三井造船のかっこいいオヤジ、線図フェアリングの達人、真殿健二(まとの けんじ)さんを紹介します。
真殿さんは、三井造船玉野事業所に昭和40年に入社し、艦船設計部に所属して一貫して線図フェアリングの仕事に従事してきました。この3月で定年退職を迎え、これがまさしく三井造船の2007年問題でしたが、定年後も関連会社に転籍し、4月以降も派遣社員として引き続き線図フェアリング業務に従事しています
まず、真殿さんの業務である線図のフェアリング作業について紹介します。
線図のフェアリングは、2次元の線図(断面図、平面図、側面図)を 3次元的に滑らかな形状に仕上げる作業です。基本設計段階で作成される線図は、船長数mの模型船レベルで滑らかになるように仕上げていますが、真殿さんが担当している詳細設計段階のフェアリングでは、この線図を船長数10mから数100mの実船レベルで外板形状が滑らかになるように仕上げる必要があります。
この詳細設計段階のフェアリング作業は、設計の範疇に入る作業ですが、「如何に滑らかな面を仕上げるか」というところに作業者のテクニックがあり、この点で製造部門の曉鉄と似ています。詳細設計の線図フェアリング従事者は、設計者というよりも職人といった方が相応しいと言えます。
このテクニックが真殿さんの独壇場であり、迅速に、かつ、正確に線図を仕上げる点において、当社の過去の人材を含めても真殿さんの右に出る職人はいません。
フェアリング作業においては、基本設計作成の線図をチェックし、現場での工作に無理がある場合、例えば、板厚に依存する限界曲率以上の曲げとなっている場合には、適切な船体形状を提案することが重要です。さらに、船殻設計および製造部門と協議し、製造のコストダウンを狙って曲げ易さを考慮した線図に仕上げることも大切です。
真殿さんは高い作業精度で長年に渡って線図業務を支えて来たため、他部署から非常に高い信頼を得ています。他部署と議論になった際に、「真殿さんが言うなら」ということで相手が納得することが往々にしてあります。
次に、真殿さんの職場の業務内容について紹介します。
真殿さんの部署では玉野事業所だけでなく、千葉事業所や新潟造船、四国ドック、南日本造船等関連会社の線図フェアリングを一手に手掛けており、言わば三井造船グループの線図センターとして機能しています。さらに、外売として中小の他造船所の線図フェアリングも手掛けており、年間10数隻の外売をコンスタントに続けています。
この外売については、他造船所に対し営業活動を実施しており、造船所訪問や電話でのセールス等慣れない営業活動にも真殿さんが率先して取り組んでいます。この外売の評判は良く、一見さんで終わることなく、一度掴んだ顧客からはコンスタントに受注を得ています。
また、近年線図フェアリング技術者の退職に伴う後継者不足に悩む造船所が多く、前述の外売はそのような造船所に重宝されていますが、真殿さんの部署では30代2名、および、 20代1名の中堅、若手技術者を抱えています。真殿さんは部下の信頼も厚く、また、これまで部下の育成に努めてきたため、当社では線図フェアリングに関する技術継承は順調に進んでいると言えます。
このように、真殿さんの功績は、単に技術による貢献だけでなく、他造船所に対する営業活動や若手の育成に尽力し、三井造船グループの線図センターとしての土台を構築したことが挙げられます。
三井造船では、艦艇、官公庁船を始め、 LNG船、 VLCC、バルクキャリア等大型一般商船や高速艇、水中展望船まで様々な船種を扱っています。高速艇では、単胴船、双胴船、 SWATH(Small Water plane Area Twin Hull)、SES(Surface Effect Ship)、ホーバークラフト等多数のラインナップを誇っています。
多数の船種を有することでは、三井造船は世界有数の造船所であり、真殿さんは殆ど全ての船種を経験し、真殿さんの存在があればこそ、当社が多数の船型を手掛けることが出来たと言っても過言ではありません。特に、SWATH等曲率の小さな線図は大変フェアリングが難しく、当時の基本設計担当者からは、「真殿さんでなければSWATHのフェアリングは出来ない」と言わしめたほどです。
真殿さんの職務は基本設計における船型開発ではありませんが、基本設計担当者が繁忙のときなどフリーハンド作画の超ラフな線図を渡され、真殿さんは翌日にきれいにフェアリングした線図に仕上げることが出来ます。このような芸当が出来るのは真殿さんの真骨頂と言えます。
このように基本設計担当者からの信頼も厚く、「退職前に真殿さんの話を聞きたい」とのリクエストが基本設計からあり、昨年12月には真殿さんが基本設計部に赴き、担当者を前にフェアリングの講演をしました。
また、現在呉の大和ミュージアムに展示されている1/10モデルの戦艦大和の復元線図を手掛けたのは、何を隠そう真殿さんです。断片的な線図情報しかない状況で展示モデルの芸術的な船型を復元出来たのは、真殿さんの職人芸によるところ大と思われます。
プライベートに関し、真殿さんは石原裕次郎の大ファンであり、いまだに裕ちゃんのリバイバル上映があれば映画館に足を運びます。野球、大相撲等のスポーツ観戦が大好きであり、プロ野球では中西太の大ファンです。西鉄ライオンズ以降中断期間を経て、現在はソフトバンクの熱狂的なサポーターです。また、ナンクロ、クロスワード等パズルをこよなく愛し、当選したとの話は聞いたことがありませんが、月間パズル雑誌の懸賞に毎回応募しています。
同期生によると、若い頃は遊び人であったとのことですが、現在では4人の孫のよきおじいちゃんです。
3人の部下は息子さんと同年代ですが、真殿さん自身若い気持ちをキープしており、若者とのジェネレーションギャップに悩むことはありません。周りの人がセーターを着込んでいるのを尻目に、冬場でも長袖に腕まくりをして線図フェアリング作業に勤しんでいます。今後も若々しく三井造船線図センターの牽引車として頑張ってください。
吉野 亥三郎(よしの いさお)
三井造船(株)玉野事業所 艦船設計部
艦船計画課長
性能、計画
(KANRIN (咸臨) 第12号 (2007年5月) 発行当時)