トップページ > シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ > Vol.022 - 学会誌 KANRIN (咸臨) 第44号(2012年9月) より

シリーズ 造船所のかっこいいオヤジ Vol.022 判断力・アイディアの源は

1. はじめに


村上忠さん

川崎重工業(株)船舶海洋カンパニー神戸造船工場のかっこいいオヤジ、工作部船殻課第1船殻係盤木職場長の村上忠(むらかみただし)さんをご紹介します。

村上さんは、昭和46年に川崎重工業(株)神戸工場へ入社し、40年以上もの間、新造・修理艦船における盤木作業全般に従事しています。

入社以来、村上さんは運輸・盤木職場の一員として盤木配置工事、岸壁への係船作業、各種ドック入出渠作業、クレーン作業、運搬作業等多岐にわたる業務を経験しています。

盤木職場は自部門のみならず他部門からの依頼の業務も多く、またそれらは緊急かつ短工期での完遂を要求されるものが殆どで、非常に難しいものであります。村上さんはこれらの業務を豊富な経験に基づいた迅速な判断力や優れた発想によりいとも簡単にやり遂げてしまう‘かっこいいオヤジ’です。

2. 阪神大震災被災からの早期復旧への貢献

平成7年1月発生の阪神大震災では、当社の神戸工場も例に漏れず大きな被害を受けました。中でも船台上に据付けられていた当社1448番船は、進水前日でありましたがその大きな揺れにより盤木構造が大きく崩れ、進水不能状態に陥りました。

当時、神戸の町は交通機関・インフラが麻痺し、また余震が断続的に発生するような状況でした。そのような中、村上さんは自家用車を使って通勤手段のない部下や同僚たちを送迎するなどして出社可能な従業員をかき集め、何とか人手を確保しながら復旧工事に携わりました。

極めて困難な状況下にもかかわらず、村上さんをはじめとした当社従業員は、昼夜を問わず一丸となって神戸工場の復旧作業をすることにより、当該船を見事進水させることができました。

阪神大震災というと、今から約20年ほど前の話になりますが、このような大災害のもとであっても、「皆で助け合えばできないことはない」という精神で神戸工場を見事に復活させた村上さんの思いには、今の我々にとって勇気づけられるものがあります。

3. 進水作業の大幅な改善

平成11年、神戸工場では阪神大震災後に一時中断していた商船の建造を再開しましたが、商船建造継続のため、神戸工場では大幅なコストダウンが要求されていました。そこで村上さんたちは、船台工事量の約1/3を占める進水作業の合理化を図るべく、抜本的な各種改善に取り組み始めました。しかし、改善にあたり、以下の課題が村上さんの前に立ちはだかりました。

  1. 商船建造中断により、各種進水器材、設備の老朽化が目立ち、その復旧には多額の費用が見込まれた。
  2. 神戸工場特有のヘット進水には、特殊な技能が必要不可欠であるが、商船建造中断中のブランクにより、熟練工の数が圧倒的に不足していた。

そこで、以上の課題を克服すべく以下の改善に取り組みました。

  • 滑走台引抜き進水から滑走台固縛進水への移行
  • 進水台構造を木製から鋼製に変更
  • 使用木材の購入量適正化
  • 安全強度を考慮し、船台面の補修部を特定
  • 進水台滑面の仕上げ方法の改善
  • 船底盤木支柱配置の見直し(転倒防止)

以上を達成するために、関係先との折衝・従業員の安全の確保・様々な実験等に取り組みました。取り組みの最中には数々の困難にぶつかりましたが、入社以来村上さんが培ってきた知識と経験によりこれらを克服しました。

以上の取り組みの結果、商船建造の再開を軌道に乗せることに成功するとともに、大幅なコストダウンと安全性の向上を同時に達成できました。

4. 進水作業の標準化


58,000DWTバルクキャリアの進水式

前述の通りの改善を行い、連続建造のための体制づくりを再び整えることができました。しかしながら、震災後の坂出工場への人員シフト等の影響もあって熟練作業者が大幅に減少しており、進水工事の完遂が危ぶまれていました。

そこで村上さんたちは、未経験者を含めた少人数で当該作業を実施できるようにすべく、当時は職人の技量と経験に頼っていた進水作業について、標準書を作成することに取り組みました。作成に当っては誰が見てもすぐに理解できるものにするため、写真や図解を多用するなど様々な工夫を取り入れました。また、工事量の山谷の変動が大きい工程に関しても工事量を最大限に平準化することに取り組みました。以上の結果、未経験者を含めた最少人数で作業を実施できるようになりました。

またお客様からも、品質が向上したことで高い評価をいただいております。

5. プライベートでは

村上さんのご趣味は釣りで、休日にはよく海に出かけられています。小型船を個人で所有し、かなり本格的に活動されているようです。また、奥様と一緒に出かけられての夫婦での釣り、社内の釣好き同志との釣りなど、大勢の方と非常に仲良く楽しまれているそうです。

以前には、非常に大きなタコ(5キロ!)を釣上げ、近所のお寿司屋さんに持ち込んだこともあったということでした。

会社でもプライベートでも船に携わっており、村上さんは根っからの造船マンです。

6. おわりに

村上さんにお話を伺う中で、仕事では「なんでもやる」という精神が大切だということを口にされていたことが印象的でした。

村上さんが所属している盤木職場の業務の性質上、急な仕事が降って湧いたり、迅速な対応をせまられることが多いそうです。しかし、そうした経験を積むことで仕事の幅が広がり、アイディアが生まれたりすることが多々あったということです。

最後に、これからの造船業を支える若い人にも、ぜひそういった気持ちで仕事に取り組んで欲しいとアドバイスをいただきました。

現在、人員構成の歪みに伴い、造船会社はどこも急速な若返りが進んでおります。村上さんのような豊富な知識と経験を持つベテランが退職する前に、今の若い人が多くのことをベテランから少しでも吸収していくことが、現在の造船業に必要なことではないでしょうか。



高原佑嘉子(たかはらゆかこ)

川崎重工業(株)船舶海洋カンパニー
企画本部人事総務部人事総務課
(KANRIN (咸臨) 第44号(2012年9月) 発行当時)

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