トップページ > シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ > Vol.011 - 学会誌 KANRIN(咸臨) 第22号(2009年1月) より

Vol.011 現代の名工

1. はじめに

名村造船所のかっこいいオヤジ、生産技術開発部技能伝承グループリーダーの佐藤 桂(さとう かつら)さんをご紹介します。

佐藤さんは、アーク溶接工の部門で高度な溶接技術と技能伝承を評価され、今年度の「現代の名工」に選ばれた方です。

2. 現代の名工とは


平成20年度「現代の名工」佐藤 桂さん

この制度は、厚生労働大臣が、わが国最高水準の技能を有し、他の技能者の模範となるにふさわしい方を卓越した技能者として表彰する制度で、毎年約150人の方が受賞されています。

佐藤さんは他社での経験を積まれた後、平成2年に弊社に入社されました。現在の職場に異動する前は、船体建造やガスタンク製作に携わってこられ、その間も平成3年に第37回全国溶接技術競技会の被覆アーク溶接の部で最優秀賞(日本一!)、同じく平成4年の第38回大会では炭酸ガスアーク半自動溶接の部で優良賞を受賞され、平成12年には九州溶接マイスターを贈られています。この他にも数々の競技会で優秀な成績を収められており、まさに「現代の名工」と呼ぶにふさわしい人物です。

3. 技術・技能の伝承

造船業界は、熟練技術の伝承が大きな課題となっており、優れた技術をいかにして若手社員に伝えるか苦慮しています。これに対し、弊社では「技能伝承グループ」という組織を立ち上げました。

このグループは、従来の溶接自動化推進、溶接技術指導などの業務に加え、若年層の溶接技術・技能のレベルアップおよび確実な技能伝承の強化と、社内における教育・指導体制の充実を図ることを目的とした組織です。佐藤さんは、この技能伝承グループのグループリーダーとして、日々後輩の育成にあたっておられます。

また、社外においては、毎年佐賀県立有田工業高校および佐賀県立唐津工業高校で「スーパー技能者の技」と題して、溶接講習会も行っておられます。佐藤さんがお持ちの造船に関する専門知識や、授業では触れることのない高度な技を前に驚きの声が上がり、授業の後半では直接技術指導を行い、難度の高い溶接技術を披露されたとのことです。

さらに、この他にも陸上自衛隊や海外造船所での技術指導依頼に対して、その優れた技術を惜しみなく伝授されています。

4. インタビュー

佐藤さんに対して、インタビューを行いました。

Q.
現在の業務内容は?
A.
グループリーダーとして、技能伝承グループ全体を取りまとめています。また、伝承の他にも、自動溶接関係や溶接施工についての観察役もやっています。溶接施工に関して現場でトラブルが起きていないか、また問題点はないかを日々確認し、それらを持ち帰って解決策や改善策をフィードバックしています。
Q.
これまで数々の賞をお取りになっていますが?
A.
たまたま巡り合わせで受賞したという気がしています。ただ、改めて思うのですが、こういう競技会のようなチャンスが巡ってきた時に、普了』段からの実力が備わっていないとダメで、それから練習を始めても既に遅いということです。その場しのぎの練習だけだと、本番で緊張した時に普段やっていることがそのまま出てしまいます。
やはり、日頃から技量に高い関心を持って、仕事を楽しむことが大切だと思います。そして、仕事に対して、こうすれば上手くいくんじゃないかとか、いつも考えていることも大切です。これについては、他社の受賞者の方に話を聞いても、同じ考え方でした。
Q.
若手社員に望むことは?
A.
教える側もそうですが、ポジティブな考え方が大切だと思います。また、先にも述べましたが、楽しんで仕事をすることです。
例えば、仕事の中で仲間同士と競争するのもいいですね。ただ仕事をやる・やらされるのではなく、遊び的な要素を取り入れることも必要と思います。そして、自分より少しでも高いレベルの先輩達と接し、それを見習って欲しいのです。我々技能伝承グループもお手伝いしますし、判らないことがあれば、いつでも相談に来てください。何でも教えます。
また、技術・技能には技量だけでなく知識も必要です。理屈が判っていないと上達しませんし、次の世代に伝えられません。その意味では、私自身もまだまだ道半ばと思っています。
Q.
プライベートの面をお聞きします。家庭ではどんなオヤジですか?


ご家族での富士山登山の様子

A.
けつこう多趣味ですね。体を動かすことが大好きで、手を休めるのが苦手なタイプです(笑)。
例えば、日曜大工でウッドデッキを作ったり、山にある藤の蔓を使って篭を編んだり、竹で釣竿(いわゆる和竿)を作ったりしています。それと、仏像も彫りますね。彫り始めると時間を忘れてしまうので、定年した後に自由な時間ができたら本格的に取り組みたいですね。
あとは、とにかく家族との時間を大切にしています。特に家族との旅行は大好きで、これまでもあちこちに行っています。また、土日の休みを利用した、弾丸ツアーもよくやります。例えば、急に讃岐うどんが食べたくなって、香川県まで車を飛ばしたりとか。
Q.
最後に、これからの抱負をお聞かせください。
A.
各職場毎にある技量マップを整備し、作業者の技量を数値化し把握できるような体制を目指しています。また、定年までの仕事として、自分の技能をバトンタッチできる後継者を育てることが重要な課題であり、これが伝承と思っています。会社への恩返しの意味もあるし、自分自身がこの名村造船所にいたという証しを残したいためです。

5. あとがき

佐藤さんと筆者は同時期の入社で、一時期同じ町内に住んでいたこともあり、お酒の席にも何度かご一緒させていただきました。最初の頃は、普通のおじさんと思っていましたが、その後のご活躍は、まさにかっこいいオヤジそのもので、本当に頼れる大先輩です。

今回この企画を通して改めてお話を聞かせていただき、仕事だけではなく、プライベート面においても、いろいろな意味で名工としての存在感の大きさを再認識しました。佐藤さんには、今後も若手社員の指導と技術・技能の伝承をお願いするとともに、これらの優れた技術・技能を、さらに次の世代へと引き継ぐことが我々に課せられた使命だと思っています。


津上 由紀夫(つがみ ゆきお)

(株)名村造船所 基本設計部 機関計画課
課長
機関計画
(KANRIN(咸臨)第22号(2009年1月)発行当時)

▲このページの最上部へ

シリーズインデックスへ

学会事務局

〒105-0012

MAP

東京都港区芝大門2-12-9
浜松町矢崎ホワイトビル 3階
TEL:03-3438-2014/2015
FAX:03-3438-2016