日本船舶海洋工学会 学会誌編集委員会
無線で操縦する小型無人航空機は古くから利用されてきたが、操縦が難しく、高価なため、用途は限られてきた。近年、制御技術の発展により、操縦技術を習得しやすく、廉価なマルチコプター型の小型無人航空機が開発され、急速に普及しつつある。遠隔操縦あるいは自立式の無人航空機を総称してドローンと呼ばれる。特に、高解像度のビデオカメラをドローンに搭載し、リアルタイムに映像を確認しながら操縦できるため、様々な用途での活用が始まり、期待されている。船舶海洋分野においても、大型船舶や海洋構造物など巨大な構造物が対象であることから、人間がアクセスしにくい場所での作業へのドローンの活用が期待されている。一方で、ドローンに対しても既存の航空交通と同様に安全の確保が課題とされている。
本特集では、ドローンの利用に関する規制や規則、船舶海洋分野におけるドローンの運用ガイドラインを紹介すると共に、活用の試みとして、修繕における利用、リモートセンシング・測量への応用、人材育成への利用例について紹介する。
はじめに、無人航空機に係る航空法の概要の解説、無人航空機の利活用に向けた環境整備に関する最近の国土交通省を中心とした取組状況などを、国土交通省航空局の徳永 博樹氏に紹介して頂いた。続いて、船級検査におけるドローンを使用する際のガイドラインについて、適用の範囲と手順、技術的な注意事項の紹介、さらには今後の発展性としてICTやAIを活用した応用の展望についても日本海事協会の山田 智章氏に紹介して頂いた。
次に、船舶海洋分野における活用事例として船舶修繕分野への適用例を紹介する。はじめに、船艙内のドローンを用いた目視検査の例について、船艙内でのドローン利用の技術的な課題とそれに対する技術進歩、船舶検査のための今後の技術開発と普及活動に関する取組をテクノス三原(株)の福田 純輔氏に紹介して頂いた。さらに、船舶水線下部点検への適用の例について、ケーブル敷設船と自動車運搬船での実証試験を通して得られた効果と課題を(株)商船三井の長谷川 佳孝氏、大西 弘益氏、(株)MOLシップテックの段野 貴士氏に紹介して頂いた。
また、船舶海洋分野に係るリモートセンシングや測量への活用事例を紹介する。はじめに、ドローンによる空中写真を用いた二次元や三次元データの取得の例として、航跡波、浮体構造物と波の干渉の観測やオルソ画像を用いた船舶の三次元モデルの取得について、鹿児島大学の西 隆一郎教授に紹介して頂いた。さらに、海洋環境調査への活用事例として、ドローンによる空中写真を用いた藻場調査、赤潮調査、塩分調査などへの適用事例について、広島大学の作野 裕司准教授に紹介して頂いた。
最後に、船舶海洋分野に係る人材育成への活用事例を紹介する。はじめに、日本造船業における若年人材の確保・育成を目的とした、造船業PR用VRコンテンツ制作へのドローンの適用例を日本造船工業会の中島 宏毅氏に紹介して頂いた。続いて、将来の海洋技術者の育成を目的とした、海洋開発の基盤的技術の一つである水中ロボットについて、小型ROVを使った教育活動をNPO法人 日本水中ロボネットの浅川 賢一氏と東京大学の山縣 広和特任研究員に紹介して頂いた。
本特集が、読者の皆様の船舶海洋分野におけるドローンの活用の一助になれば幸いである。
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