海洋再生可能エネルギーに関する研究は世界的に活発であるが、ごく一部をのぞき、商用化までは到達していない。その一つの要因として、水槽実験での性能から推定される実海域での性能と、現実の実海域操業実験で得られる性能に少なからぬギャップがあることが挙げられる。その一方で昨年度まで実施されたS-13 海洋再生可能エネルギー水槽実験方法検討委員会の調査において、近年実施されている水槽実験では、実機に対して数分の1の縮尺模型を用いた全体システムに関する水槽実験よりは、ある程度の縮尺を有しながら、システムの一部の機能検証にターゲットを絞った水槽実験が多く行われていることが把握されている。これは、水槽実験において水槽の造波・曳航性能・大きさからしかし、波浪発電においてPTO機能(が少なくともダンパーとしての機能)が全体応答に与える影響は相対的に大きく、機能検証を目的とした縮尺模型を用いた水槽実験でもPTO機能を何らかの形でモデル化する必要がある。そこで、本研究委員会では特に波浪発電について、入力エネルギーから発電エネルギーに至るPTOシステムのエネルギー伝達の構成要素とその伝達効率に関して項目を整理し、それぞれの縮尺影響について、実験的に調査する。
再生可能エネルギーの水槽実験に関する研究は、多くは従来の船舶海洋構造物に関する水槽実験に準拠する形で実施されてきている。しかし、再生可能エネルギーによる発電では、システム内に多数存在するダンピング・エネルギー散逸影響の精確な見積もりが重要で有る。特に発電システムの構成要素の中には、複数の媒体(空気・水の連成)やそれらの粘性影響といった複数の相似則が存在する。それらの連成や入力エネルギーの非線形性が実験結果に影響を与えることから、エネルギー吸収と散逸のプロセスを分離して性能評価することが求められる。そこで、同一の実機を想定した、複数の縮尺模型による水槽実験を実施し、エネルギー散逸過程とその縮尺影響について精査すると共に、水槽実験において発電性能を評価するにあたっての留意点を抽出する。
この数年、海洋再生可能エネルギーに関する水槽実験手法に関して、ITTCやIECにおいてガイドラインの構築などが実施されている。議論が進行中の最新のガイドライン案の中では、従来は"適切な実験を行う"という程度であったものが、TRL(商用化までの技術水準レベルを示す指標で1~9段階で定義される)を想定しながら、概ね実験ステージを3段階に分け"それぞれのステージに応じた模型の縮尺や目的に応じて適切な実験を行う"と、縮尺による影響に注意を喚起する記述になってきている。逆に言えば、水槽実験を通して発電量評価を行うための実験手順は確立しているとは言えない。
そうした背景のもと、今回の一連のシリーズ実験を実施することで、より精度の高い実験手法、実機性能の推定に実験結果をどのように利用することが合理的であるかを議論する。この議論は、各種のガイドラインへの提案に反映させる為の資料となり、海洋再生可能エネルギーの合理的な評価と発展に、大いに寄与する。
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