トップページ > シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ > Vol.019 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第38号(2011年9月) より

シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ Vol.018 新しい事に挑戦!

1. 神はディテールに宿る


ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969)

「神はディテールに宿る」。

この言葉はル・コルビジェ、フランク・ロイド・ライトと並び近代建築の3大巨匠のひとりミース・ファン・デル・ローエが残した名言です。建築家の思い入れは建物のディテールにこそ表れるという意味で、建築の細かい部分の造り込みや納まりの綺麗さが建築全体の値打ちも決めるという考え方です。今回ご紹介するオヤジは造船所の構造屋ですが、仕事ぶりを見ていてこの言葉に通じるものを感じる匠です。

船の構造図のスケールは1/50や1/100が普通ですが、オヤジの描いた図面には1/1、1/2.5や1/5などのスケールもよく登場します。そうすることで配置や構造詳細が確実に成り立つように設計するのです。当然一度でうまくいくとは限りません。いろいろなアイデアを出しては図面に描くことを繰り返し、ミクロとマクロを行ったり来たりしながら、設計者の意図を図面の中に具現化して行きます。また形状変化の大きい船の船首尾構造を検討するときにはほとんどすべての断面図を実際に描いて構造がうまく成り立っているかを確認して行きます。全体をうまく成り立たせるためにディテールをうまく成り立たせる。結果としてより優れた=よりシンプルで、納まりのよい設計に辿り着くのです。

2. 図面が喋ってくれる

「図面が喋ってくれる」。

この言葉はオヤジの口癖です。彼の描く図面は事実にとても忠実です。「図面が喋ってくれる」とは、事実に忠実な図面を描けば設計上や工作上の問題点や注意点が自然と明らかになって、設計者がそれらに気づくことが出来るという意味です。彼はちゃんとした図面を描かないことで、検討しなければならないことに気づかない怖さや、そうした図面がひとり歩きを始めて他の図面のミスまでも誘発してしまう怖さを知っているのです。彼の描く図面には隣り合う区画の情報や構造図面には省かれることの多い艤装品などの情報も入っていますし、白黒の図面がカラフルに色分けされていることもあります。検討する目的に合わせて図面に「喋らせている」のです。

3. 超速仕事術


オヤジが作成した補修図
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造船所には就航船の損傷や補修に関する問い合わせが船主さんから来ることがありますが、問い合わせが来てから補修図を提示するまでの時間的余裕がほとんどないこともあります。そのため船主さんから送られた写真や報告書を読んで現状を把握し、構造図を眺めつつ原因を推定し、対策を講じてすぐに図面を完成させなければなりません。しかも、補修作業は新造船の工事とは違い馴染みの自社スタッフが行うわけにもいかず、どこのだれが作業するか分かりません。そんな時にはオヤジが頼りです。あっという間に図面を描き、図面には設計の意図がきちんと補修作業に反映されるように作業要領も示されています。その上、手書きの3D図が添えられていることも。「早い」けど「ちゃんと」。そんな彼の仕事っぷりは鉄人クラスです。

4. MR造船所


オヤジが担当した銀河丸

オヤジは入社以来一貫して構造屋ですが、性能屋から艤装屋まで話の分かるマルチな構造屋です。これは今までの経験の中で構造だけでなく線図や艤装のことを理解しようと努めながら仕事した証です。これは彼が「色物」と呼ばれる高速艇や練習船などの小型で特殊な船種を担当していたことも関係しているのかもしれません。このような船種の設計ではより限られた空間に、さまざまな機器を密に配置しなければなりませんから。そんな彼を見ていると一人で船を設計することも強ち不可能ではないと感じます。

5. カミナリオヤジ

造船の設計においては構造以外にも機関、艤装など多くの部署がかかわって仕事をします。構造図を効率よく描くためには、タイムリーに船殻に関連する他部署の設計情報を仕入れることが必要になります。しかし、部署によって加工開始日や機器の搭載日、それらの材料に必要なリードタイムが変わり、設計全体で一気呵成にはなかなかうまくいきません。中でも船殻は船体ブロックの加工開始日までに材料をそろえる必要があるので相対的に早い時期に図面を固める必要があります。そんなときオヤジは機を見計らって、まだ「本気」になっていない他部署に闘魂を注入しに行きます。もちろん仕事の中身やスピードについての要求も厳しいです。まず図面を描き、問題点を明確にすること。そしてスピード感を持ってその問題を解決すること。今では、職場で吼える輩は稀少になっていますが、時折彼の周辺にはカミナリが落ちます。

6. オヤジの背中


オヤジの正体 小川三男さん

最近はコンピュータの進歩に伴い3D CADやレビューなど設計支援ツールが発達し、一方では省資源の観点からペーパーレス化が叫ばれるなど、設計のやり方は変革期に差し掛かっています。しかし、設計や図面を描くことの本質は今も昔も変わりません。その本質をオヤジは私たち後輩に示唆してくれます。そんなオヤジの正体は三井造船(株)玉野事業所の船殻設計課で働く小川三男さんです。1973年に入社以来、船舶の構造設計業務に勤しんでいます。



谷本 周太(たにもとしゅうた)

三井造船(株) 玉野事業所 艦船設計部 船殻設計課
主任
船殻設計
(KANRIN (咸臨) 第38号(2011年9月) 発行当時)

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