日本船舶海洋工学会 学会誌編集委員会
船舶は係船時や錨泊時,浮体式海洋構造物は操業時において係留索や係留設備によって係留され位置を保持している。係留索と一言で言っても繊維ロープやワイヤロープ,チェーンなど様々な材質の索があり,またそれらを用いた船舶および海洋構造物の係留方法・係留設備も係留対象ごとに様々である。例えば,船舶においては岸壁係留やアンカーによる錨泊などの係留状態があり,浮体式構造物においては係留索の概形によってカテナリー係留やトート係留などの複数の係留方法がある。しかしながら,これらの係留状態の概要や係留設備の詳細についてはあまり知られていないことも多いのではないかと思われる。さらに,これらの係留索の破断等による事故は物的な被害のみならず人的にも大きな被害をもたらすものである。そのため,国際海事機関(IMO)では係船作業の安全対策のために海上人命安全条約(SOLAS条約)の改正やガイドラインの作成について検討している。また,国際船級協会連合(IACS)では係留索の破断事故への対応に関連する規則とともに投錨・係留・曳航設備に関する規則の改定が行われている。
そこで本特集では,1月号(前編)と3月号(後編)の2号にわたって船舶および浮体式海洋構造物の「係留」に関する係留作業の概要や安全対策,係留索そのものの技術動向,関連する規則の整備状況について解説する。前編にあたる本号においては以下の三つの記事によって係留の概要ならびに最新の関連規則の動向について解説する。
岸壁での係船の事前の準備から出港までに行われる作業について,日本郵船 海務グループの森岡丈知氏,國盛充知人氏にご解説いただいた。
係船作業における係留索の破断事故に対する安全対策およびIMOでの取り組みについて,国土交通省 海事局の宇貞哲氏にご解説いただいた。
IACSにおける船舶に配置される設備および関連する構造物の安全性の向上を目的とした規則制定の経緯や改正の内容について,日本海事協会の酒井竜平氏にご解説いただいた。
後編では"係留の設備およびシステム詳論"と題して,海洋構造物の係留システム,係留索,アンカーチェーンについての解説を行う予定である。
本特集が読者の皆様の船舶ならびに浮体式海洋構造物の係留に関する理解の一助となれば幸いである。