日本船舶海洋工学会 学会誌編集委員会
近年,北極海や南極海での航行への関心が高まっています。本誌では,2007 年1 月号(KANRIN 第10号)で「南極」特集,2009年3月号(KANRIN第23号)で「北極海航路」特集を掲載し,北極や南極での観測,航路,船舶の技術等について紹介しました。これらの特集から8~10年が経過しましたが,このたび,極海コード(International Code for Ships Operating in Polar Waters)の氷海域を航行する船舶への適用が要求されるのを契機として,「氷海域航行の新たな展開」として特集を組むことになりました。本特集では,様々な分野より8名の専門家に執筆いただきました。
まず,東京大学の山口一先生に,氷海調査・航路研究に関する研究動向についてまとめていただき,主要な研究課題を整理していただきました。次に,大阪大学の澤村淳司先生に,氷海工学の数値解析技術の現状についてご紹介いただきました。氷海域航行に関する諸問題を整理するとともに,海氷と構造物の干渉問題に対する数値計算技術が詳しく説明されています。ジャパンマリンユナイテッド(株)の山内豊様,水野滋也様からは,氷海域を航行する船舶の性能と課題についてご執筆いただきました。氷海船舶に求められる性能と特徴が網羅的に解説され,北極海航路を利用する船舶の性能について詳しくご紹介いただいております。同じくジャパンマリンユナイテッド(株)の山内豊様より,構造面から,ステンレスクラッド鋼の適用の歴史と特徴,および砕氷船に適したステンレスクラッド鋼について執筆していただきました。続いて,海上技術安全研究所の松沢孝俊様より,氷中航行性能の評価方法に加えて,運航シミュレーションツールについて詳しく紹介していただき,最適航路探索の現状と課題が示されました。次に,本特集を組む契機となった極海コードの強制化について,その制定の経緯や概要,要件を日本海事協会の手嶋晃様に解説していただきました。さらに,船主から見る氷海海運について,日本郵船(株)の合田浩之様より,北極や南極域の商業海運の現状を詳細に整理していただくとともに,今後の見通しについて執筆いただきました。最後に,氷海域航行の実際として,北極海の安全航行のための運航実務について,日本海難防止協会の大貫伸様に執筆していただきました。航海実務,操船実務,労働安全などについて,実海域での調査結果の一例が紹介されています。
本特集では,氷海域航行の新たな展開について,網羅的にご紹介させていただきました。本特集が,読者の皆様にとって,氷海域航行の現状と課題を理解するための一助となりましたら幸いです。