トップページ > シリーズ 港の横顔 > Vol.005 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第21号(2008年11月) より

シリーズ 港の横顔 Vol.005 四日市港「潮吹き防波堤と跳ね橋」


1. はじめに

コンビナートの工場群、たなびく煙を背景に、原料船、自動車運搬船、コンテナ船などが行き交う。名古屋港とともに伊勢湾の貿易を支える四日市港の風景だ。四日市といえば工業の街であり、その港もまた例外ではない。そんな四日市港も、殺風景なだけではない横顔を持っている。

2. 明治の遺構「潮吹き防波堤」


今も護岸として残る 「潮吹き防波堤」

港の一角、“旧港”と呼ばれる地区に、五角形の穴が整然と並んだ石積みの旧い護岸が残る。長さ199m、緩やかに彎曲している。「潮吹き防波堤」の現在の姿だ。1952年(昭和27年)の港外側の埋め立て工事により、防波堤としての役割は終えたが、往時の面影を今に伝えている。

古くから天然の良港として栄えた四日市港が、近代港湾として整備されたのは、1884年(明治17年)のことである。地元で廻船問屋を営んでいた稲葉三右衛門が私財を投じ、11年の歳月をかけて港の基礎を造った。

10年後に、今度は県営事業として改修工事が行われた。暴風雨や台風により、稲葉翁築造の防波堤が破損したためだ。「潮吹き防波堤」は、この改修工事で築造された。


潮吹き防波堤の断面

この防波堤は、世界的にも珍しい構造を持つ。港外側の小堤(高さ3.7m)、港内側の大堤(4.7m)の二重構造で、さらにその間には溝が設けられているのだ。溝は港内側の五角穴に通じている。これらは、波を防ぐとともに防波堤自体も守ることを意図した仕組み。まず小堤で波を受け、乗り越えた波をさらに大堤で受け止めて、穴から港内側へ噴き出す。「潮吹き防波堤」の名の由来である。対岸の稲葉翁記念公園には防波堤のレプリカがあり、潮吹き穴から水が流れ出す様子を見ることができる。

このユニークな構造を考案したのは、オランダ人技師ヨハネス・デ・レーケと言われている。デ・レーケは、明治政府に招かれたお雇い外国人の一人で、30年以上日本に留まり、各地の港湾土木工事で功績を挙げた人物。より堅固な防波堤をとの思いが、このような構造を生み出したのであろうか。

自然石の石組みをがっちり固めているのは、工事を請け負った三河の服部長七が、左官技術を応用して考案した人造石“長七たたき”。“たたき”とは、土間などに使われる消石灰と真砂を水で練り固めたもので、人造石工法はこれを応用したもの。コンクリート工法が普及する前、セメントにも匹敵する強さを持った優れた工法として土木工事を支えた。日欧の最新技術の融合が、潮吹き防波堤を生んだと言えよう。

潮吹き防波堤は、周辺の施設とともに1996年(平成8年)に、港湾施設としては初めての重要文化財(建造物)に指定された。

3. 千歳運河の跳ね橋「末広橋梁」


現役唯一の可動式鉄道橋「末広橋梁」

潮吹き防波堤から対岸に目を向けると、千歳運河がある。ここに、「末広橋梁」と「臨港橋」が並んで架かっている。その間ほんの200mほど。ともに可動橋で、隅田川の勝鬨橋などと同じく、跳開橋と呼ばれる形式。いわゆる跳ね橋だ。可動橋が隣接しているのはたいへん珍しい。まずは、末広橋梁から紹介しよう。

末広橋梁は、1931年(昭和6年)12月竣工の鉄道橋で、JR四日市駅から四日市港への貨物線が通る。日本で唯一、現役の鉄道可動橋だ。1998年(平成10年)に重要文化財(建造物)に指定された。

この橋の運用がちょっと変わっている。休日以外は、船の航行優先で跳ね上げたままになっているのだ。鉄道の運転は1日5往復。通過時刻前になると、係員が自転車でやってきて橋を下ろす。郷愁を誘うどこかのんびりした光景だ。橋の上げ下げは1、2分といったところ。思いの外早い。貨車が通ると橋は頼りないほど小さく見える。

4. もう一つの跳ね橋「臨港橋」


可動式道路橋「臨港橋」

線路の脇に立って振り向くと、運河沿いに並ぶハゼ釣りの竿の向こうに、もう一つの跳ね橋「臨港橋」が見える。こちらは道路橋だ。初代は、末広橋梁とほぼ同じ1932年(昭和7年)に架けられた。今の橋は、1991年(平成3年)に竣工した3代目で現代的な橋。末広橋梁とは逆に、船の航行の時だけ跳ね上げられる運用で、末広橋梁のようなワイヤー式ではなく油圧式だ。

跳ね上げ時には、遮断機が下りて通行を止める。橋上に遮断機があるのも不思議な光景だが、そそり立つ道路はもっと不思議。

遮断機柱は、土鍋などで有名な四日市特産の萬古焼きのタイル製だ。風情は末広橋梁に譲って、こちらは地場産業のPR、いやせめてものお洒落。

「潮吹き防波堤」と「跳ね橋」。いずれも、JR四日市駅から歩いて20分ほどだ。


中村哲也(なかむら てつや)

ユニバーサル造船株式会社 技術研究所
主管研究員
疲労、構造強度
(KANRIN (咸臨) 第21号 (2008年11月) 発行当時)

▲このページの最上部へ

シリーズインデックスへ

学会事務局

〒105-0012

MAP

東京都港区芝大門2-12-9
浜松町矢崎ホワイトビル 3階
TEL:03-3438-2014/2015
FAX:03-3438-2016