日本船舶海洋工学会 学会誌編集委員会
近年、船舶の自動運航技術の実用化への取り組みが進められている。自動化・自律化の技術は、海洋調査分野において早くから遠隔操作無人探査機(ROV)や自律型無人潜水機(AUV)などに用いられ、発展を続けてきた。船舶にも20世紀中頃から自動操舵装置(オートパイロット)が用いられるようになったが、オートパイロットは定められた方位を制御する装置であり、避航動作などには対応していない。船舶の自動運航においては、波浪中における船体挙動の制御、障害物検知と衝突回避、船陸間の通信インフラの整備、自動化技術、ロボティクス技術など、多くの課題がある。しかしながら、世界的な海上輸送の増加に伴う船員需要のひっ迫、船員の業務負担の軽減、海難の8割を占めるという人的過誤(ヒューマンエラー)の減少といった課題に対して自動運航船への期待が高まるなか、近年のAIやIoTをはじめとした通信・技術環境の急速な進歩により、世界中で研究開発が進められ、船舶の自動化が実現しつつある。わが国でも2018年度に国土交通省が「自動運航船の実用化に向け、技術開発と基準・制度見直しの大枠を示したロードマップ」を策定し、2020年度には「自動運航船の安全設計ガイドライン」が策定されている。日本財団は2020年度より無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」を開始し、各種企業/団体によって2021年度末まで実証実験が行われ、2025年度までに無人運航船の実用化を目指すとしている。
本特集では、読者の皆様に今まさに実用化に向けての取り組みが本格化している自動運航船の今を広く知ってもらうことを目的として、自動運航船の国内外の動向および実用化・社会実装を見据えた取り組みを以下の四つの記事にまとめた。
第1章では東京海洋大学の清水 悦郎教授に主に国内における自動運航船の最新動向や社会実装への期待や課題点について整理頂いた。第2章、第3章では、国外での自動運航船の動向を知って頂くことを目的に、JETROシンガポールの塩入 隆志様にアジア(シンガポール)の動向を、JETROロンドンの森 裕貴様にはヨーロッパの動向を紹介頂いた。次に、自動運航船を実用化するためには安全性を評価し、規則を整備することが重要である。そこで第4章では、日本海事協会の山田 智章様に自動運航船関連技術に対する安全性評価について解説頂いた。
造船業の競争が激化している中、日本の造船・舶用工業の競争優位分野を確立するうえで自動運航船技術の実用化は大きな意味を持っている。本特集が読者の皆様の自動運航船技術の最新動向を知る一助になれば幸いである。