日本船舶海洋工学会 学会誌編集委員会
配管は船内の様々な場所に張り巡らされている。船舶の運航や、荷役、船員の生活等のため、設置された多様な機器を結ぶ配管内には清水、海水、油類、空気などの様々な流体が流れている。さらに配管は、船体構造・区画と調整しながら限られた空間内に配置しなければならず、その設計・施工には高度な技術と豊富な経験が必要とされている。
しかしながら、近年、造船所では熟練技術者が不足しており、配管の設計・施工の分野においても若年技術者への技術伝承という問題がある。また、これまで配管艤装を含む艤装設計は、類似船型を基にした倣い設計により生産効率を高めてきたが、バラスト水処理装置などの新システムを導入する機会が増加している。配管艤装設計・施工においても、3次元CADに代表される情報処理技術(ICT)が導入され、作業の効率化が図られているが、依然として多くの問題も残されている。
そこで本特集では、2016年9月に開催された西部支部セミナー「配管艤装設計・施工の現状と可能性」を基に、造船業、及び、建築分野における配管設計・施工の現状とICT活用事例を紹介する。さらに上記に加え、技術的に近い分野である洋上プラントと陸上プラントにおける事例も紹介する。
まず、技術伝承の問題と作業効率化の観点から期待が大きい配管設計の自動化について、九州大学の木村元准教授に理論の現状と新しいアプローチについて解説していただいた。
次に、配管艤装工事におけるICT 活用事例として、ジャパンマリンユナイテッド(株)の吉冨 祐介氏、溝川 秀和氏、夏目 清一氏に、配管作業状況を計測する型取管計測機と作業実績データを管理する情報システムについて紹介していただいた。
さらに、既存船への機器追加や改造(レトロフィットエンジニアリング)における3次元レーザースキャナーと3次元CADを活用した取り組みについて、(株)スマートデザインの松尾 晃氏、佐藤 克巳氏、法本 敬太氏に、取り組みの経緯から実例、さらには今後の展望まで詳細に解説していただいた。
次に、建築設備分野におけるICT活用事例として、BIM(Building Information Modeling)に関連する取り組みを紹介する。須賀工業(株)三木 秀樹氏、向来 信氏には、建設業・建設設備業界の現状と、BIMの概要と課題、給排水設備設計における自動設計導入事例について解説していただいた。さらに、新菱冷熱工業(株)山本 誠氏、岸本 洋喜氏には、空調設備工事におけるBIM利用事例を紹介していただいた。
また、洋上構造物の配管設計の現状、各種設計業務におけるICT活用事例を三井海洋開発(株)石田 成幹氏に紹介していただいた。
最後に、三菱日立パワーシステムズ(株)堀田 圭一氏には、火力発電プラントを例に、ICT活用の歴史と最近の事例を紹介していただいた。
本特集が、読者の皆様の様々な分野における配管設計・施工の現状とICT活用に関する理解を深める一助となれば幸いである。