筆者らは学部授業で船舶製図の際に参考とした展示用模型や、卒業研究や学生実験で使用した実験用模型など、大学生活を通して船舶模型に触れる機会が多かった。また将来造船業に携わっていこうと考えており、ものづくりに携わる方々がどのような理念で、どういった点を工夫してものづくりを行っているのかに関心があった。
そこで、今回は長崎県西彼杵郡時津町において、実験用、展示用船舶模型の製作を主力事業としている有限会社宇宙模型を訪問し、船舶模型の製作過程を取材させて頂いた。本記事では船舶模型の製作過程における工夫や特徴などについて紹介する。
宇宙模型は1972年に長崎県長崎市本原町において、当初はプラモデルなどの販売を行うホビーショップとして開業したが、実験用船体模型製作の依頼を受けたことをきっかけとして工業用模型の製作に取り組み始めた。1987年に西彼杵郡時津町野田郷に移転してからは、模型工房とホビーショップを併設して営業している。
工業用模型製作の事業内容としては、展示用模型、実験用模型、ジオラマや開発品、試作品の模型製作等を行っている。
造船業界には新造船の引渡し時にスケールダウンした模型を船主に贈呈する慣習があり、展示用模型製作部門ではこの模型を国内造船所から受注し、製作している。過去にはPCTCやケミカルタンカーなどの貨物船や、内部を緻密に再現した客船の模型の製作実績がある。
主力事業である実験用模型製作部門では、推進抵抗や運動性能などの確認のために行う水槽実験において使用される精度の高い船体模型を製作している。船体の材料としては木、ウレタン、FRPがあり、全長8mまでの模型を製作している。
これら模型製作において培った技術を活かし、都市開発などの構想を立体的に表現するジオラマの製作も行っている。過去には長崎県の五島地区で展開されている観光事業で地域活性化を目指すプロジェクトの構想ジオラマを製作した。また、新製品の試作品や津波シェルタ、風力発電機の展示用モデルなどの製作実績を持つ。
取材当日はガスタンカーの展示用模型と全長約6mの実験用模型の製作風景を中心に紹介して頂いた。
展示用模型は主にラインズやCADのデータを基に作られる。まず初めにこれらの提供されたデータを3Dソフトによって立体的なデータに加工する。そこから模型用の図面を製作し、船体や上部構造物などの部品を製作してゆく。時には造船所に出向いて取材を行い、実船の写真から配管の配置などを模型で再現することもあるという。
船殻は耐久性に優れているFRPによって作られる。一般にFRPによって船殻などを製作する場合は、まずオス型を製作し、それを石膏などで型取りメス型を作る。続いて、このメス型にグラスファイバーなどを貼り付け、樹脂を流し込むことによりFRP製の部品を製作する。しかし、宇宙模型では樹脂を削りだしてメス型を製作することでオス型を製作する工程を無くし、短工期かつ低コストでの模型製作を可能としている。
上部構造は様々な素材を組み合わせて作られている。例えば図3のガスタンカーのタンクカバーを製作する場合、中央の平行部はアクリル板を組むことで、端部の曲がりを持つ部分はケミカルウッドという樹脂の一種を塊から削り出すことで製作する。
配管や手すり、各種機械などはエッチングパーツの組み立てや3Dプリンタにより製作するという。
図4のようなエッチングパーツは化学的処理により金属板を複雑な形に切り出し、それを組み上げて立体的な部品を製作するもので、強度に優れるという特徴を持つ。
また近年は3Dプリンタの導入により、図5に示す甲板機械のような複雑な立体構造の部品でも比較的容易に製作することが可能となった。
展示用模型は見栄えを重視するため、異なる特性の材料を組み合わせて製作した際の色ムラや質感の差が大きな問題となる。これを避けるため、細心の注意が必要となる表面処理や下塗り、仕上げ塗りなどは人の手により行われていた。プラモデル好きの筆者としては心をくすぐられるものが溢れた魅力的な製作現場だった。
実験用船体模型はFRP 以外に木材やウレタンで製作されている。
宇宙模型では木材によって最大8mまでの模型の製作を行っている。木製の模型は各水線面形状に切り出した板を図8に示すように高さ方向に積み上げ、接着した後、外側を滑らかに削り船体形状を製作する。その後防水と漏水対策を施し、変形防止のために表面を樹脂で固めて仕上げる。材料とする木材には軽量なスプルース材が使われる。また、バルバスバウなど特に精度が要求される部分はケミカルウッドの削り出し、船尾フィンなどの細かい付加物は3Dプリンタで製作していた。
軽量で製作コストの低いウレタン製の模型は、ベニヤ板などで組み立てた箱の周りにウレタンの板を貼り付け、ウレタンを削ることで船体形状を作る。その後表面に防水のために樹脂を塗り、外側を滑らかに磨き上げて仕上げる。船体形状を機械で削り出すことで手作業を減らすことが可能なため、短時間での製作が可能ということであった。見学時にも社員の方がウレタン製模型の磨きあげを行っていた。樹脂の粉が舞う中、己の腕のみで表面をさわりながら船体を磨きあげていく様は非常に格好よいものであった。
「魅せる」ことが目的の展示模型とは違い、実験に「使用する」ことが目的である実験模型は、模型製作というより大工作業といった印象を受けた。
今回の取材では、宇宙模型がホビーショップに始まり、展示用船体模型から実験用船体模型の製作を行い、これから実際に人が乗ることのできるシーカヤックの製作と、次々に新しいことに挑戦していく企業姿勢に感銘を受けた。
社員の中には、航空機に変形するロボットの模型のコンテストで受賞した経験を持つ方がおられるばかりでなく、プライベートでのプラモデル製作を趣味にしている社員も多いとのことで、まさしく趣味と実益を兼ねた仕事というものに羨望の念を感じた。
また、今回の取材を通して筆者は模型製作魂を大いに刺激され、新しいプラモデルを注文することを決心しました。
この度の見学においてはお忙しい中、工場見学やインタビューに応じていただいた小川拓実様をはじめ、有限会社宇宙模型の方々に大変お世話になりました。ここに深く御礼申し上げます。また、このような機会を与えて下さった日本船舶海洋工学会ならびに編集委員各位に深く御礼申し上げます。