今回、佐世保重工業株式会社のかっこいいオヤジとして、艤装部塗装課長の「坂賀 博さん」を紹介します。
坂賀 博さん
今年で入社36年目、長年の経験から培われてきた技量もさることながら、真黒に日焼けした肌、がっしりとした体形、類ない眼光など、造船所内の数々の猛者をもしのぐほどの印象深い風貌をもった方です。
設計の若手社員ということで記事を担当することとなった我々は、いままで坂賀さんと言葉をかわしたことは無く今回初めて対談しました。いままでに構内を自転車で走り回る坂賀さんを見かけることがあり、その鋭く勇ましい目つきから「厳しくて怖そうなオヤジ」という印象を持っていました。しかし、話をしているうちに容姿からは想像も付かないような物腰の柔らかさを感じると共に、優しい方であることがわかってきました。
坂賀さんを紹介する上でかかせないのはラグビーです。高校時代に始めたラグビーを45才まで続け、現在ではシニアの大会で中国や韓国まで遠征したり、試合観戦のために石川県や宮崎県まで出かけたりと、ラグビーへの愛着は相当なものです。
ラグビーを選んだ理由は、高校生のとき、野球は知名度が高く中学時代から続けている者がいるため競争するのにフェアでないと感じ、同級生と同じスタートラインに立てるスポーツだったからだそうです。
入社して間もない頃から現在に至るまで、ラグビー愛好者の方々からのお誘いも絶えることがなく、ラグビーを通じて幅広い人脈を築かれたそうです。
坂賀さんのポジションは「プロップ」。このポジションは総勢15名から構成されるチーム最前列で攻撃を担当し、相手フォーワードとスクラムを組み合います。そのため、体重も重くがっしりとした体格の人が担当しなければなりません。ラグビーについて門外漢の我々は、坂賀さんから話を聞いてはじめてこのポジションの役割を知ったのですが、まさに坂賀さんにぴったりのポジションだと感心しました。
激しく相手チームの選手とぶつかり合うスポーツで怪我が絶えないのではと思ったのですが、坂賀さんは今までに骨折したことはないそうです。しかし額に残る傷跡は競技中に裂傷したもので、忘れられない大きな怪我だったそうです。そのような怪我をしても、試合後に相手チームと一緒に無礼講で交わす酒はうまい、というところに豪快な性格が伝わってきます。
職場で必要な資質について訊ねたところ、「第一に体力」との答えが返ってきました。高校時代には雨天時にも欠かさず行っていた山越えの20kmマラソン、日々の練習で鍛えられた体から発せられる言葉には説得力がありました。ハードな仕事をやり遂げるには必須のものではないでしょうか。
坂賀さんの経験談を聞くなかで我々が感じたことは、職場でのリーダーシップを発揮する原動力がラグビー精神であるということです。坂賀さんがかもしだす「一人は皆の為に、皆は一人の為に」のラガーマンスピリッツが職場を活気づかせ、和気あいあいとした雰囲気を作り出しているのではないかと思います。
坂賀さんに、仕事、プライベートなどについてインタビューを行ないました。
- Q.
- 今までの経歴を教えて下さい。
- A.
- 名古屋で旋盤工を6年ほど経験したあと、今の仕事に36年間従事している。36年間のうち課長歴は10年ほど。造船塗装のあらゆる作業を経験したが、班長として外板塗装を担当していた時期が体を動かすことが好きな私にとっては一番思い出深い。仕事を覚え初めの若い時には、足、腰、首の痛みがいつも絶えず、痛みを和らげるため購入するサロンパス代が馬鹿にならないくらいの額になったこともあったが、技術習得のためと思うと惜しくはなかった。
- Q.
- 思い出深いエピソードは?
- A.
- ギリシャ船主は、特にバラストタンク内の塗装検査が厳しかった。ブラスト処理を何度もやり直したし、エッジ処理に厳しい指摘があったことも忘れられない。
ブラストのやり直しで大変なのは、検査前にせっかく掃除したものを、手直し後の再検査のためにまた掃除をしなければならないことだ。掃除というとゴミを取って終わりという印象が強いが、塗装でいう掃除とはバキュームでゴミ、ホコリを完全に吸い取らなければならず非常に手間のかかる作業だ。表面を触って手袋に付いた僅かな汚れを見せて「これでは駄目だ、やり直しだ」と言う厳しい監督もいた。
エッジ処理のやり直しで大変なのは、コーナーのスカラップや部材切り明け、切り抜き箇所だ。特にコーナーの切り明けはただでさえスプレーが届きにくい箇所なので、要求を満足させるのに大変苦労した。
- Q.
- 一番苦労することは?
- A.
- サンダー処理の施工検査で、4回やり直しをしたこともある。サンダー処理はブラスト処理に比べ、シンナー拭きを行っても埃や黒粉(鉄粉)が残りやすい。最終的には何度でも丁寧な仕事を繰り返さねばならず、本当に大変な作業だと思う。
- Q.
- 塗装作業は天候に左右されやすいのですが?
- A.
- 会社出勤前の5時50分に必ず天気予報を見るようにしている。テレビの降水確率は当てにせず、自分の目で雲の流れを見て、「今日はこのぐらいの時間に天気が悪くなるだろう」と予測している。天気が悪くなることを見越して、外板の塗装作業者を機関室や居住区等の雨の影響を受けない場所へシフトして錆落としをしてもらうこともある。天気の良し悪しは塗装作業への影響が非常に大きいので工程を調整しながら完工日までに仕上げるようにしている。ここ5〜6年は幸いに天候にも恵まれ、悪天候のために検査ができず工程が遅れるなどの事態は起こらなかった。雨で作業ができず、室内で行う作業もないときは潔く帰宅して趣味に没頭している。その結果、変則的な勤務形態となってしまうが、趣味を多く持っているので苦にならない。
- Q.
- 若手社員に思うこと・伝えたいことは?
- A.
- まず第一に信念を持って仕事をすること。そして更なる技術の向上を目指してほしい。常に技能の習得を怠らず、他課や監督の方々とのより良い信頼関係を築いてほしい。すぐに先輩に頼るのではなく、自身で悩み、考え、そして解決してほしい。その姿勢が自身の成長への近道になる。
最近の若い者の中にはすぐに職を変えたがる者もいるが、仕事の向き不向きはある程度経過しなければ分からないもの。私は1つの職を極めることを薦める。
坂塗膜検査中の坂賀さん
- Q.
- 技能、技術伝承の取り組みについて教えて下さい。
- A.
- 近年の塗装検査業務は経験だけでは務まらない。知識だけではなく資格も必要になってきている。そのため、若手社員には積極的に資格を取るように指導している。実務としてはマンツーマンで、磨き、塗り、サンダー掛けの指導を行い、ある程度経験を積んだところで同型同船主船のように比較的業務対応がしやすい船を若手主導で担当させている。
- Q.
- プライベートについて教えて下さい。
- A.
- 趣味は体を動かすことやお酒を飲むこと。お酒は種類を問わず、芋、麦など25度以上のアルコールならば何でも飲む。週末はラグビーや魚釣り、また国内各地の酒蔵巡りや家庭菜園だ。ピーマン、キュウリ、トマトなど四季折々の野菜を無農薬でつくっている。少し前までは山へ入ってヤマイモ掘りなども楽しんでいた。
- Q.
- 坂賀さんは過去に苦い経験を持っていると耳にしましたが。
- A.
- 魚釣りを終えて釣り上げた魚を食べている時、酒も入っていたせいか、気づいたらマムシに噛まれていた。急いで病院へ行き救急治療のおかげで大事には至らなかった。入院中に他の病気を発見することが出来たのもマムシのおかげというべきか。みんなには「マムシは大丈夫だったか」と冷やかされたが。
- Q.
- 今後の課題を教えて下さい。
- A.
- 大型化するブロックへの対策が課題と考えている。新塗装ブースが間もなく完成するが、高所作業が増えるので足場の問題、防火対策など安全対策には万全に取り組みたい。プライベートではゆっくり九州の焼酎めぐりをしてみたいし、ラグビーの試合にも参加できるよう体力を維持することが課題と考えている。
塗装課の班長に、上司である坂賀さんについて聞いてみました。「坂賀さんの作業を進める速さにはいつも感心させられる。少しでもはやく追いつけるように、彼の仕事ぶりを参考にしている。また、多くの作業者をとりまとめる能力や人柄は、我社ではトップクラス。坂賀さんに追いつき、追い越したい。」
今回の取材で印象的だったのは、坂賀さんの仕事に取り組む姿勢、部下に対する心遣いでした。どんなに大変な仕事にも屈しないたくましさはラガーマンスピリットそのものだと感じました。坂賀さんから発せられる言葉には説得力があり、それは今までの経験に裏打ちされた自信から生まれるものと思います。若い人に何かを伝えたい、いい仕事ができるよう育って欲しい、という心遣いも伝わってきました。今の造船を支えているのは坂賀さんのような「おやじ」です。これからの造船業を担うわれわれは、仕事だけでなく人間的にも見習っていこうと思います。
瀧口 信次(たきぐち しんじ)
佐世保重工業(株)新造船事業部 造船設計部 船殻設計課 課長 船殻設計
中川 聡(なかがわ さとし)
佐世保重工業(株)新造船事業部 造船設計部 電装設計課 動力系統図、自動化系統図
里山 要一(さとやま よういち)
佐世保重工業(株)新造船事業部 新造船計画管理部 生産設計課 工作図、3D-CAD
(KANRIN(咸臨)第28号(2010年1月)発行当時)
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