

日本船舶海洋工学会 学会誌編集委員会
低環境負荷・脱炭素社会の実現に向けて、海運分野においても従来の重油に代わる新しい燃料の導入・検討が進んでいる。そこで本号では、前号の「アンモニア燃料」特集号に引き続き、新燃料のうち既に普及が進んでいるLNG燃料船に焦点をあて、「(我が国における)LNG燃料船の運航とバンカリング」を特集する。
LNG燃料船については、これまでも43号特集(2012年)、69号フォーカス(2016年)、81号特集(2018年)などで取り上げられてきたところであるが、次ページ以降の各記事に紹介されるように、2020年頃から我が国でも実際に運航が始まり、あわせて安全な運航を支えるための制度や施設の整備も進められてきた。そこで本特集では、我が国におけるLNG燃料船運航の実情を運航船社の立場から紹介いただくとともに、特にLNG燃料の補給(バンカリング)活動に焦点を当て、LNGバンカリングの実態、およびガイドラインや拠点の整備について取り上げる。
具体的には、はじめに、日本郵船(株)の令官史子氏、および(株)商船三井・柳沼敦氏、(株)商船三井さんふらわあ・森脇利統氏に、各社で運航されているLNG燃料船とそのバンカリングの状況につきそれぞれご報告いただいた。日本郵船(株)は、2020年よりLNG燃料自動車専用船「SAKURA LEADER」を運航しており、また名古屋港ではLNGバンカリング船「かぐや」によるShip to ShipのLNG燃料の補給も行っている。この補給活動やLNG燃料船の運航の実態について解説をいただいた。また、(株)商船三井さんふらわあは、2022年よりLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」・「さんふらわあ むらさき」を運航している。これらのフェリーへのバンカリングはTruck to Ship方式で行われており、その概要に加え、LNG燃料船の入渠工事の状況についても解説をいただいた。
次に、国土交通省海事局の齊藤詠子氏・藤枝華織氏および(株)日本海洋科学の原大地氏に、2023年6月および2024年5月に改訂したLNGバンカリングガイドラインの概要および改訂内容について解説をいただいた。特に直近の2024年5月の改訂では、夜間の岸壁係留中におけるバンカリングの実施に関する規則の制定や、海上防災組織の具体化、緊急時の対応手順の詳細化などが行われている。
最後に、国土交通省港湾局の江越晴樹氏に、LNGバンカリング拠点の整備政策について、これまでの経緯や支援制度、および国際的な協力体制の構築について解説をいただいた。これまでにLNGバンカリング拠点として、伊勢湾・三河湾、東京湾、九州・瀬戸内、大阪湾の4事業が採択され、「かぐや」が燃料供給を行っている伊勢湾・三河湾だけでなく、2024年4月からは九州・瀬戸内地域でもLNGの燃料供給が始まっている。
このように、本特集は、我が国でもLNG燃料船の運航が開始・定着しつつあるタイミングで、運航船社およびバンカリングのルールやインフラを整備・監督する立場から、その実情や最近の動向を豊富な写真・図表とともに紹介いただくことで、我が国におけるLNG燃料船運航の現状を概観する構成となっており、ご一読いただければ幸いである。