トップページ > シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ > Vol.009 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第18号 (2008年5月) より

Vol.018 我が工場の頼れるオヤジ

1. はじめに

今回は三井造船(株)千葉造船工場の船体儀装の第一人者であり「千葉工場の至宝、人間国宝」とも呼ばれる南原國夫さんを紹介します。南原さんは三井造船玉野事業所に昭和38年に入社、養成工を経て昭和42年に操業開始直後の千葉事業所に転勤して42年間のほとんどを船体儀装畑を歩み、千葉工場の創成期から艤装職場を今日まで支えてきた人です。最近は安全関係、技能伝承の仕事を通して中堅若手への指導育成面に力を発揮されています。

また特筆すべきこととして昨年11月に行われた秋の褒章伝達式でこれまでのさまざまな功績を認められ、皇居豊明殿にて天皇陛下に拝謁して黄綬褒章を賜りお祝いの言葉を賜ったことでもわが工場内で有名な人です。

2. 造船との出会い


LNG船での南原さん

入社は当社発祥の地である玉野工場。父親が造船マンで子供の頃は機械工であった父親の汗にまみれて働く男臭い姿を見て育った。雨が降れば会社に傘を持っていく、残業時は弁当を届けに行く。いつの間にか自身も養成工として三井造船に入社した。以来38年間、主に船装関係で蟻装畑を歩いてきた。

26才の頃には若いながらも班長となり仲間、先輩の作業指揮を執ることになる。作業指示をすれば仲間からやってみせろと冷ややかに言われたが、物怖じせず必ず彼らの前でやってみせた。その姿を見て皆がついてきてくれた。当然やってみせるだけの技量を人一倍の努力で身につけていたのである。

その後はULCC(ULTRA LARGE CRUDE OILCARRIER)、当社初めてのLNG船、コンテナ船、…艤装の地上化推進など数多くの重要な仕事に力を発揮し、数多くの修羅場も克服してこられた。

3. エピソード


黄綬褒章を受章

思い出すと失敗事例・苦労話は数限りなくあるそうですが、例えば舵工事では船の大型化が進む中、いまだまともな治具がない頃、試行錯誤を繰り返し自分たちで専用の治具を作っていたこと。精度面で自分が施工したマーキンのずれが気になって一晩中眠れず、上司に頼んで工期を伸ばしてまでもやり直したこと。コンテナ船で自分の立てた工事計画の狂いで岸壁でハッチがいつまで経っても開かない、他課から多くの応援を借りて無事引渡しにこぎ着けたこと。海上公試でのアンカートラブルなど数限りがない。

良い思い出を聞いてみると艤装など一部の人しか味わえないが、海上公試で動く船に乗船して生きた船を味わえたこと。公試中にふと海を眺めトビ魚が海面を跳ねている光景などなんとも言えない瞬間だったと答えてくれました。

さらに一番大きなトピックスとしては昨年11月の黄綬褒章の受章。受章の感想は「率直に言ってたいへんなことになってしまった。私がもらってもいいのかな」と思ったそうです。今までいろいろな仕事をしてきたが、それをさせてくれた上司がいて、ついてきてくれる仲間がいた。このふたつに尽きると。だから皆の代表でもらった、仲間に恵まれたからもらえた、それが私の財産だといつも思っていると語ってくれました。

4. 人を育てる


人材育成について熱く語る南原さん

これから後輩、同僚へ望むことはとの問いかけに「本当によく頑張っていると思う、びっくりするくらい成長している」との想定外の答えが返ってきた。人の育成について「人は必要に応じて必ずステップアップして育っていく。力を発揮させる場をつくってあげることが大切。やらざるを得ない状況、責任を持たせチャンスを与えれば必ず伸びる」との思いを語ってくれました。

さらに「育てるうえで基本的なことに手を抜いてはダメ。さらに体験してはじめて覚える、経験が必ず必要。良いことばかりでなく失敗体験こそが大切で経験してはじめていろんなことを感じ取れるようになる」とも語ってくれました。

とにかく26歳で初めて班長になった時と同様に人と接するときは自分も中に踏み込み一緒になってやっていく姿勢で今後も仕事に取組んでいくとのことでした。


高操業が続く千葉工場

5. おわりに

南原さんは3年前から工場の安全管理の仕事に異動し、これまでの豊富な経験と誰からも慕われる人格、厳しさで各職場の安全活動を牽引してきました。蟻装の現場を離れたときは寂しい思いもしたそうですが、現場へ出てみんなに声をかける姿は相変わらず生き生きとしており、現場の仕事、職人の気質を知り尽くした人にしかできない指導・教育、さらに語りかける一つ一つの言葉には相手を心から思いやる厳しさと味わいに満ちた暖かさがありました。

その南原さんもこの3月末に定年を迎えますが4月からは新たな職場である技能・人材育成グループの長として新卒者、若手、中途者の指導育成を行うこととなります。

今後は本人にとって赤ん坊のような若い人を指導育成し、現場の一線に羽ばたかせる立場で活躍していくこととなります。いつまでも私たちにとって頼れる、頼もしいオヤジであり続けます。


古賀 哲郎(こが てつろう)

三井造船(株)千葉造船工場製造部
内業課長
課長
(KANRIN (咸臨) 第18号 (2008年5月) 発行当時)

▲このページの最上部へ

シリーズインデックスへ

学会事務局

〒105-0012

MAP

東京都港区芝大門2-12-9
浜松町矢崎ホワイトビル 3階
TEL:03-3438-2014/2015
FAX:03-3438-2016