トップページ > シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ > Vol.021 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第42号(2012年5月) より

シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ Vol.021 揚重のスペシャリスト

1. はじめに


写真1 神宮幸一さん

ユニバーサル造船有明事業所のかっこいいオヤジ、造船部船殻計画室揚重チームのチームリーダー神宮幸一(じんぐうこういち)さんをご紹介します。

神宮さんは昭和49年に今のユニバーサル造船の前身である日立造船有明工場に入社。入社当時は生産設計課に配属され足場計画をされておりましたが、3年後に揚重チームに異動となり、今日まで揚重計画の業務に携わっております。

神宮さんの所属する揚重計画の業務は、船殻ブロックの重量重心の算出に始まり、移動、反転、搭載の各ブロック姿勢に合わせた揚重要領の計画、そして渠中の盤木配置の計画をしております。神宮さんが入社された当初は重量重心、揚重、盤木配置はそれぞれ異なった部署で担当されていたのが、今では揚重チームが一手に行っており、如何に効率よく、そして如何に安全にブロックを渠中搭載まで導いていくか、建造工程において非常に重要な仕事を担っております。

2. 揚重設備の考案

揚重の仕事では、工場内の設備をしっかりと把握した上で、その設備の能力を最大限活かした計画をすることで、安全且つ効率的な工程を確保することが使命と言えます。

連続建造している船種であれば、当然のことながら必要な設備は工場内に備わっていますので、最適な計画をする上で設備不足ということはありません。しかし、特殊船若しくは海洋構造物など建造方法も構造も異なる場合は、現有設備で計画が難しい状況が少なからず発生します。過去有明事業所においても海洋構造物を建造した実績がありますが、やはり揚重に関する幾多の問題が発生したとのことです。ではこのような問題を神宮さんは一体どのようにして解決してきたのか?

それはご本人自ら新たな設備を考案することで様々な問題を解決してきました。

これまでに神宮さんが自ら考案した設備や装置は、各種天秤や受け架台をはじめ、30種類以上にもおよび、中には特許まで取得した設備もあります。

ほんの一部ではありますが、このれまでに考案してきた設備には以下のようなものがあります。

  • 搬送架台
  • プロペラ架台
  • 360t 天秤
  • 1020t LEG 吊り冶具
  • セミサブリグ用プラットフォーム受け架台
  • ラムリグ搭載用 JIG FORK(大型天秤)
  • フローティング鋼製盤木
  • 1200t ゴライアスクレーン荷重検定用吊枠

また、2年間ほど造船を離れ社外向けの設備の計画をされていた時期があり、その時には漁礁や遊園地内展示施設、ごみ焼却台船などの設計を経験されています。これだけ多種多様な設計をするためには建築も含め幅広い知識が必要になりますが、神宮さんは不足している知識を補うために片っ端から本を購入して独自に勉強されたそうです。このような幅広い知識と対応力、そして強い向上心が神宮さんが活躍されている背景にあるのだと思います。

3. セミサブリグでの苦闘


写真2 JIG FORKによるラムリグ搭載状況

これまでの経験の中で最も心に残っている仕事をお聞きしたところ、セミサブリグ建造でのラムリグ(掘削用ドリルパイプの揚荷設備)の搭載工事がこれまでの会社人生で最も困難で全身全霊をかけて取り組んだ仕事であったとのことです。このラムリグは当時世界初となるデュアルラムリグを採用しており、メイン構造のラムガイド(デリック)の高さはガントリークレーンを14mも超過しておりました。当然揚程不足からガントリークレーンとラムリグが干渉するため搭載は困難な状況にありました。有力な代替案としては大型の海上クレーンやクローラークレーンによる搭載が考えられましたが、吊り上げ能力不足から一体搭載が出来ず、分割搭載による組立精度の確保などこちらも大きな問題を抱えていました。このような既存の搭載方法が通用しない状況で問題解決に取り組んだ中心人物が神宮さんでした。実際に搭載工事を無事完了させるまでの道のりは非常に険しく、白紙の状態からスタートしてまずは新しい搭載方法の概念図をクローラークレーン業者を含めた搭載検討代表者会議に提案したところ、「こんなもので出来るわけが無い」と相手にされなかったそうです。

それでも「成し遂げる」という強い意思のもと、地道にアイデアの具体化を進め、テストやシミュレーションでは自ら現場で指示をするなど苦労の末に全く新しい搭載方法であるJIG FORK式ラムリグ搭載法を開発しました。この開発した搭載方法は、従来は不可能であったガントリークレーンでの高構造物を可能としております。一口で言えば、従来のワイヤーロープで物を吊る概念を捨て、考案した天秤で対象物を掴むと言った非常に画期的な方法であり、特許も取得されたとのことです。尚、ご本人はラムリグの搭載が完了するまでは、大好きな酒を3基のラムリグの搭載が完了するまでやめたそうです。無事に搭載が完了し終わった後に飲んだ酒は格別だったとのこと。

4. プライベートでの活躍

仕事を離れプライベートで神宮さんが活躍される場所がボーイスカウトです。知人に誘われて約20年前から活動されているそうですが、やってみたいという憧れもあり、知人に誘われたのがきっかけだったそうです。神宮さんが所属する(社)ボーイスカウト熊本県連盟は5地区29個団で構成されておりますが、約10年間団のボーイ隊長を務められ、野外活動を通した子供達の育成に活躍されたあと、6年ぐらい前から、ボーイ隊の副長のかたわら北部地区(熊本県北)のコミッショナーを任され、地区内5個団の隊指導者の支援や地区全体の世話役として活躍されております。このコミッショナーの役割は、お聞きしたところかなり大変そうで休日の予定はほぼ埋まった状態とのことで、もしかしたら仕事以上に大忙しかもしれません。

5. おわりに

今回の取材ではご紹介した案件以外にも数多くの考案された設備のエピソードをお聞することが出来ましたが、どんな難題にも果敢にチャレンジする姿勢を強く感じると共に、課題を克服することをどこか楽しんでいるようにも感じられました。

弊社有明事業所では今年度中に1200tのゴライアスクレーンが2基装備されますが、きっと“かっこいいオヤジ”によってこの新クレーンの能力を最大限引き出すための搭載方法が確立されることは間違いないでしょう。



中村千春(なかむらちはる)

ユニバーサル造船(株)
有明事業所設計部船装設計室 室長 船装設計
(KANRIN (咸臨) 第41号(2012年5月) 発行当時)

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