自動運航船に関する研究開発は我が国だけでなく国際的に進められており、そのステージは既に競争領域にある。この中で船舶操縦性能に関する技術開発として自動離着桟が挙げられるが、離着桟操船では低速時特有の複雑な流体力特性やサイドスラスターによる流体力等、多くの複雑な外力を操縦運動モデル上で考慮する必要がある。更に、従来から行われている計画速力付近の操縦性能研究と比較すると研究例は少ない。このため、船舶主要目から流体力微係数を決定する簡易推定手法である貴島の式のように、離着桟操船時の操縦流体力特性を簡易推定できる手法があれば自動離着桟技術の検証に有用であり、自動運航船技術の開発と将来の汎用化に貢献できる。
そこで本研究委員会では、MMGモデルによる操縦運動予測を前提に、港内操船時の外力モデル中の係数・定数等の流体力特性を簡易推定する手法の調査を行い、国内技術者向けの参考資料とすべく、公表を前提として調査成果を技術資料として纏める。同時に、例えば前進中のサイドスラスター挙動や特殊舵の流体力特性など、既存研究で検証が十分でない研究課題を抽出して次なる発展研究への道筋を定め、設置期間終了後の課題解決のための研究委員会立案を検討する。
離着桟操船シミュレーションをするためには、真横曳き状態で船体に作用する流体力、プロペラ逆転時に作用する不平衡流体力、港湾内の浅水影響や側壁影響、サイドスラスターによる流体力、等の計画速力から港内速力で操縦運動する船舶では考慮されない各種流体力及び特有の傾向をモデル化する必要がある。これらのモデル化のため、慣例では拘束模型試験を実施して計測データ解析を行うが、模型船製作コストや人的労力の観点からは必ずしも実用的ではない。また、近年ではCFDを用いた操縦流体力特性の解析も研究開発が進んで実用段階に近いが、MMGモデルのモデリングに必要な工数の全てを計算することは現状では模型試験と同等の日数を要する。
本研究委員会立案の最終目標は、離着桟時操縦運動を予測するための外力モデル中の"全ての"係数(流体力特性)を船舶主要目等のなるべく最小限の情報から決定できる簡易推定手法を構築することにある。これら簡易推定手法による操縦運動予測の精度は従来の感覚では模型試験やCFDによる個船ごとに構築されたモデルに比べると劣る可能性はあるが、自動離着桟アルゴリズムを実船で実証する前段階の予備的検証には十分利用可能である。そのため、前述のモデル構築のための工数やそもそも研究例の不足を考慮すると、本委員会で目的とするモデル構築のための簡易推定手法の調査及び現状課題抽出は意義があると言える。
日本船舶海洋工学会においても港内操船及び離着桟操船時の操縦運動予測に関する研究は近年増えつつある。本委員会は国内の公的機関及び造船所の本テーマに関係する研究者や技術者をメンバーとして、協調領域の課題を推し進めることを意図したものである。
また、IMO等の国際議論の場において、自動運航船の自動操縦アルゴリズムの安全性検証のための操縦運動予測手法が議題に上がる可能性は高い。よって、欧州等の海外に対抗するため、日本としても国内研究者及び技術者を中心に共通認識を形成しておく必要はあり、本委員会はその形成の場の一つとなる。
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