日本船舶海洋工学会 学会誌編集委員会
船舶で旅客・貨物などを運ぶ海運の発展、繁栄は航海の安全の上に成り立つため、安全を脅かす海難については、古くから様々な対策が取られており、今後もより一層の取り組みが必要である。近年、地球温暖化問題をはじめとする環境問題への関心のさらなる高まりに伴い、海難による地球環境への影響にも注目が集まっている。特に、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大によるコンテナ物流の逼迫で海上物流への世間の関心が高まったところに、インド洋のモーリシャス沖における貨物船の座礁事故、スエズ運河における大型コンテナ船の座礁事故が起きたことで、海上交通における温室効果ガスの削減だけでなく安全についても、社会の関心、要求はより高まることが予想される。社会における様々な分野で安全への関心が高まっているこの機会に、海難の現状とその対策に関する理解を深めることを目的にこの特集を企画した。
はじめに、海難防止の制度や法的裁定制度の概要として、タイタニック号の事故を契機としたSOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)の採択やIMO(国際海事機関)設立、運輸安全委員会設置の経緯、運輸安全委員会における事故調査やその活動について、東京海洋大学の庄司 邦昭名誉教授にエピソードや例を交えながら紹介して頂いた。続いて、日本の周辺海域における海難の現状について、事故の種類や原因を海上保安庁交通部から詳細に説明して頂いた。さらに、運輸安全委員会における事故の原因究明に対応するために海上技術安全研究所に設立された「海難事故解析センター」の役割と取り組みについて、頻度の高い種類の海難に対する、事故解析手法と回避策の概要を具体的な例を交えながら、海上技術安全研究所の山田 安平氏、田口 晴邦氏、三宅 里奈氏に紹介して頂いた。
次に、海難防止の取り組みの例を紹介する。はじめに、海難防止のための航海機器の現状、航海機器の取り扱いや操船方法に関するシミュレータや実船による教育訓練について、東京海洋大学の國枝 佳明教授に広く紹介して頂いた。続いて、海難にも至る機関事故を防止するための機器モニタリングシステムについて、モニタリングの概要だけでなく、近年の先進的な取り組みとして、AI(人工知能)を活用した機器モニタリングシステムを(株)ClassNKコンサルティングサービスの山元 建夫氏、(株)IHI原動機の西岡 康行氏に紹介して頂いた。
最後に、経済的な担保により海上交通の安全の実現に必要な保険制度について、海上保険の種類と概要を保険の対象と損害の種類で整理しながら、保険会社の役割の説明と共に、損害保険ジャパン(株)の中屋 知久氏にわかりやすく紹介して頂いた。
本特集が、海難の現状とその対策に関する、読者の皆様の理解の一助になれば幸いである。
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