR活動を推進していきたいと考えている。



金萬智男(東京湾に打瀬船を復活させる協議会)
鈴木 覚(東京湾に打瀬船を復活させる協議会)
(KANRIN(咸臨)第32号(2010年9月)発行当時)

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