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シリーズ:学生突撃レポート

Vol.016 寺田倉庫株式会社

1.はじめに

写真1 寺田倉庫株式会社事務所

寺田倉庫株式会社は東京都品川区東品川に本社を構え、筆者の専攻する海洋建築を取り入れた天王州の都市開発を手掛けている。2006年には「運河ルネサンス計画」の第1号プロジェクトとして水上ラウンジ "WATERLINE" を誕生させた。

筆者はこうした水辺と都市を結ぶウォーターフロント開発を考究する海洋建築工学を専攻している。海洋建築工学とは、水辺を安全かつ快適な場として利用するための「地域」の視点と、人が住み、働き、憩う場所をデザインする「建築」の視点の双方に立脚し、従来の陸上の建物のみに留まらず、さまざまな可能性を考究する学問である。しかし、水上構造物の建造には技術的な課題以外にも多くの障害が存在し、簡単な事業ではない現状がある。そんな多くの障害を越えて完成させたWATERLINE は海洋建築の先駆け的事例として現在も注目を浴びている。

本記事では、民間による東京都初の水上利用開発プロジェクトとなったWATERLINEを中心に、天王洲アイルで水辺と都市を結ぶウォーターフロント開発を手掛ける寺田倉庫株式会社について紹介する。

2.業務概要

写真2 倉庫をリノベーションしたレストラン

2.1 会社概要

1950年に設立された寺田倉庫株式会社は、1952年に農林省や運輸省の許可を得て倉庫業をスタートさせた。1956年には、当時、保税倉庫街であった品川区の天王洲周辺地域へ本社を移し、政府米を保管する倉庫業を多く営んでいた。業界初となる倉庫へ空調を導入するなどの試みに積極的に取り組むことで大きく成長を遂げた同社は、高度経済成長期を経た1973年に宅地建物取引業としての営業許可を受けた。その後の同社はSPACE INNOVATORとして空間を演出する不動産事業で天王洲アイルの再開発に大きく貢献した。高層ビルが立ち並ぶ天王洲アイルにあえて低層の建物を残した"ボンドストリート"と呼ばれるこの元倉庫街の街路には、倉庫を単なる保管場所ではなく、"T.Y.HarborBrewery"という名のレストランとして天井の高い快適空間を活用している。T.Y.HarborBreweryは、アメリカ西海岸のブルワリーレストラン(醸造所に併設されたレストラン)をモデルとして1997年4月に開業し、水を目の前にして食事できる空間として、多くの顧客を惹きつけてきた。こうした水辺の開発から『もっと水と陸をつなぐような空間を作れないだろうか』という発想を得て、船舶と建築の融合を目指した水上レストランこそが"WATERLINE"である。

2.2 施設概要

写真3 WATERLINE平面図

英語で「喫水線」を意味する"WATERLINE"と名付けられた施設は、着想から4年近くが経った2006年のバレンタインデーの夜、天王洲で開業された。「水に浮かぶモダンな部屋」をコンセプトとし、花火の打上げなどに使う台船が下部構造に用いられている。世界遺産でもあるミース・ファン・デル・ローエの「ファンズワース邸」をモデルとした上部構造は、広いガラス面によって壁面が構成され、これまでにない空間を演出している。また、船での来店を楽しめるよう桟橋が設置され、それまでの東京都にはなかった一般船の一時的な係留を可能にする環境整備が行われた。

2.2.1 プロジェクトに関する諸元

  • 位置:東京都品川区東品川2-1 地先
  • 事業主体:寺田倉庫株式会社
  • プロジェクトの総事業費:約5億円(WATERLINE施設部分)
  • 活用した公的事業および公的支援:中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律第9条第1項の適用
  • 主要資金調達手法:上記、経営革新に係る計画の適用による低利の借り入れ

2.2.2 土地に関する諸元

  • 土地所有者:陸域 寺田倉庫(株)、水域 東京都港湾局
  • 土地の利用に関する許認可等:水面の利用(占用)を東京都より借地する形で行う
  • 水域利用料(借地)1m2当たりの月額料金は、水域占用場所の近くにある土地の固定資産税評価額のm2単価に0.0625%を乗じた額
  • 水域占用期間:3年間(更新可能)
  • 土地利用面積:水域 1441.5m2
  • 周辺地価水準:670千円/m2(平成19年路線価評価額)

2.2.3 建物・施設に関する諸元

  • 建物面積:建築面積:226.85m2(WATERLINE施設部分)、延べ床面積:213.31m2
  • 主要施設の内訳:飲食店舗
  • 地域地区:商業地域

2.2.4 管理・運営に関する諸元

  • 管理運営主体:寺田倉庫株式会社
  • 管理運営の区分:施設持主/寺田倉庫(株)、施設管理/寺田倉庫(株)テナント/TYエクスプレス(株)

3.施設見学

揺れるデッキからアプローチするWATERLINEは乗ってしまえばほとんど揺れを感じることはなく、近くを船が通った時の航走波でやっと浮体の上にいることを実感できる程度である。ガラス張りの壁面構造は『もっと水と陸をつなぐような空間を作れないだろうか』という初期の構想を見事に体現している。

写真4 WATERLINEエントランス
写真5 WATERLINEからの景観
写真4 WATERLINEエントランス
写真5 WATERLINEからの景観

4.インタビュー

東京都初の水上レストランを完成させるまでの経緯をお聞かせください。
まず、当時の東京都知事である石原慎太郎氏の発案でスタートした運河ルネサンス構想がWATERLINEをスタートさせる突破口となりました。この構想によって、運河ルネサンス推進地区に指名された地区では、行政の水域占用に関する許可要件が緩和されるため、地元の住民や企業の合意を得ることが水域占用の最も大きな条件となりました。特に天王洲周辺の運河には古くから漁業や屋形船等を生業としてきた企業も多く、プロジェクトの説明には十分な時間をとりました。WATERLINE建設による周辺地域や水域利用者に対するメリットを明確に示すことで合意に至りました。
実は施工時にも大きな苦労がありました。というのも、WATERLINEは進水させることを考えて造船所で建造を行いました。しかし、ある程度であれば甲板のゆがみを許容できる船舶の施工とは違い、建築物の建造は水平・鉛直両方向で基準以上の精度が求められました。特に直線的な形状は溶接によるゆがみの関係から、その建造は難しく、WATERLINEでは何とか歪み±4mm以内を達成できました。
写真6 WATERLINE建設当時の写真
日本では事例の少ない水上構造物について、法律や税務等での苦労話をお聞かせください。
関連法規の重複や水上構造物に関する包括的な法制度が存在しないことにより規制がとても複雑でした。水上レストランをどう定義して、どこの関係官庁のどの検査を受けるべきか、その検査に漏れは無いか、などの確認や手続きに膨大な時間がかかり、人件費等のコストアップに繋がってしまいました。また、WATERLINE は台船部分である下部構造に船舶安全法、レストラン部分である上部構造に建築基準法や消防法、係留装置に港湾法などがそれぞれ適用されました。このような重複規制によって構造設計されたWATERLINE は構造上かなりオーバースペックとなり、コストも大きくなってしまいました。しかしながら、古くからこの地に根付き、昔ながらの倉庫空間を様々な手法で活用していた寺田倉庫だからこそ、このプロジェクトを成功させることができたと思います。
写真7 天王洲アイル
水上構造物をレストランとして利用する上で特別な工夫や考慮した点をお教えください。
WATERLINE は動揺を抑えるなど基本的に陸上のレストランと変わらない性能を持つ構造を実現するため、工夫を施す必要がありました。その大きな工夫の一つが、現在はバックヤードとなっている下部構造に固定バラストを設置することでした。通常は水の出し入れで重心や喫水の調整を行うバラストを、コンクリートという固まった状態で区画ごとに厚さを変えるなどの工夫を施し配置することで、WATERLINEを安定させています。WATERLINEが曳航中に水門を通る際に、その高さを乾舷が下回ったのも固定バラストによるものでした。それでも、大潮の深夜を狙ってやっとの高さだった事実からも、この固定バラストなしでは今の場所への設置は成しえなかったといえます。このような施工後の融通が利かない点もWATERLINE ならではの苦労でした。
写真8 固定バラスト
寺田倉庫株式会社はWATERLINE 建造を経て、水辺の空間利用をどのようにお考えですか?
寺田倉庫としては、水辺を利用した空間の演出がどれだけ有効であるかをT.Y.HarborBreweryやWATERLINEであらためて認識しています。この2つの施設だけでも年間約50 万人の集客があり、さらに水と陸をつなぐような空間を作れないだろうかと新しい構想を日々検討しています。また、天王洲は周りを水路に囲われ、その水路を屋形船等が利用しています。そうした整備された水路に隣接して倉庫が立ち並んでいるわけですから、船から見る景色や水辺の景観をかなり意識しています。特に対岸からの景観は、水上から見た景観と近いものがあり高い空間価値を演出していくポイントになっています。
写真 9 対岸から見た WATERLINE
しかし、日本の水辺は権利や法などの規制が多く、誰もが簡単には活用できない現状があります。これは、建築と船舶の重複規制など法の整備が十分でないということ以外にも、 護岸の柵設置やボードウォークの整備等にかかるコストを背後地地権者が負担しなければならないことも大きな障害のひとつであると考えています。特に民間企業は利益を意識して事業を展開しなければならないので、コストのかかる事業には手を出しづらい現実があります。実際、当初の計画では、水上ラウンジと水上レストランの2つを建造する予定でしたが、採算性からラウンジ船を断念しました。水上利用というのは、それだけ参入障壁の高い事業であると言えます。
ただ、寺田倉庫としてはそのような高い壁を何とか乗り越えて完成させたWATERLINEを、その後の水上構造物の先駆けとして、水上構造物建造に大きな影響を与えた事例であると誇りに思っています。これからも空間の開発を通して新たな可能性を拓いていきたいと思います。

5.おわりに

写真10 Tビル前にて(左から:柴田様,平林様,著者)

今回の取材を通して、寺田倉庫がWATERLINEという水上構造物を誕生させるため、真摯に物事へ向き合い、発想を実現していくその実行力にとても感銘を受けた。その姿勢を尊敬し、今後の活動に活かしていきたい。また、筆者自身が大学院で海洋建築を専攻していることもあり、今回の取材は学ぶことがとても多く有意義な時間を過ごすことができた。今後は、筆者自身も寺田倉庫と共に海洋建築工学の発展に寄与していきたい。

謝辞

本記事の取材にあたり、大変お忙しい中、インタビューと施設見学に快く応じて頂いた柴田 亮様ならびに平林 浩様、畠山 滋二様に心より御礼申し上げます。長時間の取材にご協力頂き本当にありがとうございました。また、取材の機会を与えて頂きました日本船舶海洋工学会ならびに編集委員会委員各位に深く御礼申し上げます。

星野(ほしの) 智史(さとし)
日本大学大学院理工学研究科
海洋建築工学専攻

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