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シリーズ:造船所のかっこいいオヤジ

Vol.029 吊環屋の思い

1.ブロックの動きを操る

佐世保の恐竜と称されるクレーン群

船はブロック毎に造られ、それを積み木のように組み立てていく。積み木なら人の手で簡単に持ち上げられるが、数百トンに及ぶ船体ブロックをクレーンを使いどの様に操るのか、皆さんご存知だろうか。形状が一つ一つ異なるブロックを吊り上げ、反転させ、次の工程にミリ単位で届ける技は正に空中パフォーマンス。造船所では日常的なこの作業を40年もの間一筋に見守ってきたオヤジの、誰よりも熱い仕事への思いを伝えたい。

オヤジは吊環業務に携わる自分の事を「吊環屋」と言う。吊環業務の具体的な内容は中組、大組、総組の各段階でブロックを吊り上げ、移動、90度起こし、180度反転させ本船へ搭載する為の吊環配置や吊り上げ要領を決定すること。ブロックの重量・重心を正確に算出し、種々の基準を満たすように決めていく。

吊環屋の仕事は地味で目立たない。ブロックを見ても数個の吊環がついているだけで難なく吊り上げられるのが当たり前。造船所の中にはこの仕事の存在すら知らない人もいるだろう。しかし数百トンものブロックを吊り上げる作業でひとたび事故が起こると人・物・会社への被害・損害は想像の出来ない程大きいものになる。オヤジはそんな最悪の事態を防ぐストッパーの役目も担っている。

2.吊環屋の思い

万が一にも事故があってはならない。安全に「うまく行って」当たり前。しかし一船全ブロックの中には、ワイヤーで操るには難しい形状のものもある。ブロックを目的通りに動かす中で「安全・補強コスト・現場の作業性」の三者が折り合い成り立つことを考えなければならない。これら相反する関係にある三者を、どの様にしてバランスさせるかが腕の見せ所だ。中でもブロック反転は空中で行うので時々刻々と姿勢・状態が変わり、三者の要因が複雑に絡み合い、悩まされる。難しい局面でも仕事に負けたくない。だから逃げずに知恵を出し、頭の中で汗をかき、四苦八苦しながらも結論を出す。その結果、現場はいつも通りスムーズに進み仕事は早く済む。こんな結果を見るのがオヤジのやり甲斐であり喜びである。

オヤジは40年近く一人で吊環業務を担当してきた。一人で行うにはあまりにも膨大な作業量に思える。だけどオヤジは手を抜かない。安易な選択をしない。だれよりも安全を気にしながら現場の負担を減らそうとしている。自分に厳しいその信念は一体どこからくるのだろうか。

身近にあるものでつくられた検討用の模型

オヤジは入社して直ぐ、クレーンの玉掛け員として現場に配属された。20キロを超えるシャックルを抱え汗だくになりながら玉掛け作業をする日々。図面にある吊環要領がどうも納得いかない。もっといい方法があるのではないかと思えてならなかった。1年間現場で汗を流した後、希望がかなって生産設計課に移り吊環要領を決める今の仕事についた。

当時は、生産設計課で吊環要領の作業者はオヤジを含めて6人だった。しかし間もなく造船不況で人が去り、最後は1人になり、全て1人で担当することになった。

更に、会社の設備投資によるクレーンの能力アップは、吊り上げるブロックサイズを大きくし、オヤジに新しい課題を与えた。安全の為には、効率化を目指す会社の上層部と本気で議論し、理屈で納得出来ない場合は強度解析屋ととことんまで話し合う。自分の考えに迷いが生じた場合は、最新の3D CADなどには頼らず、身近にあるもので模型をつくり確認した。気になることがあれば休日や夜中であろうと現場にでて現物をみた。一人で吊り方を検討し決めていくことや新しい試みに真正面から向き合うことができたのは,「技術では誰にも負けない。仕事から逃げない」という信念があったからだ。

今では同世代は少なくなり、一回り二回りも年の離れた後輩ばかり。40年間という長い月日が過ぎた今でも、ブロックの動きを操る吊環業務への愛着は変わらない。

3.これからの人達に向けて

次世代への指導にも熱が入る

これからの人達に対するオヤジの思いも熱い。近頃の若い人達は一見しておとなしく優しい者が多いように思う。逆に言えば意欲やガッツが控え気味に感じる。しかし企業人として給料をもらう以上はプロなのだから、それなりの仕事が出来るようにならなければならない。仕事を早く覚える為には「何年で一人前になる」という目標を持つ事が大事。そうすると人一倍努力をしなくてはという意識を持てるようになる。この意識や心構えが日々の仕事や勉強に取り組む姿勢につながる。いずれ自分が中心となって大きな仕事を背負うことになる。その時のことを見据えて今の仕事に取り組んで欲しい。

今も次世代を担う若手を一人前にすべく熱い心で指導するオヤジの正体は、佐世保重工業(株)の生産設計課で働く大森政治さん。1971年の入社以来、吊環業務一筋。決して仕事に妥協しないオヤジの事を、かっこいい先輩として誇りに思う。

田代(たしろ) (まなぶ)
佐世保重工業(株) 新造船事業部
設計部 船殻設計課
係長
船殻設計

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