過去2回は、製造現場でバリバリ活躍されているかっこいいオヤジが紹介されましたが、3回目となる今回は、製造現場から少し離れた部署で働くかっこいいオヤジ、ドックマスター(船渠長)を取り上げます。
ドックマスター自体に馴染みのない方も多いと思いますので、最初にドックマスターについて簡単に紹介しておきます。
ドックマスターとは、一言で言うなら造船所の船長さんです。
何故、造船所に船長さんが必要かと言えば、新造船・修理船を問わず、業務上造船所及び周辺の海域で船を動かす場面が必ず出てくるからであり、船を動かすためには、
以上の条件を満たす者が必要になるからです。
従って、新造船建造を例にすると、海技は勿論、造船所周辺海域事情にも精通したドックマスターがいなければ、進水作業・係留作業・公試運転等、建造上非常に重要な工程が消化できない、つまり船の建造はできないということになり、造船所にとって必要不可欠な存在なのです。
※公海上の運転については、他にも制約条件が有りますが、ここでの詳細説明は省略します。
歴史的にも、「浦賀船渠六十年史」に、『...(明治)翌 34年には技師長は桜井省三の 1名になり、船渠長に元横須賀造船廠の古川庄八を任命...』と記述された記録が残っており、近代造船業幕開の頃から、専門職が存在し、且つ所長職についで重要な位置を占めていたことが伺え、その位置付けは、現在においてもほぼ同様です。
ドックマスターの業務を簡単に紹介すると、
等々が挙げられ、概ね、どこの造船所でも共通していることだと思います。
先述の通り、ドックマスターは、海技に精通している必要がある為、造船所での勤務経験の積み重ねだけでは就けない職種であることが、他の造船所で働く人達と比べて特異な点です。
いったん海運会社に入社し、海技者として一通りの海上経験を積み、最高の免状である「一級海技士(航海)」を取得した後、造船所に加わり、晴れてドックマスターになれるのです。
公試運転中の鈴木ドックマスター
ここでは、住友重機械マリンエンジニアリング(株)のドックマスター、鈴木秀敏さんを紹介します。
鈴木さんは、海運会社で25年近くの外航船乗務の後、TSLプロジェクトに参画され、「希望」の船長として活躍される等、豊富な乗務経験を保有されています。また、日本財団の助成事業への参画や操船シュミレーターによる船員教育のインストラクターを務められる等、幅広い活躍をされた後、住友重機械マリンエンジニアリング(株)に入社されました。
今回は、鈴木ドックマスターへの質問を通して、ドックマスターの実像に迫ってみたいと思います。
※台風22号(マーゴン)。2004年10月9日当造船所近辺を通過。当所観測で17:10頃、972 hpa、最大49 M/Sの北西の風が吹き、工場建屋が破損する等の被害が発生。当時係留中の船も大きな影響を受け、ドックマスター以下、猛烈な風雨の中、腰まで水につかり、風・波に煽られながらも、係留岸壁まで何とか辿り着き、迅速な指揮及び対応の結果、軽微な被害で済んだ。
以上インタビューを交え、ドックマスターの実像に迫ってみましたが如何でしたでしょうか?
造船業というのは、商品の使い方には、あまり馴染みのない者が、開発から建造まで行っている点で、自動車や家電といった製造業とは異なると思いますが、実は、造船所にも身近に使い方のプロがいるわけです。従ってユーザーとメーカーの両者を経験されているドックマスターの存在は、特異であると同時に大変貴重であり、今後、従来の業務以外にも、顧客価値向上や原価低減、品質向上といった造船所としての競争力強化の為に活躍される場が増えてくるのではないでしょうか?
植松 秀明(うえまつ ひであき)
住友重機械マリンエンジニアリング(株)
製造本部 計画・技術グループ
チームリーダー
生産技術
(KANRIN (咸臨) 第6号 (2006年5月) 発行当時)